第十四話
「ごめん!葉月!」
何のためらいも無く7月28日の葉月との約束を延期にしてもらった。一日だけ。
当然、他の誰かと映画を見に行くなんて言えないわけで、オンラインゲームのイベント日だということにした。
「まぁ、まだ払い戻しできるし。しゅーちゃんがそこまでいうことないもんね。いいよ、貸しだからね!」
「ありがとう、ごめんな。」
本当にごめん、葉月。葉月には購買でイチゴミルク買ってやろう。
放課後。
やはりダッシュで帰宅。Skypeを起動するとすでに美咲はオンラインだった。俺がオンラインになった瞬間
<おかえりー!今日は私のほうが早かったねww>
くそwww可愛いwwwww
<映画館と時間だけど、そっちに近い方がいいかなって思ってハルくんの家の最寄り駅近くの映画館にしようと思うんだけどどうかな?時間は夕方の6時からのがあったからそれにしよう!>
<ありがとう、来てくれるの嬉しいけどいいのかな?時間はそれでOK!>
<大丈夫!うちの近くの方が田舎だからwww>
<把握wwwじゃあ、美咲ちゃんの分も券取っちゃうね!>
<ありがとう!会うの楽しみ!>
ナチュラルで涎が出た。おうおう、気持ち悪いな俺。
ちなみにハルというのは俺のHN。
「…よし。」
準備は念入りにするに越したことは無い。
先ず服だ。色んなサイトのレビューを見ながらネットで買った。
財布も今のマジックテープのものは流石にどうかと思ったのでネットで買った。
ついでにシロガネとクロガネのフィギュアもネットで買った。クロガネは葉月にお詫びの品。
それからの約一週間は長かった。
毎日のように美咲とチャット、ビデオ通話をしていた。
7月28日。
待ち合わせは駅前時計台の下。そわそわして待っていた。明らかに不審者状態。それでも良かった、デートなんだと自分を奮い立たせては変な汗が出ていた。ハンカチ持っててよかった。
「…あ、」
伊藤 美咲だと直ぐに分かった。
白のワンピースに薄手のカーディガン。茶髪のボブが風に揺れていて、その姿を見て固まってしまった俺がいた。
俺を見つけるなり小走りで近づいてきて
「…初めまして、ハル君。Iriaです。」
「初めましてw」
あえてのHNでの自己紹介。
実際に会って思ったことは152センチメートルだというその身長が予想以上に小さく感じたこと。
それで165センチメートルの俺を見上げながら話すその姿に全力で萌えてしまっている胸の鼓動を感じた。
「ちょっと時間あるけど、どうしよっか。」
照れながら話すその仕草の一つ一つが可愛い。
「じゃあここら辺案内するよw」
にやけが収まらない。
特に都会な訳ではないけれど何も無いわけじゃない駅前の商店街を案内するのに30分は掛からない。しかし、上映まであと1時間半はある。
「そうだ、ア○メイト行く?」
「行く!!!」
よし、ヒットしたみたい。
いつもの街並みも女の子と歩くだけでこんなにも色付くものかと。いつもどれだけくすんでたんだよ、俺の目。
「ねぇ、見て!シロガネのポスター!今から、これ見れるんだよね!テンションあがるわぁ!w」
ビデオ通話を重ねていたお陰か、会話は割りと普通に出来ていたと思う。
「うわ、このラノベアニメ化されるみたいだよw誰得だろうねww」
俺得だったから何も言えなかった。
楽しいな、この時間終わらなきゃいいのに。ほんと、映画がいつまでも始まらなければ…
「…ヤバイ。」
「ハル君?」
「…上映10分前だ。」
「やば!走らなきゃ!!!」
こんなに早く時間が過ぎるなんて。恐るべし、ア○メイト。
「…はぁ、はぁ。」
二人で肩で息を吸いながら映画館に入った。なんとか上映2分前についたけど、店員さんには変な目で見られた。
そこそこ席は埋まっていたけれど、なんとか真ん中より少し下の席をとることができた。
「ジュースとか何も買えなかったねw」
美咲は周りの人を気遣って耳元で囁くように話しかけてきた。しかし、吐息がこんなにも伝わるなんて人生で初めてで実のところ何を言われたのか分からなかった。ただ、いい匂いがしたことだけは直ぐに分かった。
「ねぇ、ハル君。」
「なに?」
「さっきの私達さ、青春してるって感じしなかった?w」
「したwww」
映画の上映が始まってからも内容は全力で入って来ず、目線だけ美咲に向けるという不審者、変態的、ストーカー的な行動を繰り返していた。
映画もいよいよ山場でクライマックスの感動的なシーンの時、思い切って美咲の手を握ってみた。
握り返された。
あれー?これって恋人繋ぎってやつですかね。そうですね。そうですわ。
もう、お祝いだよ。お祝い。俺の恋人が恋人を連れてこようとしている。
いやぁ、めでたいぜ。
映画が終わった時、手は繋がれたままだったので
「なんか感極まって握っちゃったw」
とぶっ込んでみたところ
「私もw」
と、脈が有るのか無いのか分からない返答を頂いた。
門限があるらしいので今日は駅まで送ってお別れ。なんて短い時間だろうか。もっと、一緒にいたかったと、これが恋かとある意味初めて認識した瞬間だった。
「ねぇ、ハル君ってさ」
「うん」
「彼女いるの?」
「いるわけないだろw」
「そっか。」
含み笑いをしながら改札を抜けていく美咲が手を振る。
「じゃーねーハルくーん!また会おうねー!」
「おう!またねー!」
…これって脈ありだよな。
…多分。。。




