第三章:異分子(エルヴァン)と、母の掟
ロザリアの前に現れたのが、若き日のエルヴァンだった。
没落しかけた家名を再興しようとする野心。
だがその奥にあったのは、飢えだった。
エルヴァンは、マリアのもとで育った。
嫡男として扱われながら、
“人として見られた記憶”を持たない男だった。
彼はずっと、母の愛に飢えていた。
ロザリアは知っていた。
彼が自分を血統や権力の切符として見ていることも。
それでも彼女は、同じ孤独を見た。
だから、番になった。
政略の枠の中で、確かに愛し合った日々はあった。
ロザリアにとってそれは、
初めて“個として”生きられた時間だった。
だが、娘たちが聖女の徴を持って生まれた時、
歯車は狂い始める。
エルヴァンは焦った。
王家への献身。
家門の存続。
そして何より、母マリアを超えて「認められたい」という衝動。
その歪みが、彼を闇へ引きずった。
禁忌の儀式。
触れてはいけない力。
手を伸ばしたのは、守るためだったのに、
結果は破壊だった。
そして、あの日が来る。
闇の儀式が暴走し、
幼いゼノを呑み込もうとした瞬間。
ロザリアは初めて、掟を破った。
守護者としてではなく、
道具としてでもなく、
一人の母として叫んだ。
「この子だけは、影に沈ませはしません!」
蓄えてきた守護の魔力を、すべて解放した。
だがそれでも、闇は止まらなかった。
ゼノの髪は、漆黒に染まった。
それは異型の烙印であり、
同時に、母の愛が刻んだ証でもあった。
ロザリアは罪悪感を抱いた。
守りきれなかったことを。
救いきれなかったことを。
だが俯瞰すれば、この出来事は“必要悪”だった。
影が生まれたことで、
光が生き延びる道ができたからだ。




