冒険者ギルド
ようやく、船が港に到着しました。ここからは他国に入りますので、混乱を避けるためにもフランチェスカがナオに認識阻害の魔術をかけます。金髪はともかく、紫の瞳はすぐにそれとわかって人が集まりかねませんからね。
パッと見ただけでは気付き難いのですが、目を合わせればすぐにバレてしまいます。無駄に顔だけは良いですし。これまでは魔力温存のために、あまり顔を上げない事で対処していたようですが、人の多い他国では気を付けなければなりません。
「よし、早速冒険者ギルドに行こうぜ」
「依頼を出して、お昼ご飯にゃっ!」
エミルが張り切って先頭を歩きます。場所を知っているのでしょうか?
「エミルはなんかこういう時の勘が働くんだよな。野生の勘? 不思議と目的地に着くんだよ」
「獣人はあんまり、迷子にならにゃいにゃ。匂いもあるし、何となくわかるんにゃ!」
それは初めて知った獣人の特性ですね。では、安心してエミルに着いて行くとしましょう。
「な、なんで走るのぉ?」
ただ、少々急ぎすぎではあるようですけどね。
さすがはエミルと言うべきでしょうか、迷う事なく冒険者ギルドに辿り着いたようです。サナの息は上がっていますが。
「賑やかにゃあっ! それに、この街は獣人がたくさんにゃ」
「カルニア国は獣人への偏見はほとんどありませんから。実力さえあればどんな者でも良い仕事に就けるのですわ。特にこの街、ユーファリアは実力者揃いで有名ですの。力試しのためにこの街へ来る者も多いそうですわよ」
つまり、冒険者ギルドにもレベルの高い者が多く集まるということですね。ということは、その他にも自分の実力を過信したお馬鹿さんなどが集まりがちということです。見目のいいナオやフランチェスカ、小さなサナと獣人エミルのパーティーは目を引きやすいだけに、変な輩に絡まれる事を覚悟しておく必要がありそうです。
「よし、早速依頼を出しに行こうぜ」
そう言ってギルドの戸を開け、四人は冒険者ギルドの建物内へと足を踏み入れました。
案の定、というべきか、受付まで足を進める四人へと注目が集まり始めました。実力を試しに来た他所からの目線や、この街に拠点を築く本当の実力者の目線。品定めされているのがヒシヒシと伝わってきます。サナは感じているかわかりませんが、他三人はそれに気付いているでしょう。
けれど、一々反応していては良くないこともわかっています。四人は余所見を一切せずに真っ直ぐ受付へと向かいました。揉め事を起こすのは得策ではありませんからね。
「何しに来たんだぁ? お前らまだ子どもだろ?」
しかし、そう簡単にはいかないようです。一人の体格の良い男性が声をかけてきました。随分と強面で筋肉質ですが、ナオは動じることなく笑顔で答えます。
「依頼を出しに来たんすよ」
「ほぉ、なるほどな。受けに来たわけじゃねぇのか。そりゃそうか! お前らじゃ小遣い稼ぎ程度の依頼しか出来ねぇだろうしな!」
ガハハと笑いながら言うその声は大きく、ギルド内にいる人たちに丸聞こえでした。あちらこちらから、可哀想だろだの、こんなガキがだのという声が聞こえてきますね。
「でもいっちょ前にパーティー組んでやがるな? 冒険者見習いってとこかぁ?」
「いえ、俺たちは冒険者ではないっすね」
「でもここらじゃ見ない顔だ。女三人、男一人で旅か? おいおい、大丈夫かよぉ?」
「っかー! ハーレムかよチキショー!!」
見慣れない若者パーティーが気になるのでしょう。彼らは好き勝手に色んなことを喋ります。やれやれ、面倒臭いですね。
「……依頼出したいんで、失礼するね」
そんな彼らに対し、特に表情を変えずにそう告げたナオ。相手にするだけ無駄だとわかっているのでしょう。そのまま受付へと向かおうとした私たちですが、彼らはそうさせませんでした。最初に声をかけてきた体格の良い男が、ナオの肩を掴みます。
「どんな依頼出すんだぁ?」
「……それは受付で話すから。ここで話す必要ないでしょ?」
「んなこたぁねぇさ。今、ちょうど注目を浴びたんだしよ、優しい冒険者がその依頼を受けてくれるかもしんねぇぞ?」
どうやら、こちらの依頼も誰も受けないような大したことのないものだと思っていそうですね。思い込みは良くないですよ?
「いや、取り合いになるだろうからやめとくよ」
だからこそナオがそう言うと、ギルド内に一瞬沈黙が訪れました。それから一気に爆笑が起きたのです。
「ガーッハッハッハ! そんなみんなが取り合うような大層な依頼なのかぁ!?」
「おんもしれぇガキどもだぜ!」
「ありがとなぁ! 笑わせてくれてよぉ!」
ギルド内に笑いが溢れます。ナオもフランチェスカも無表情なままですが、エミルは不機嫌な顔になってきましたね……
「にゃ、にゃんにゃのぉ……!?」
「落ち着けエミル。気にすんな」
「そうですわ。放っておいて早く依頼を出してしまいましょう? それからランチですわよ!」
そんなエミルを宥めながら、四人はまた歩き出そうとしましたが……しつこいですね。彼らは四人の前に立ち塞がり、行く手を阻んできました。
「俄然、興味がわいたぜ! 聞かせてくれよ! その大層な依頼内容をよぉ!」
「……こっちにはここで話す理由がないんだけど?」
「ほぅ、睨みつける度胸もあんのか。面白ぇ」
はぁ、面倒な雰囲気になってきましたね。
『ごめん、遅くなっちゃった? 今出るよ』
そこへ、背後からオースティンの声が聞こえてきました。ああ、なかなか良いタイミングでしたよ。貴方が大丈夫なら、お願いします。
『ふふ、お任せあれ』
オースティンはふわりと笑って支配者の席へと向かいました。
スキル【スピリットチェンジ】発動しました。
身体の使用者がサナからオースティンへと変更されました。
無事にオースティンに変更されたのを見届けます。立て続けにチェンジですが、少し休憩する間もありましたし、どうにか持ってくれることを祈りましょう。
すると、予想外の出来事が起きていました。
『あ、あれ? 談話室?』
サナが、意識を失わずにここへやってきていたのです。眠っている時以外では初めてですね。混乱しているようなので声をかけましょうか。
サナ、たった今オースティンと交代したのですよ。
『あ、ジネヴラ。そうなんだね。うん、でも……何となく? 違和感があったからそれが交代する予兆なのかなぁ?』
違和感ですか。オースティンが支配者の席へ向かう感覚を無意識に感じ取っていたのかもしれませんね。
『それより! 今、変な人たちに絡まれて大変なんだった!』
サナはハッとして顔を上げました。大丈夫ですよ。オースティンに任せましょう。
『え……?』
彼は、こういう揉め事を纏めるのも得意なのです。さ、ソファに座ってください。オースティンなら問題なくこの場を丸く収めてくれますから。
『う、うん。わかった。信じる!』
サナは両拳を握りしめてからソファに腰掛けると、食い入るようにスクリーンを眺めました。素直で大変好ましいですね。
さぁ、私も成り行きを見守るとしましょうか。深く腰掛け直し、スクリーンを見ながら、私はオースティンが生まれた日のことを思い出しました。





