森の番人
翌日、村長とガルドさん、マルタさんに見送られて村を後にした。
村長からもらった謝礼は、お金の他に、今日の朝受け取った旅支度がある。
その中に、こちらの世界での旅人の服といったものがあった。
元の世界で着用していた白衣やスーツだと、少々目立ってしまうということで、こちらの世界のものを頂いた形だ。
服と同じ扱いで、靴についても提供してもらっていた。
靴についてはもっと実用的な問題で、もともと履いてきた靴が研究所で使っているクロックスだったためだ。
クロックスで長距離を歩こうと思うと、非常にあちこちに負担がかかってしまう。
それが分かっていたので、靴だけは旅に耐える丈夫な靴を準備してもらえるよう、昨日のうちにお願いしていた。
貰った靴は表面こそ革でできているが、内側は歩くことを前提にクッションになるものが敷き詰められている。
そのため、村から結構な距離を歩いたと思うが、足が痛いということは無かった。
「さて、エコ、どっちに向かうのがええかな?」
『この街道をまっすぐ進んだところに、建造物が確認できました。』
「よう見えるなぁ。」
『以前ほど広範囲は観測できません。』
「まぁ、何ができんようになったんかは、ようわからんけどな。」
そう言って笑い飛ばした。
こうやって笑うことができるのも、完全な一人旅になっていないことが大きいと改めて思う。
エコとのやり取りが漫才染みている気もしているが、それも一つのコミュニケーションだ。
それでこそ、自分のエコだと一人で納得していた。
しばらく歩き続けると、眼前に森が広がっていた。
エコの言っていた通り、少し進んだところに、小さな小屋というかログハウスのようなものがあった。
灯りもついており、煙突から煙も出ていたことから、どうも人が生活しているようだった。
「エコ、あれって人がおるってことやんな?」
『はい、人の生活している様子が確認できます。』
「まぁ、煙突から煙出っぱなしやと、大分不用心やからな。」
『約九〇パーセントの確率で、火の始末をしてから出かけるという統計情報があります。』
「いや、一割も放置していくんかいな…。」
エコの持っている統計情報だから、それなりに信用性の高いものだろう。
ということは、おおよそ一割の人は火をそのままにして出かけてしまうということになる。
きっとその一割の人の家は金属でできていて、燃えたりしないのだろうと、無理な理屈で納得しておくことにした。
その小屋と思っていたものに近付くと、思ったよりも大きな建物だったことに気付く。
五人程度であれば暮らしていけるのではないかと思える。
玄関の近くに立てかけられた掃除道具や、少し奥の方に積まれた薪など、生活感があることから家として機能しているのだろう。
「エコ、中に人はおるか?」
『はい、生体反応があります。』
「じゃあ、行ってみるか。」
ドアも大きいが、それに負けじと存在感のあるドアノッカーが付いていた。
金属で作られたヘラジカの意匠が気になる作品だ。
それを使ってドアをノックすると、中から筋肉質だが、少し小柄な男性が出てきた。
ヨーロッパのファンタジーで見るドワーフなどの小柄な種族という感じではなく、単純に少し背が低いのだろう。
ただ、普段の生活でも腕力が必要なのだろうことが分かるほど、しっかりとした筋肉が付いていた。
「すいません、森を抜けようと思ったのですが、日が暮れてしまいまして。」
「なるほど、そいつぁ大変だ。今日は休んでいくといい。」
最初は少し威圧感のある雰囲気だったが、こちらが困っていることを聞くと一気に柔和になった。
無表情だと厳ついオッサンなのだが、笑顔になると一気に少年のような雰囲気が出る。
その様子を見て少し安心できた。
「エコ、この人は普通の人やんな?」
『いえ、所謂ドワーフ種と思われます。』
「よく、武器を作ってるアレか?」
『はい、そのドワーフです。』
その男性にログハウスの中に案内され、通されたリビングと思われる部屋は、数人でテーブルを囲めそうな広さだった。
自室にこれくらいの広さがあれば、迷わずホームシアターをセットアップしていただろう。
そう思うほど、このログハウスは快適なものだった。
「この先には穏やかな街があるで、明るいうちにつくように行きんしゃい。」
「穏やかですか。住むのにはいいところに聞こえますね。」
男性がキッチンと思われるところから、ワインを持ち出してくる。
恐らく、彼にとっては水のようなものなのだろう。
木でできたグラスも二つあったので、一緒に飲もうということだろう。
「久々の客じゃで、一緒に飲もうや!」
「いいですね~。」
男性も酒は好きだが、一人で飲むのは寂しいものがあるのだろう。
こちらも付き合う気があることを確認すると、一層嬉しそうな表情を浮かべた。
ドワーフと言うと鍛冶のイメージだが、鍛冶場のようなものは見当たらないし、金属を加工している雰囲気もない。
一方、渡された木のグラスには撥水加工まで施されており、液体がしみこまない工夫がされている。
何となくだが、専門は木材の加工なのではないかと思った。
「普段から木材を加工されてるんですか?」
「そうじゃ、皆、鍛冶で武器とかを作ってるって思うちょる。」
「このコップの加工とか、凄いこってると思うんですけどねぇ。」
「そう思うか!」
そう言われて背中をバンバン叩かれる。
余程嬉しかったのだろう。
しかし、こんなところで木材加工をしているドワーフとなると、情報量が多くて困ってしまう。
まず最初に、ここで何をしているかを聞いてみることにした。
「加工した木材を売ったりしているんですか?」
「いんや、街の連中から依頼されたもんを渡すと、飲み物や食い物をくれるで、それで生活しちょる。」
「なるほど、ここに居を構えてるのも、その街との関係性の影響ですか?」
「そじゃないな、森の主に、ここで門番しちょれと言われておる。」
森の主、森人と言われるエルフの事かと思ったが、そう言うわけでもなさそうだ。
「森の主ですか?」
「まぁ、会えば分かるじゃろ。」
そう言って、先ほどのグラスに酒を注ぐ。
その酒を飲みながら、一人で森の門番をする理由や、今までの出来事など、色々と気になる事が出てきた。
なので、丁度良いと思い、一緒に飲み明かそうと思った。
寝落ちする直前、エコに注意された気がした。
『明日の事も考えてください。』
と…。




