旅立ち
村に戻ると、ガルドさんが子供たちを親御さんのもとに送り届けてくれた。
自分だとどこの家の子かもわからないし、たとえ会えたとしても親御さんから見ると怪しいオッサンが来たという感じになりそうだ。
なので、ガルドさんが一人で子供たちを送ってくれたのは、非常に助かった。
「ああ、ユート戻ってきたんだね!」
ガルドさんと入れ替わりでマルタさんがこちらに来た。
子供たちが無事だったのを見て、こちらに挨拶をしに来たそうだ。
「魔物が子供を守っていたとか聞いたんだけど、本当かい?」
「ええ、なにやら、子供を見ると守ろうとする習性があるみたいでした。」
「魔物によっては、ということなのかねぇ?」
「基本的には、何も理由がないのに襲ってこないんだと思いますよ。」
少し考えればわかる話だが、魔物も自分たちが害されるリスクがあるのに、意味もなく襲い掛かってくるとは考えいにくい。
あるとしたら縄張りに入り込んだとか、何か危害を加えようとしたとかの理由があるだろう。
もと居た世界と常識が違うかもしれないので、言い切ることは難しい。
だが、自分の中での結論としては“何もないのに襲ってはこない”ということだった。
「なるほど、何にせよ、今回は助かったよ!」
そう言いながら背中をバンバン叩かれる。
感謝や挨拶なのだろうが、研究ばかりしている自分にとっては結構な衝撃だった。
とはいえ、感謝の気持ちは伝わってきたので、満更でもなかったのも事実だ。
しばらく雑談をするとマルタさんは家事を置いてきてしまったらしく、村の奥に戻っていった。
「なぁ、エコ、なんで魔物は襲ってくるって考えるんやろうな?」
『情報が不足していますが、得体の知れないものへの恐怖や警戒によるものと推測します。』
「未知への恐怖か…、畏れであればええんやえど、そう言うもんでもないんやろうな。」
『私も同じ意見です。本能的な恐怖と推測します。』
「やっぱ、せやんなぁ…。」
予想はしていたけども、こんなところで意見が一致してしまうと、少し残念な気もした。
危害を加えられた人もいるだろうから、恐怖するなというのは酷だと思う。
とはいえ、歩み寄らないと分からないこともあるので、何かいい方法はないかと悩んでしまった。
いくら考えても、良い案は出なさそうだったので、一旦思考を切り替えることにした。
村の中の様子を見てみようと思ったのだ。
村の様子を見て、どんな暮らしぶりをしているか、先日はしっかりと見れなかったので、取り戻そうと思っていた。
村のあちらこちらを見ると、畑と鍛冶場、食料品の販売や交換をしている店などが目に付いた。
文明レベルを見る感じ、工業化はまだまだ先の話だなと思った。
村が大きくないためか、通貨による売買よりも、村の外からとってきた食材や、畑からの農産物と物々交換をしている。
この村の規模であれば問題ないと思うが、もう少し大きな町になってくると不便だろうなと思った。
あと、建造物についても色々と気になるところがあった。
殆どの家は木造で、厚めの木の板を重ねて釘などを打ち込んでいた。
基礎の柱の位置や、地中に打ち込むような基礎、柱については何も考えられていない。
そういった技術は、まだ発展していないということだろう。
そうして歩いていると、いつの間にか村長の家の前まで到着しており、村長の家からガルドさんが現れた。
「ちょうどよかったです!村長が話をしたいと言っておりまして。」
「あ、はい、自分は構いませんよ。」
そう言うと、ガルドさんは一言礼を述べて、そのまま村長宅に招き入れた。
村長からは、子供の無事について何度も礼を言われた。
それと合わせて、今回の水源が汚れている原因について尋ねられた。
「ガルドさんと一緒に行ったんですが、雨宿りに使われている洞窟をご存じですね?」
「ええ、特に鉱石なども見つからないので、雨宿りくらいにしか利用しておりませんが…。」
「あの奥の方で、地面が崩落していたところがありまして、そこが原因だと思われます。」
「どういう事でしょう?」
言葉だけで説明するのが難しいので、近くにあった黒板のようなものに崩落している箇所の図を描いて示した。
その中で、外の川につながっている小さな川があり、歩ける陸の部分とは反対側の壁が、流れによって削られ続けることを説明する。
図解した成果もあり、ここまでについては問題なく理解してもらえた。
「調査しないとハッキリした理由はわかりませんが、崩落した影響で弱い壁が崩れ続けているみたいです。」
「何か、水を元通りにする方法はありませんか?」
「すぐに元通りと言うのは難しいと思いますが、一先ずの濁りの対策はしていけると思います。」
支保工の作り方、それによって洞窟の壁が崩れ続けないように補強する方法。
井戸水が枯れているのでなければ、簡単なろ過フィルターを使って水として使用できるようにする方法。
その他、水をいくらか綺麗にする方法を教えて、参考程度に実践することで実用可能であることを説明した。
その後、村の工房や家の修理をしている大工の人を紹介してもらい、洞窟の壁の補強方法を教えておいた。
洞窟からの水源は改善できたとしても、今までよりは水を汲みなおす回数が増えると思う。
なので、鍛冶場の職人とくみ上げポンプを試作してみることにした。
何度目かの試作で、それなりに動くものが出来上がったので、鍛冶屋のおっちゃんと小躍りした。
鍛冶屋のおっちゃんが、子供みたいに目を輝かせていたのは、しばらく頭から離れないだろう。
「このポンプで作業が軽くなると思うんで、同じようなものが作れるように頑張ってください!」
ポンプの使い方についてのメモを作り、村長に渡しておいた。
折角のポンプも使われないと単なるゴミになってしまうので、それは避けたかった。
洞窟の補強についても、支保工を使って強度を稼ぐ方法を伝えておく。
一応、これで理屈的には水質に問題が出るほどの削れ方はしないだろうと伝えておいた。
「村長、これは呪いでも何者かの謀略でもありません、純粋な自然現象です。」
「自然現象…ですか?」
「はい、なるべくしてなっただけなので、誰にも責任はないんです。」
「では、どうすればよいのでしょうか?」
「それはわかりません。ただ、先ほどの方法で、水の問題は軽減されると思います。」
そこまで言って、一度考える。
確かに軽減はされるが問題解決にはなっていない。
村長は問題解決を期待したのだろうが、相手が自然現象だ。
そんな簡単に解決するとは思えないし、恐らくそれは無理だと思った。
そう、自然現象を正しく畏れ、正しく付き合うことで、生活の一部にできると思った。
村長に、今回の現象は、あくまで雨や雪といった自然現象の延長戦であることを伝えた。
そして、その自然現象とは、うまく付き合うことで必要以上に恐れる必要はないことも合わせた。
この村の文明レベルだと難しいこともたくさんあるだろうと思う。
だけど、ちゃんと付き合っていくしかない事なので、これからも試行錯誤してもらうしかないかなと思っていた。
「この先の街はどのあたりになりますか?」
「少し荒れていますが、街を出た所の街道を川の下流に向かって二日くらいのところに街があります。そこが最寄になります。」
「ありがとうございます。」
村長に、明日にでも街に向かって発つことを伝えると、村の宿を無償で提供してもらえることになった。
今回の謝礼として、現金の入った革袋と、村長からの紹介状を受け取った。
先ほどの街に入るときに、村長からの紹介である方が便利だそうだ。
その後、村長の声で、村人の皆さんが送別会と称して、酒場で飲み会を開いてくれることになった。
「エコ、この村は大丈夫やと思うか?」
『はい、素直に話を聞いていただけたので、それを正しく受け止めることができれば大丈夫です。』
「ならよかった、安心して次に行けるな。」
『どうしてユートが心配するのですか?』
「うーん、難しいなぁ…。まぁ、そのうち感覚的に分かるようになるわ。」
『ユート…』
エコが不満そうにしていたが、不満というか理解できないことに少し拗ねているようにも見えた。
世の中理解できない事の方が多い。
そういったことも、今後のエコが理解できるように、旅を続けることにした。
村を発つときに、先日のモグラがひょっこりと頭を出して、手を振っていた。
『ユート、魔物…モグラも別れを惜しむものなのでしょうか?』
「ここのモグラはそう言うもんなんやろな。」
『私には理解できかねます。』
「まぁ、焦らんでも、そのうち分かるようになるわ…。」
そんなことをエコに伝えつつ、頭の中ではモグラも見送るときは手を振るんだなと思いながら、村を背に歩き始めた。




