接触
何もない草原を歩くというのが、思ったより大変だということが分かった。
目標物がないと、どこに向かって歩いているのかが分からなくて不安になる。
「なぁ、エコ。」
『なんでしょう、ユート。』
「移動している方向が正しいか分かるか?」
『一定の方向に進んでいることは間違いありません。』
「座標取れてるんか?」
『いえ、足跡の角度などから算出しました。』
なるほど、GPSが取れなくても、そういった方法で方向を確認できるのかと感心した。
と、よく考えると、足跡の角度ということは、現実世界が見えているということではないかと気が付いた。
「エコ、見えてるんか?」
『見るというのが正しいかは分かりませんが、観測はできています。』
「なるほど、これは発見やな。」
観測できているということは、視覚らしいものはあるということだ。
今までは定点カメラなどの画像を連動することでやっていたが、今回はそうではない。
どういう仕掛けか分からないが、そのカメラの代わりがあるということになる。
そこまで考えて、そもそもの部分に気が付いた。
エコの声が聞こえているので、その存在が一緒に来ていることは分かっていた。
ただ、PCも何もない状態で、エコはどうやって存在しているのだろうか。
「エコ、自分の状態を教えてもらえるか?」
『はい、データのみで存在しているようです。』
よくよく目を凝らしてみると、ふわっとした光の玉のようなものが見えた。
エコの声はその光の玉から聞こえてきている。
これこそ、自然の神秘ってやつだろうか。
自分の知っている世界とは違うところなので、それが適しているかも分からないが。
「何にせよ、エコとコミュニケーションが取れるっちゅうことやな。」
『はい、今後はもっとスムーズなコミュニケーションが可能です。』
そうやって話している間も、とりあえずまっすぐ歩いてみていた。
草原をずっと歩いていると、丘になっているところの一番高いところまでたどり着いたようだった。
そこからあたりを見回すと、かなり遠くではありそうだが集落のようなものが見えた。
「人が居そうなところ発見!」
『熱源を確認しました。生命活動があると思われます。』
何かがいると思うと、少しだけだが足取りも軽くなった。
足取りは軽くなったものの、日ごろの運動不足がこんなところに響いてくる。
集落の方に向かって少し下りになっているのだが、少し足早に歩いていると足がもつれて転んでしまった。
転んだ勢いを止められず、そのまま斜面を転がり落ちた。
『そのまま加速すると負傷すると思われます。』
「いや、そこは普通に止めやんと!」
転がっていった先に段差があって、落ちるような形になってしまった。
大きな段差ではなかったので、たんこぶくらいで済んだのだが、エコの一言がないと大けがになっていたかもしれない。
エコの声が聞こえたので、少しだけ体をひねったのが功を奏していた。
しばらく額にできたたんこぶを押さえていたが、気を取り直して集落の方に向かう。
段差を越えてからは数分程度でたどり着く距離まで近づいていた。
「さて、敵視されないとええねんけども…」
『情報が不足しているため、推測不能です。』
「まぁ、せやわなぁ。」
エコはAIなので基準とか参考になる情報がないと判断できないのは当然かと思った。
自分の研究方針として、AIにも感情を持たせたいと思っているので、課題ではあるなと思っているのだが。
そうこうしているうちに、集落の門らしきところにたどり着いた。
感覚的には中世か、もう少し前の文明レベルだろうと思われる。
木製の板と、金属製のフレームや接合パーツを使った門が入り口になっていた。
門の横の柱のところに、外側とアクセスするための小さな窓というか、穴が設置されている。
そこから声が聞こえてきた。
「何者だ?」
「神崎悠仁と言います。道に迷ってしまいまして…」
『ユート、言葉が分かるのですか?』
エコに言われて気が付いた。
何となく聞こえる言語は分かるようになっている。
ただ、それが自分の知っている言語かと言われると自信がない。
聞こえるのは母国語だが、エコは分からないような感じだ。
「…武器などはなさそうだな…、一度話を聞こう。」
「ありがとうございます。」
そう言って、門の中に入れてもらった。
やはり、自分には母国語に聞こえるので問題なく会話が成り立っている。
『ユートと接触していると言葉が分かりました。ですが、理由が不明です。』
「ふむ、やっぱり何かわからん事象があるんやな。」
自分がエコと話をしていると、門番らしき男性が不思議そうな顔をした。
「誰かいるのか?」
「ああ、独り言ですわ。考えまとめる時に口に出てまうんです。」
「ああ、なるほどな。」
そう言うと、近くにあったコップに入ったスープらしきものを差し出してくれた。
飲んでいいということだろうか。
「余程疲れているんだろう。温かいものでも飲んで落ち着くと良い。」
「ありがとうございます。」
やはり気を遣われたようだった。
確かに温かいものを胃に入れると少し落ち着いてくる。
最初は警戒されていたのだが、こちらの疲れが見えると優しさが見えてきた。
基本的には優しい人なのだろう。
それよりも、エコの事だ。
先ほどのエコとのやり取りが聞こえていない様子だったことを見ると、エコは自分にしか認識できていないらしい。
これからはエコとのやり取りを他の人に認識されない方が良いだろう。
まだ、分からないことが多すぎる。
「小さい村だが、村長に事情を話してみるといい。」
「ありがとう、村長さんは何処にいてはるんです?」
「奥に少し高くなっている家がある。そこが村長の自宅だよ。」
言われて奥の方に進んでみると、高床式みたいな構造の木造家屋があった。
そこが村長の家ということだろう。
門番らしき男性は、村長宅の近くにいた女性に事情を説明してくれた。
女性の方が村長へのつなぎをとってくれるようだ。
「あんた、最初に会ったのがガルドで良かったわね。」
「ええ、色々と助かりました。」
「私はマルタってんだ、村長に声かけてくるから待ってな。」
そう言うと女性は村長宅に入っていった。
いかにも世話焼きのおばちゃんといった感じの人で、何だか安心した。
村長との話がエコにも聞こえるように、エコには肩に乗ってもらうことにした。
他の人には認識できていないので、そのつもりでしないとなと、改めて気を引き締めた。
しばらくすると、マルタさんが村長宅から出てきて手招きをしてきた。
さて、これからどうなるか。
そう思いながらも、開き直っている自分がいた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ユートとエコは、無事に人のいる集落へたどり着くことができました。
ただ、言葉が通じる理由や、エコが今どのような存在になっているのかなど、まだ分からないことばかりです。
少しずつこの世界のことを調べながら、ユートとエコの旅を描いていければと思います。
次回も読んでいただけると嬉しいです。




