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呼吸のあと  作者: haruki
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第二十話

「長谷川君…、これって、」

「ごめん、神前の歌詞に勝手に曲つけた。歌詞はごめん、うろ覚えだったから語尾とかちょっと違うかも。」


少しの沈黙。


やっぱ、このメロディは俺のものであって、神前のイメージには合わなかったか。


「ねぇ、」

「あ、ごめん。やっぱ今の忘れ、」

「私にも歌えるかな?」

「え、さっきの?」

「そうだよ!それ以外に何があるの?」

「key変えて、ちゃんと作りこめば俺的にはいい線いってると思うけど、いいの?」

「何が?」

「さっきのメロで。」

「言わなかった?私は好きなものを好きだということを躊躇ったりしないって。」

「え、でも俺勝手に」


それって、


「あのメロディが好きなの。」


彼女の、神前早苗の言葉はあの時と同じ。迷いが無かった。

神前はスマホの録音アプリを開いて「もう一回歌って。」と言った。俺の並みの歌声を何度も聴かれるのか、と思うとなんとも言えない気持ちになったけど、作詞者が言うんじゃ仕方ない。でも、それ以上に「伝わった」と確かに思えたその瞬間がたまらなくて、神前が歌い終えたその瞬間、泣きそうになってしまった。


「ねぇ、私見えたよ。」

「何が?」


目にいっぱいに見開いて神前は言う


「私の言葉に命が宿る瞬間を。」


その言葉はポッカリ空いていた穴を埋めてくれた。もう胸がいっぱいだった。


もう、信じないと誓ってから最初に俺の壁を崩すでもなく壊しもせず、乗り越えてきたのが葉月だった。


でも神前は違う。たった一言で崩壊させた。


「なぁ、」

「何?」

「神前はさ、どんな気持ちで『さよならのあと』書いたんだ?」

「WG2の美咲のトゥルーエンドとバッドエンドを見た直後。」

「今の会話無かったことにしてくれ。頼む。」

「ん?いいけど、何で?」

「何でもいいんだ。本当に。気にしないでくれ。」

「え、あ、うん。」


こいつはまた崩壊させてくれた。


「コードも書いててね。」


何故偉そうなんだこいつは、と思ったが曲に集中していただけか。


「…帰るk。」

「だめ。」


間髪いれずに言葉が飛んできた。


「曲覚えるまではお願い、そばにいて。」

「お…おう。」


30分後、イヤフォンを置いて「よし、大丈夫。弾いて。」と目の前には真剣な顔つき。

ほんと、マイペースだよな。


「じゃあ、」


ワン、ツー、スリーとカウントを取る。


声が音に乗る。やっぱり乗っかるのは上手い。歌に関しては俺は詳しくは分からない。

でも、感情だったり、声の色だったり、神前早苗の声は目に見えた。

最後の一小節が終わる時、Cメジャーセブンを鳴らしたあと。1弦のEが音の振動を終えた時、


「…好きだ。」

「え、長谷川君何行ってんの?馬鹿なの?」

「え、あ、声がさ、好きだなって。」

「あ…そう、なんだ。」


微妙な空気が流れる。でもこれ以上無い位の素直な気持ちだった。



「長谷川君ってさ、何か怖いの?」

「…。」


会話の流れを完全に無視した不意な言葉に核心を突かれた気がした。


「…ごめん、変な質問だったよね。でも、なんかそう思ったから。」

「そんなに臆病者に見えるかな?」

「違うの?」

「まぁ、豆腐メンタルだけど。」


適当にふざけて、話を流してしまいたかった。胸が詰まりそうで、声が詰まりそうで、泣いてしまうから。そうなったら、信じてしまう。神前早苗を、人を信じて、また希望を持ってしまう。


「最初ね、気難しい人なのかなって思ってた。人に興味がないのかなとも思ってた。さらに言えば馴れ合うのを嫌ってるのかなって。」


やめろよ。


「だけどね、朝比奈葉月さんだっけ?幼馴染の。あの人と話してる時の長谷川君は一度しか、見たことがないけど素って感じがしたんだよね。だから、馴れ合うのが嫌いって線はなくなるでしょ。」


俺に興味なんて持つなよ。

「興味が無い線も私とこうして笑いながら話せるんだからそんなことはないでしょ?そうじゃなきゃ私ちょっと悲しいかも…なんてね」

「…もういいって。」


やっとの想いで発したその声は震えてた。

その声を聞こえないふりをして神前は続ける。


「気難しい人っていうのは少し当てはまってるけどね。まぁ、でもそんな長谷川君が何かを怖がってるように見えたんだ。」

「だから…もういいって。」

「いいわけないよ。」


感情的な声が飛び交う。


「何でだよ!俺のことはいいって。俺達ギター弾くためだけにここにいるんだろ?じゃあそれだけでいいだろ。他の話はやめだ。」

「…だめだよ。私が辛いんだよ。」

「何で、何で神前が辛いんだよ。」

「だって、私の書いた詩に長谷川君がつけてくれた音が」


下を向いて泣きながら神前は言う。


「悲しいくらい優しかったから。」


声を震わせながら、顔を上げて俺の目を見て神前は言う。


「だから、あなたの痛みを教えて。私はそれすらも歌いたい。」



もう遅かった。


言葉を拒絶するのも、人を信じないのも、全部もう無理だった。


だってもう、俺も泣いていたから。

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