第十五話
「ハル君ってさ、好きな人いるの?」
お前だよ…なんて答えれるわけねぇだろ。家に帰ってもSkype越しに話す俺と美咲。しかし、昨日今日会った相手だ、落ち着け。話を無理矢理今日の映画の話題に変える。そうしないと理性が保てずに気持ちを伝えてしまいそうだった。
そんな何気ないいつも通りの会話の中、
「あのさ、今度オフ会行かない?」
美咲から思わぬ誘いだった。なんでもアニソンのみ歌うカラオケオフ会らしい。オフ会なんて行ったことないし、ネット上で知り合った人と…あ、会ってるか。
不安は少しあったが、美咲からの誘いなら行かない理由は無い。
「いいね!行きたい!」
本当はそこまでの気持ちはないけれど。
「8月の2日なんだけど、大丈夫かな?」
「余裕で暇っすw」
「よかった!じゃあ、場所はなるべく近いところに設定しておくから!」
「おう!」
…設定?
「じゃあ詳しいことはまたチャットでね。今日はちょっと疲れたので寝ます!w また明日ね。」
「うん、おやすみー。」
「また明日」という言葉の響きのよさになんとも言えない感動を覚え、ギターを掻き鳴らす。
数分後親に怒られた。夜の10時だもんね、そりゃそうだよ。
翌日、正午。
ピンポーン。
誰だ、俺の休日を脅かすのは。気だるげにドアを開けると葉月がいた。
「…あ、」
「10分で準備できる?」
「…おう。」
二日連続で同じ映画を同じ劇場で見るとは思わなかった。隣には違う女の子。葉月だけど。
「しゅーちゃん、楽しみだね!映画館って久しぶりだしね。しゅーちゃんも?」
「え、あ…おう。久しぶりでテンション上がりまくりよ。」
「なんか今日のしゅーちゃんへんなの。ま、いっか。」
大丈夫、バレてない。流石に「昨日女の子と見ちゃったんだよねぇ~wwwwww」なんて言えない。
今日は昨日と違って時間30分前には映画館についた。
「ねぇ、しゅーちゃん!ポップコーン!ポップコーン買ってよ!!」
「分かってるって。飲みもんは?」
「メロンソーダ!!」
「はいはいっと。」
ホント、楽しそうだな。いつも通りの俺達二人。これはこれで俺が安心できるものだと思えた。葉月と二人っていうこともあって映画に集中することが出来た。クロガネの登場シーンで葉月は泣いていた。感極まったのか、純粋に可愛らしいなと思えた。
この日常こそが俺達なんだな。
映画が終わったあと葉月は氷の溶けきったメロンソーダを一気飲みして気合を入れたらしく、パンフレットを買いに行っていた。
「見て!パンフレット!!」
「分かってるってw」
「嬉しいんだもん!」
「…あ、葉月今日うち来いよ。」
「え?しゅーちゃん家?」
長谷川家、春也の部屋。
「昨日は悪かったな。ほら、これ。」
クロガネのフィギュアを渡された葉月は放心状態の如くぼーっとしている。
「…葉月?」
「…初めてだ。」
「何が?」
「しゅーちゃんに初めてプレゼントもらった。…初めて。」
葉月は下を向き、手が震えている。
「…しゅーちゃん。ありがと。」
そう言った葉月は目に沢山の涙を溜めていた。
昨日のことなんて言える訳もないし、この「ありがとう」に対して胸が痛かった。葉月に対してどんな言葉で返せばいいのか分からなかったし、罪悪感で胸が詰まった。
「…帰るね。」
「…おう。」
いつも通り。
俺達はいつも通りあっさりとした別れだった。
「…あーあ。」
葉月が帰ったあと、ベッドに横になっていたらチャットの通知音。美咲からオフ会の詳細が届いた。
気分は乗らないけれど、「美咲のことが好きなんだから」と、自分に言い聞かせるようにチャットを見た。
<8月2日 14時~
会費 : 1,500円(5時間ドリンクバー付き)
会場 : 歌カラ倶楽部 ○○店
集合場所 : △△駅(13時半遅刻厳禁!!!)>
うちから4駅先か。
「<了解です!>っと。」
<待ってるねー!>
美咲は返事が早い。
タイピングの検定でも持っているのだろうか。
今日はもう疲れた。
ギターの練習…今日はいっか。
買ってから一日も休んで無かったんだけどなぁ。
「…あーあ。」
葉月、ごめんな。




