第十三話
7月20日。
昨日、例の約束をしてからはもう気が気でなかった。授業中のノートの端に「伊藤 美咲」と書いてしまうほど。単純なんだな、人間って。
「しゅーちゃん。」
「…葉月か、どした。」
「7月28日ね。チケット取っといたから。」
「夏休み初日かよ。」
「いいでしょ、その日から公開なんだから。」
「わかった、空けとく。チケットいくらだった?」
「いいよ、その代わりポップコーンとジュース買って。」
「足りないだろ。貸し借りはちゃんとしたいんだよ。」
「変に律儀なんだから。そのうち返してくれればいいから。じゃあね、」
葉月は自分の席に戻っていった。そういえば、中学まではずっと葉月と同じクラスだったな。
放課後、ダッシュで帰宅。PCを起動。Skypeを開きチャットを送る。
<ただいまぁー、学校疲れたー。>
よく見たらIriaと書かれたアイコンがオフラインになっている。
「あ…そっか。」
…向こうも学校が終わったばかりなの忘れてた。
「…練習しよ。。。」
テンションが下がったところで自分を落ち着けるようにギターを弾く。
今、普通に弾けるようになったけど上手くなっていることを確かに感じる。何かを続けることなんて今までしたことがない俺としては人間的な劇的な成長だなとこのタイミングで実感した。
PCからチャットの着信音が鳴る。
「ぅお!」
思わず気持ち悪い声を出してしまった。気を付けなければ。
<こっちもただいまぁ~!帰るの早いねw学校家から近いの?>
そらそう思われるよな。
<今日はホームルーム短くてwwwIriaちゃんは今から何するの?>
いきなりぶっ込んでしまった。
<今日はなーんにもないよ!暇で今からドーナツ食べながらアニメでもみようかなぁ>
ガッツポーズを決めてよし、更に押して参る!
<通話してみない?>
<いいよー!マイク準備するからちょっと待っててね!>
すんなり行き過ぎて拍子抜けしてしまって、手が震えた。
えっと、マイク、マイク。
…あ、俺も準備しないと!!!
<こっちは準備できたよー>
ヤベぇ、待たせてる…あった!手が震えてUSBケーブルが中々入ってくれない。
約30秒ほど掛かってようやく差すことが出来た。
<通話かけるねー!>
とチャットを打って直ぐに掛ける。
着信音がイヤフォンから響く。
「…はじめまして。」
伊藤美咲の声だ…これが、伊藤美咲の声か!!!!
「…聞こえてるかな?」
「あ、聞こえてるよ!ごめんね!」
「よかった。ていうか、そんな顔してたんだねw」
「え?」
しまった、カメラと一体型のマイクをチョイスしてしまったせいだ。
いきなりの顔バレ。しかも向こうは音声のみ。
「優しそうな顔してるねw」
「そ…そう?」
何が「そ…そう?」だ。キモオタ全開じゃねぇか。
何か喋らなきゃ。何か喋らなきゃ。
「何してたの?」
「チャットで言ったじゃんw何もしてないよw」
俺の馬鹿野郎。
「ごめん、忘れてたw そういえば俺だけじゃあれだからさ、そっちもカメラつけてよー」
「えー、ちょっと恥ずかしいなぁ。…えっと、じゃあ髪整えるから待ってて。」
よっしゃ!よっしゃ!よっしゃあ!!
よくぶっこめた。あとで、オ○ナミンC買おう。お祝いだ。ぶっこみ祝い。
二分ほど沈黙が続き
「あ、ごめんね。お待たせ。じゃあ、カメラつけるね。」
「…うん。」
画面に現れた女の子はやはりサムネ画像と変わらない普通の女の子。
髪はボブってやつなのかな。そんな感じのふわふわした雰囲気。まだ着替えていないらしく、制服のままだった。
「可愛い。」
「そんなことないよw」
「いや、本当に…可愛い。」
「じゃあ…ありがとうw」
本当に俺の素直な言葉だった。それからアニメの話題を持ってくると予想通り食いついてきた。
やっぱり俺は恋をしていると実感できた。なによりもそれが幸せだった。
話が一区切りつくと美咲は
「ねぇ、今度映画行こうよ!私ね、シロガネってアニメ滅茶苦茶好きで、今度映画化されるんだけど絶対行きたくて!でも、女だけであんなバトルアニメを映画館に見に行くの抵抗あってwどうかな?」
「いいね!シロガネ俺も小さいころから好きだし!」
「じゃあ決まりね!えっと、7月28日とかどうかな?」
「基本的にいつでも暇だから大丈夫w」
「じゃあ、また詳しいことはチャットしながら決めよう。お母さん帰ってきたから、ご飯のお手伝いしなきゃ。」
「了解!チャット待ってるね!!」
「じゃーねー!」
よっしゃ!よっしゃ!よっしゃあ!!
よくぶっこめた。今すぐ、オ○ナミンC買おう。お祝いだ。おい…わ…い?
7月…28日…。
大きく息を吸って。
「…あーあ。」




