忖度
水竜が出現した以外は、そこまで大きな魔物も出ずに順調な船旅となりました。けれどやはり時間はロスしてしまいましたけれど。
「と、いうわけですので、今後は魔物の活動が活発になると思いますわ。先に報告をしていなくてごめんなさい。こんなにも早く水竜レベルの魔物が来るとは思っていませんでしたの」
「ふっ、それは建前ってやつだな? どうせ言ったら出航が取りやめになると思ってたんだろ?」
私たちは港に着く前に船長の元へ行き、事情を説明しに行きました。勇者一行だとバレた以上、そして危険に晒してしまった事から謝罪も含めて話した方が良いとみんなで決めたのです。
けれど、船長の鋭い指摘にフランチェスカは息を飲みました。
「図星か? ダメだな、こういう事はちゃんと本音で言わねぇと」
船長の目付きが鋭くなりました。雲行きが怪しいですね……いくら勇者一行といえど、大事なことを黙っていたわけですから。
『僕が行くよ』
そんな時、オースティンが現れました。そうですね、頼めますか?
『お任せあれ』
オースティンはニコリと微笑むと、まるで散歩でも行くかのような足取りで支配者の席へと向かいました。
スキル【スピリットチェンジ】発動しました。
身体の使用者がサナからオースティンへと変更しました。
チェンジしたオースティンは、さっとサナの長い髪を後ろに一纏めに結いました。それから自然にフランチェスカの前に出ると、ニコリと柔和な笑みを船長に向けました。
「さすがは船長。その通り、知っていてあえて黙ってたんだ。本当にごめんなさい」
突然前に出てきたオースティンに、三人は一瞬呆気にとられるも、恐らくチェンジしたのだと察した様子でした。フランチェスカとエミルが背後で今は誰なのかとナオに確認しているのがわかります。
「けど、一つ教えてくれない? もしも先に聞かされたとして……船長は出航を見合わせた?」
微笑みながらそう告げるオースティンに、船長は目を丸くしていましたが、面白そうに口角を上げました。
「いや、しないな。既に遅れてたから無理にでも出航してたぜ」
「なら、こちらが言い出さなかったのはむしろ好都合だったんじゃない?」
オースティンは人の良い笑みを崩すことなく続けます。
「話を聞いてしまえば、見合わせを考えざるを得なかったでしょ? しかも相手は王女。結果としてこちらも船を出して欲しいという意見で互いに一致してたから良かったものの、紋章を見せられて意見が違っていれば……揉めてたよね」
「もしもの話をしたって仕方ねぇだろうよ」
「そりゃそうだ! じゃあ建設的に、この先の話ならどう?」
オースティンのイタズラっぽい顔に、船長は一瞬止まり……それから悪い笑みを浮かべます。
「船上での戦闘に、国への報告を急いだ僕たちは、慌てて下船。事情を船長に話す事をうっかり忘れてしまったんだよね」
「うっかりか。勇者といえど人間だからな。仕方ねぇ」
「後になって気付いた僕らは、冒険者ギルドに行って実力者たちに依頼を出すんだ。あちらに向かう予定の冒険者に、今後はなかなか向こうに行けなくなるかもと言えばむしろたくさん集まったりして」
「おお、船の守りも万全だな」
船長とオースティンはガシッと握手を交わしました。互いに良い笑顔です。
「ああ、そうだ。僕たちは船長に、後どのくらいで着きそうか聞きに来たんだった」
「おお、そうか。正午は過ぎるがそう遅くはならねぇから安心しろ」
ありがとう、とオースティンは告げ、何食わぬ顔でこちらに戻ってきました。相変わらずにこにこと微笑んでいますよ。
「というわけで王女。街に着いたらすぐに冒険者ギルドに行って依頼を出そう。国王からの通達もそろそろ届く頃だよね? 次の便で最後、と言えば強力な護衛も集まるんじゃないかな?」
「わたくしに、国王の命令を無視して次の便の出航は見逃せ、って事ですわね……オースティン、貴方未来の宰相になりませんこと?」
引きつった笑みでそういうフランチェスカに、光栄だねと微笑むオースティン。彼は優秀でしょう? 弱いのが残念で仕方ありませんね。
「でも、水竜は大丈夫なのにゃ? また帰りに出くわしたら……」
「その可能性はあるよな。眠らせただけで倒したわけじゃねぇしさ」
それはそうですね。もっともな懸念事項です。けれど水竜は基本的に縄張りを持っていたはず。そこからはあまり動かないと聞きます。魔王の活動もまだそこまで活発になっているわけではありませんし、今のうちなら航路を変更すれば遭遇する確率はグッと減るかと思いますね。
「……ってジネヴラが言ってる」
「確かにそうですわね……では、我が国からも迎えの船を出しましょう。軍艦ですし、もしも水竜が出たとしても応戦出来るように」
「念には念を、だね。良いと思うよ」
航路については、船長もわかっているでしょう。海のことは私たちよりもずっと詳しいはずですからね。何も対策をしないわけがありません。ですので、私たちがやるべき事は、下船後になります。夜の戦いもあったことですし、今は休むのが良いでしょう。
「じゃ、僕は戻るよ。冒険者ギルドでの交渉が必要ならまた出てくるから」
「オースティン、助かる! でも無理はすんなよ?」
「ふふ、ありがとね、勇者」
オースティンがあまり強くないことをナオも聞いているからこその言葉でしょうが、オースティンは何とも微妙な表情ですね。彼にとって弱いのはコンプレックスになっているようですし。私も今後は発言に気を付けようと思います。
スキル【スピリットチェンジ】発動しました。
身体の使用者がオースティンからサナへと戻ります。
「あ、あれ……?」
今回、サナは知らない間にチェンジしていたようですね。心の中の世界に来る時と来ない時の違いがいまいちわかりませんね……
「さ、着くまで部屋で休もうぜ。腹も減るし」
「エミルは眠いにゃー!」
「サナも部屋で休みましょう?」
首を傾げるサナに、それぞれが声をかけます。サナはまたいつの間にかチェンジしていたのだろう、と一人納得し、みんなの後に着いて部屋へと向かいました。三人も扱いに慣れてきていますね。頼もしい限りです。
こうして、四人は一つの部屋に集まってそれぞれ一休みしました。せっかく部屋が二つあるというのに……何となく、一緒の方が落ち着くのでしょうね。
船は問題なく進み、もうすぐ港に着くとの連絡が入りました。四人は簡単に身支度を済ませて下船の準備をします。
「はぁ、やっぱりお腹空いたにゃぁ……」
「昼食を摂るには時間も中途半端でしたからね。せっかくですもの、街で温かい食事を食べましょう?」
ぐぅと鳴るお腹の虫に眉尻を下げるエミルにフランチェスカが声をかけています。
「うぅ、温かい食事って聞いたら一気にお腹空いてきた……」
それを聞いていたサナのお腹の虫も抗議を始めたようですね。
「街に着いたらまずは冒険者ギルドだな。ギルドによっては中に飯屋が入ってるし、なくても近くにはあるだろうしさ」
「依頼も出さなければいけませんものね。それに、国への手紙もギルドならすぐに出せますから丁度いいですわ」
宿屋はその後すぐに探す事にして、四人は下船後の予定を確認しあいました。





