村からの依頼
マルタさんに招かれて村長宅にお邪魔することになった。
外から見た感じだと、ログハウスのような形状に見えたのだが、中はちゃんとしていた。
壁は布地で飾られ、床は引っかかったりしないように板の上に絨毯を敷いている。
水平も気にしているのか、歩きやすい床になっていた。
「村長、この子がユート、道に迷ってここまで来たらしいよ。」
テーブルの奥には、眼光の鋭い老人が座っていた。
鋭いとは言っても、威圧するような感じではない。
力強い、意志の強い眼差しだった。
「初めまして、神崎悠仁です。」
「カンザキ・ユート?どこの国からいらしたのかね?」
「それも分からないんです。気が付いたらこのざまでして。」
村長の質問に両手を開いて見せた。
特に持ち物は無く、白衣の下にシャツとスラックスという出で立ちだった。
「そこまで白い服は、神官様くらいしか見たことがないが、そう言うわけでは?」
「いえ、私は所謂、技術者とか学者というやつでして。」
「その姿も、学問のためということですかな?」
「ええ、そうです。」
少し嘘も混じっているが、全くの嘘でもない。
自分は技術の中でもAIに特化して研究していた研究者だ。
そういう意味では学者と言っても良いと思った。
「何にせよ大変でしたな。少しゆっくりされるといい。」
「ありがとうございます。助かりました…。」
そう言うと、席を勧められたので、遠慮なく席に着いた。
村長の指示で香草を抽出した飲み物が出される。
香りをかぐ限り、元の世界でいうところのコーヒーのようなもののようだ。
こちらの世界でもコーヒーらしきものがあるのは有難い。
「村も少し慌ただしいので、大したおもてなしもできませんが…」
「どうかされたんですか?」
「少し事情がありまして…。」
「力になれるかはわかりませんが、お話を聞いても。」
「それでは…」
村長の話はこうだった。
数日前から、井戸の水が濁り始め、近くの川も水位が低くなってきている。
このままでは生活用水にも困るので、どうしたものかと悩んでいると。
そこに追い討ちのように、村の子供が二人ほど神隠しに遭ったという。
トラブルが重なっていることもあり、村人の間では祟りだとの声が噴出。
その声が大きくなり始めて、一部の村人がパニック状態になっているらしい。
「そうですか…どこまで力になれるか分かりませんが、協力させて頂いても?」
「それは有難い!」
「子供も気になりますが、水の方が手近なので先に見てきますね。」
「子供は村の若い男衆が探しておりますので、仰る通り、水の方からお願いします。」
そう言って、村長宅を後にした。
凄く困っていたようなので、思わず協力を申し出たが、情報が全然足りない。
ということで、まずは情報収集からだった。
「エコ、どこから見るんがええと思う?」
『近い方なので、井戸からが良いと思われます。』
「せやんな。まずは井戸見てみよか。」
近くにあった井戸を見る限り、井戸水に土砂が溶け込んだように見える。
薬品が混ざったような色ではない。
単純に土砂が混じっているように見えた。
ということは、水源を見に行けば良さそうだ。
「これって、どっかで土砂が混ざっとるんやろ?」
『はい、その可能性が高いです。』
「っちゅうことは、水源までのどこかで、土砂が混ざっとるんやな。」
『水源まで向かいながら、原因を探すことをお勧めします。』
「あいよ、了解!」
恐らくは誰かが土木工事みたいに、川の近くで土を掘り返しているか、土砂災害だろう。
ただ、普通に土砂災害があったら、村の人たちも気づくと思うのだが。
色々考えるよりは、探してみるのが早いと思い、川を上ってみることにした。
単純に川を上流に登っていけばいいのではあるが、この世界の知識がない。
どんな危険があるかもわからないので、一先ずはさっきのマルタさんに相談してみることにした。
マルタさんがどこにいるかは分からなかったが、近くの人たちに声をかけると、すぐに呼んでもらえた。
結果的には村長宅の近くにいたので、普通に見つかった気がしなくもない。
「マルタさん、ちょっと、川の上流に行きたいんですが。」
「流石に一人だと危ないよ!」
「ですよねぇ…」
「ガルドに声かけてくるから、ちょっと待ってな!」
そう言うとさっさと走って行ってしまった。
そこそこ大きな体をしているのに足が速いというギャップに驚いてしまった。
驚いていたのもつかの間、すぐにガルドさんを連れて戻ってきた。
「マルタさんに話は聞いたけど、どうしたんだい?」
「村長から水の話を聞きまして。」
「ああ、それで川の上流なんだね、なら私も同行しよう。」
この辺りに詳しい人が付いて来てくれるというのは正直助かる。
土地勘もないし、どんな危険が潜んでいるかもわからないからだ。
早速、ガルドさんを先頭に川を遡って行った。
川も少し濁っているような気がしていた。
とはいえ、洗濯や洗い物に使うくらいであれば問題なさそうだし、魚も普通に泳いでいる。
少なくとも毒が流れているようには見えなかった。
ただ、上流に進めば進むほど、その濁りは強くなってきていた。
川幅が少しずつ狭くなっているのもあるだろうが、流れの途中で汚れが沈んでいるのだろう。
「エコ、上流の方が濁ってるちゅうことは、やっぱりか?」
『はい、恐らく何かが崩れて土砂が流出していると思われます。』
「やっぱりかぁ…。」
小声で話してはいたのだが、やはりガルドさんが怪訝な顔をする。
独り言が多いということは分かってもらっているが、やはり気にはなるのだろう。
エコとのやり取りも、色々と考えないとなと思っていると、川の近くに洞窟を見つけた。
「こんなところに洞窟があるんですね。」
「ええ、そこまで深くはないので、時々入口付近で雨宿りに使ったりしますね。」
「なるほど…」
ガルドさんの言うように、比較的浅いところなのだろう。
ただ、その洞窟よりも上流の方は、川の濁りが薄くなっていることを見逃さなかった。
「ここやな…」
『中の調査をお勧めします。』
エコに言われるまでもなく、洞窟の中を調査しようと考えていた。
ガルドさんに話をし、洞窟で休憩をとってもらうことにし、その間に調べることにした。
自分の予想が、いい意味で当たっていることを願いつつ、洞窟に入っていった。




