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スピリットチェンジ!〜訳あり少女は勇者の旅に同行します〜  作者: 阿井りいあ
第八魂 ノア

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浴びる視線


「ごめんなさい」


 サナは頭をしっかり下げて謝りました。こんなサナは初めて見ましたね……


「覚えてない、なんて……無責任だって私も思う。でも、本当に知らない間に起きたことだったの。ごめん」


 これまでも、サナは色んな人に責められてきました。怒鳴られ、時に殴られることだってあったのです。もちろん、その事を今は覚えていませんが……

 その度に、サナは反論することがありませんでした。黙ってその言葉を聞き、俯いて、何かを言い返すことは一度もなかったのです。


「だからね、私、もっと自分と向き合おうと思う。自分の事を知って、(スピリット)の事を知ろうと思う。そうしたらね?」


 そんなサナが、初めて弁明しています。彼らは、サナにとってかけがえのない存在となり始めているのですね。


「今回みたいな事を、減らせるんじゃないかって思うんだ」


 これまでフワフワと、周りに流されて自身の意思を示してこなかったサナ。ここへきて初めて、目標のようなものができました。


「で、でも、まだ迷惑かけちゃうかもしれないけど……」


 これまでのしっかりとした物言いとは裏腹に、自信なさげに目を逸らしてしまいます。でも、十分です。サナは自分の人生を歩もうとしているのですから。


「エミルこそ、ごめん、にゃ……わかってたのに、責めちゃったにゃ」

「ううんっ、危ない目に遭わせちゃったんだもん。怒って当然だよ!」

「けど、酷いこと言ったにゃ! 今回はエミルが悪いのにゃ!」


 そんな事ない、自分が悪い、と言い合うサナとエミル。そんな様子を見ていたナオとフランチェスカは突如ふっ、と吹き出して笑います。


「そこまで。二人とも悪かった、ごめんなさい、でいいじゃん!」

「そうですわ。今後は気をつける、で仲直りですわよ?」


 フランチェスカがサナとエミルの手を取り、握手をさせました。二人はほんのりバツの悪そうな顔を浮かべ、苦笑しながらごめんと手を取り合いました。


「けど、今回のことを踏まえてさ。俺たちはもっとサナの問題についてしっかり考えなきゃな」

「そうですわね。わたくしたちはチームですもの。一緒に考えて対策していきましょう? ね?」

「エミルも、考える! どこか、油断してたと思うにゃ……反省にゃ!」


 チームとして。

 仲間のフォローをするのは当たり前と受け止めてくれたようです。かつて、ここまで真摯に考えようとしてくれた人たちがいたでしょうか。そういうものだと理解をしてくれた方はそれなりにいましたが、歩み寄ろうと、助けてくれようとしてくれた人たちは初めてだと思います。

 今後も共に旅をするわけですから、一連托生の運命というのもあるとは思いますけれど……それでもそんな運命の下にある両親はアレでしたからね。


「みんな……本当に、ありがとう。私もがんばりたいから、何かあったら遠慮なく教えて欲しい」


 サナが再び頭を下げてそう告げると、三人は暖かな眼差しで頷いてくれたのでした。




「さ、早く他のみんなも起こしに行こう」

「ええ、このままでは船が流されるままですものね」


 ひとまず、水竜は撃退できた事と、危険が少ないように眠りの魔法を使わせてもらった、という事で話を統一させ、四人は船を駆け回って眠ってしまった人たちを起こして回りました。

 人々はすぐに状況を把握できていませんでしたが、危険は去ったのだと伝えれば概ね眠らされた事を気にする者はいなかったようです。


「勇者様の活躍をこの目で見たかったのに……!」


 このように悔しがる者が数人いましたけどね。

ナオはそっと目を逸らしていましたが。


 水竜が出現した事で、船は予定より遅れてしまったようです。午前中には着く予定だったのですが、どうもお昼を過ぎてしまうとのこと。渦潮でかなり流された気がしましたが、思っていたより流されていなかったようですね。これも勇者の幸運でしょうか?

 食料の備蓄が心許ないため、食事は朝食か昼食のどちらかのみ提供すると通達されました。あとは各自でどうにかしてくれ、ということですね。仕方ありません。


 四人は朝食を出してもらうことに決め、後は一部屋に集まって大人しく過ごし、街に着いたら何か食べようと決めたようですね。

 こうして今は船の食堂に座り、朝食中なのですが……かなり注目を浴びてしまっています。勇者一行の中に混ざる、見るからに一般人なサナは肩身の狭い思いをしている様子です。


「サナ、胸張っていいんだぞ? 俺たちは仲間なんだから」

「そうですわよ。エミル、貴女もですわ」


 人からの視線を集めることに慣れている二人は堂々としたものですね。けれどそうではない二人は分かってはいても萎縮してしまうというものです。


「仲間なのは、わかってるよ。ただ、注目を浴びるのが苦手なだけ……」

「そうにゃ。エミルとか、たぶんサニャもだけど。これまでの経験上、集まる視線のほとんどは悪意なのにゃ。どうしても敏感になっちゃうのにゃ」


 今浴びている視線も、ナオやフランチェスカとは違って好奇の目がほとんどですしね。


「あら、エミル。貴女、わたくしやナオに集まる視線はいつも好意的なものだと思っていますの?」


 エミルがしょんぼりと居心地悪そうに呟いた言葉に、フランチェスカが反応を示します。


「目立つ、ということはそれだけ色んな人の目に触れるということ。万人に受け入れられるヒーローのような存在はおりませんのよ?」


 良い声ももちろんたくさんあるけれど、悪い声もたくさん耳に入るのだとフランチェスカは言いました。ナオも頷いていることから、同様なのでしょう。


「それは国王だって同じ。ある人にとっては良い政策が、他者にとっても良いとは限りませんもの。それでも国のトップである以上、決めなければなりません。そして、賛否どちらも多くの声が入ってくるのですわ」


 国王、王女、勇者。人々の代表ともいえる存在は、それだけで完璧を求められてしまいます。同じ「人」だというのに、不思議ですよね。無意識に、求めてしまうのです。


「全てに耳を傾けていたら、身動きできなくなっちまう。嫌な声はさ、こういう考えもあるんだなってくらいで聞き流すんだ。そういう訓練だと思おうぜ?」


 ナオが言葉を引き継ぎ、ニカッと陽の光のような笑顔を見せてくれました。


「大丈夫だ! お前らの良いところなら、俺が知ってる」

「わたくしも、付き合いは短いですけれど、いくつも見つけておりますわ」

「ニャオ、チェスカ……」


 二人の言葉にエミルは嬉しそうに何度も頷いています。それを見て、サナは眩しそうに目を細めました。初めて聞かされた前向きな考え方に、理解が追いついていないのだと思います。


「悪い噂を聞いたら、その倍は良いところを俺たちが叫ぶ!」

「えー、叫ぶのは嫌にゃ」


 みんなで朝食を囲み、明るい笑い声が食卓を包み込む。それだけで新鮮な体験をしているサナにとって、優しさや親切というものは、受けて嬉しいという段階にまだないのですよね。

 ですが、心の中に広がる暖かさは、私にとっても心地良いものです。初めての体験ですが、この感情が悪感情でないことは確かだとわかります。


「……ご飯、美味しいね」


 サナはそんな輪の中で、誰にも聞こえる事のない小さな声でポツリと呟きました。


 その声は、しっかりと私の胸に届きましたよ。

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