第十八話
Skypeの着信音で目が覚めた。
日曜日、午前7時半きっかりに掛かってきたその発信先は「sana@美咲は嫁」と表示されている。
「神前か。よし、」
面白そうだってので何となく放置してみたらチャットの嵐。むしろ荒らしなんじゃないかと思うレベルで「出ろ」の文字で画面が埋まる。そろそろ出てやるか、と思ったところで再び着信。
「おっす。わり、無視してた。」
「遅い!!!」
「わり、なんか面白そうで。」
おっと、つい本音が。
「で、どしたよ。」
「今、暇だよね?」
神前家、リビング。
まぁ、予想通りだよな。
「で、練習の成果とやらを見せてくれんのか。」
しかし眠い。深夜アニメ見てたんだから当たり前か。四時間しか寝てねぇよ。
「ちょっとは上手くなってると思うよー!びっくりしないでよね。」
何故かツンデレ口調。もう元のキャラがわかんねぇよ。
「ふー。」
深呼吸のあと、歌い始めた神前早苗は確かに前回聞いたときよりも上手くなっていた。特に教えたセーハの仕方に関しては努力の跡が目に見えて分かる。右手もピックの持ち方を覚えたらしく、前よりも音ははっきりていた。
バレーコードや、テンションコードになると途端にセーハが怪しくなるのはこの段階では仕方ない。
それ以上に思ったのは、
「どうだった!?」
一曲歌い終えた神前へ
「リズムが悪すぎる。」
最初は右手が不安定なだけなのかと思ったがそうじゃない。リズムがはねてるだけなら、はねない曲を練習するべきだ。しかし、そうじゃない。こいつには、神前早苗にはおそらくリズム感という概念が存在していない。
試しに俺のスマホから適当なアニソンを流してみた。
「これに合わせて手拍子打ってみて。」
「うん。」
ドヤ顔で三拍目から入る。
どこのジャズマンだこいつは。
「神前。」
「なに?」
「お前にはメトロノームの練習を義務付ける。」
「は…はい?」
どうやら自覚がないらしい。
先ずは音楽の三大要素、「リズム」「和音」「旋律」からか。
「今から一時間、手拍子の練習だ。」
メトロノームに合わせて一拍目に手を叩かせた。
これが中々に上手くいかない。
暇だったのでメトロノームに合わせて俺のギターを弾いていた。するとどうだろう、合う。さっきまでリズム音痴だった手拍子が合う。
どうやらこういうことらしい。
・合わせる音がある→それのリズムに沿うことが出来る。
・自分自身でリズムをとる→オリジナルのリズムを構築してしまう。
試しに俺が弾いて歌わせたところ、形になっていた。なんというか、はまった。声も手拍子もまったくはねない。
なんということだ。
こいつは一般道や高速等の公道は走れても、私有地になったとたん手放し運転で直ぐに事故ってしまうじゃないか。
元々歌は上手いと思っていた。倍音を多く含んだその声は強みだ。しかし、一人じゃ無理だ。策を、何か策を考えなければ。
「どうしたの?」
「悩んでいる。」
「何かあったの?」
「今の俺では対処法が見つからない。」
「私、何かしたかな?」
「大丈夫、取り合えずさっきの練習しといてくれ。頼む。」
「わかった!」
くそ!俺にもっと力があれば。
まぁ、取り合えずはさっきの練習を繰り返すしかない。地道な努力だ。
「じゃあノートにリズムトレーニングメニュー書いとくよ。俺がギター始めた時にやってたやつだから、一応は効果はの程は確認済み。」
「じゃあ、このノートに書いてよ。」
手渡されたノートは随分使い古されている感があった。ノートを開くとアニソン中心の歌詞と、そのコードが書かれていた。
「神前、お前こういうのマメだよな。」
「好きなことだか…ら!」
神前は手拍子をしながら言葉を返す。
ノートをめくるとコードの書かれていない歌詞だけが書かれたページがあった。
「『さよならのあと』?これ、誰の曲?」
「あ…。」
けろっとした顔で神前は言う。
「それ、私が書いた詩だよ。」




