第十七話
「付き合ってたってなんだよ。」
「…ごめんなさい。」
「何がオフ会だよ。」
「…ごめんなさい。」
泣きながら謝る美咲。その姿は許しを請うでもなく、ただ自分の罪を受け止め、謝り続けるようだった。
「もう、いいよ。俺のこと忘れていいから。」
駅へ向かって歩き出す。
「待って!ハル君!!」
美咲は叫ぶように俺を呼ぶ。でも、振り返らない。振り返ったら許してしまう。分かってる、俺は弱いんだ。
「…ごめん。」
聞こえないように、呟いた。
8月9日。
あれから一週間が経った。もう、忘れよう。出会いのきっかけだった動画も消そう。そう思ってPCを起動した。オフ会の一件があって以降、俺はPCをネットに繋げていない。
「大丈夫、大丈夫だ。」
案の定、美咲からチャットが来ていた。
一週間、毎日。
8月3日
<昨日はごめんなさい。時間のあるときに、返信くれたら嬉しいです。>
8月4日
<あれからハル君のこと考えました。私、最低だよね。ごめんなさい。許して欲しいとは思わないけど、せめて返事くれたら嬉しいです。本当にごめんなさい。>
8月5日
<元気ですか?毎日チャットやビデオ通話してたのにそれが無くなるなんてやっぱり辛いよ。ハル君はどうかな?少しでもそう思ってくれたら私はハル君ともう一度ちゃんとお付き合いしたいです。>
8月6日
<ハル君のことがやっぱり好きです。もう一度会って話せないかな?>
涙が出てきた。あれだけ傷つけられたのにやっぱり美咲のことが好きな自分が情けないし、その弱さが辛かった。
でも、その翌日のチャットを見て全てが変わった。
8月7日
<昨日、ケイタ君と会って話をしました。オフ会のときのことを謝りたくて。私達は二ヶ月前、些細なことがきっかけで喧嘩して別れました。家が近かったのもあって、偶然再会したときに少し話をしたら仲直りして友達に戻ることが出来ました。この前、オフ会誘った時も本当に友達と思って誘ったんだよ。本当だよ?
そして、昨日会った時にやっぱりお互い好きだなって再確認して>
…待てよ。
<私とケイタ君は>
…そんなのってないよ。
<もう一度、付き合うことになりました。>
…。
<なので、私のことは忘れてね。本当にごめんなさい。>
涙が止まらなかった。さっき流していた涙が意味を変えた。
こんなに辛いなら、信じない。
こんなに苦しいなら、好きにならない。
こんなに…。
…こんなに…胸が痛いんだよ…。
※
今。
「ねぇ、しゅーちゃん!しゅーちゃんってば!」
「え、あ…ごめん。」
「聞いてた?」
「えっと、何の話だっけ?」
「今日の二限の数学!宿題やった?って聞いたのに、」
「わり、ごめん。聞いてなかった。」
「もう、しゅーちゃんったら!」
変わらない。何年経っても変わらないこの日常がとてつもなく愛しい。あの痛みを繰り返さないように、ただそれだけでいい。普通に、平凡に、何事も無く、平和に過ぎて欲しい。
「なぁ、葉月」
ありがとな。
「わり、やっぱ何でもないわ。」
なんでこいつの隣はこんなに落ち着くんだろう。辛い、あの日を思い出す度にそう思う。
「しゅーちゃん。」
「ん?」
葉月はニヤニヤしながらこっちを向く。
「いつもありがとね。」
俺の出来ないことをすぐにやってのける。
「あたしね、しゅーちゃんの幼馴染でよかったなって、ふと思ったのさ。」
ほんっと、こいつはすげぇな。
「だからね、ありがと。」
「うるせぇ。」
…ほんと、ばーか。




