第09話 短波ラジオの代替網
佐藤がデータを投影する。波形が乱れる。人工的なノイズだ。
「次に無断欠席の事実。本土との連絡断絶を突く」
伊達のメモが震える。インクが滲んでいる。
「最後に第四者の存在だ。これを隠蔽した者を追う」
胃が痙攣する。冷たい塊が転がる。
「全員、端末を確認しろ。痕跡消去の有無を」
キーボードの音が続く。暗闇に青い光が揺れる。
佐藤の息が止まる。画面が赤く点滅する。
「検知しました。外部アクセス痕です。三時間前」
背筋が氷る。肌が粟立つ。
「時間帯は私が外出中だ」
林が立ち上がる。椅子が軋む。
「第四者はこの情報を流した。会合は罠だ」
窓の外で光が走る。車のヘッドライトだ。ゆっくりと近づく。
「沈黙を守れ」
声を殺す。暗闇に溶け込む。
車のエンジン音が消える。ドアが閉まる音。一つの音。二つの音。
階段に足音が響く。ゆっくりだ。一歩。二歩。
拳を握り締める。爪の圧力が痛い。
「来たな」
誰も動かない。呼吸だけが白く曇る。
ドアノブが回る。鍵がかかっている。止まる。
そして、金属の細い音がする。鍵穴を探る音だ。 鍵穴を探る音が止まる。金属の軋みだけが残る。手のひらが冷たい。
「第四者は扉の向こうだ」
林が息を詰まらせる。佐藤の指がキーボードから離れる。画面が暗転する。
衛星携帯が振動する。一度。二度。予期せぬ周波数だ。
「遠隔会合への切り替え要求だ」
伊達が画面を覗き込む。暗号化された接続要求が点滅している。
「受けろ」
ボタンを押す。画面に三人の顔が映る。第四者の枠は黒いままだ。
「現状を報告する。内部の敵が存在する」
声が低く通る。喉に棘が刺さるようだ。
画面の一人が眉を動かす。微かなうなずき。
「証拠を提示する。灯台の点滅パターンだ」
佐藤がデータを送信する。波形が共有画面に流れる。
「次に通信端末の痕跡。三時間前の外部アクセス」
伊達がログファイルを転送する。受信確認のマークが点く。
黒い枠が突然明るくなる。第四者の顔ではない。文章が表示される。
『証拠隠滅を確認。協力者を確保。続行するな』
文字が消える。接続が切断される。画面が真っ暗だ。
胃が締め付けられる。冷や汗が背中を流れる。
「裏切り者は三人のうちだ。我々は捨て駒だった」
林が机を蹴る。音が地下に響く。
「セカンダリ・プランを即時実行する。全員、移動準備だ」
鞄を背負う。肩紐が食い込む。
階段を上がる。足取りが重い。扉の向こうの気配が消えている。
玄関のドアノブに触れる。金属が冷たい。鍵穴の傷は新しい。
「ここを出る。廃工場へ向かう」
林が窓から外を伺う。暗い。車の影はない。
ドアを開ける。冷気が顔を撫でる。夜の匂いがする。
歩き出す。足音を殺す。暗闇に消える。
廃工場の暗がりで携帯が震える。画面は真っ黒だ。
「衛星回線も死んだ。完全な遮断だ」
胸の鼓動が速い。口の中が乾く。
地図を広げる。ペンライトで照らす。赤い線を引き直す。
「代替ルートは三つ。それぞれにリスクが違う」
胃が重い。背中に汗が流れる。
新しい連絡手段を考える。昔の記憶を呼び起こす。
「緊急時はアナログだ。物理的な連絡網を再構築する」
廃材の陰から古い端末を取り出す。埃を払う。
「これで本土と直接つながる。ただし一回限りだ」
指が震える。キーを打つ。計画変更を通達する。
「全員に伝えろ。合図の鐘は罠だ。新ルートで集まれ」
送信ボタンを押す。青いランプが一瞬点滅する。
外から物音がする。金属が擦れる音だ。
息を殺す。筋肉がこわばる。暗闇に溶け込む。 廃工場の暗がりで振り向く。遠くから鐘の音が聞こえる。
時間を確認する。まだ30分早い。
「鐘が鳴っている。回数が違う」
耳を澄ます。三回。四回。音が不規則に切れる。
胸の鼓動が耳元で鳴る。筋肉がこわばる。
林が腕時計を見つめる。顔が硬い。
「緊急警告か。それとも罠の合図か」
息が浅くなる。胃が重い。
廃材の隙間から外を窺う。街灯の下に人影はない。
鐘の音が止む。余韻だけが暗闇に響く。
「出勤を中止せよ。合図は使えない」
携帯を取り出す。画面は真っ黒のまま。
冷たい汗が背中を流れる。喉が詰まる。
「安全な別地点へ移れ。状況を分析する」
地図を握りしめる。紙が軋む。
足を踏み出す。暗闇の中へ消える。 暗闇から出る。朝の光が目を刺す。
「出勤ルートを変更する。反復パターンを避けろ」
肩の力が抜けない。背中の重さが骨に染みる。
駅前の混雑に紛れる。人ごみが壁になる。視線を感じる。
「裏通りを通る。安全確認は三秒間隔で」
雑踏の中で携帯を確認する。画面は相変わらず真っ黒だ。
喫茶店の窓ガラスに映る。後方に立つ男の影。
「ターゲットを確認した。距離二十メートル」
足を速める。路地に曲がる。排水路の匂いが鼻を衝く。
裏口の階段を上がる。支店の非常階段だ。
「通常業務は中止だ。全員に緊急連絡網を構築する」
ドアを押す。オフィスの明かりがまぶしい。
佐藤が立ち上がる。顔が青い。
「支店長。全通信が遮断されています。サーバーもダウン」
デスクの電話を取る。ツールが無音だ。
「物理的な伝達だけが頼りだ。人間をメッセンジャーに使う」
部下たちの目が泳ぐ。緊張が空気を張り詰めさせる。
「各家庭を直接訪問せよ。口頭で避難計画を伝達する」
地図を広げる。赤い線で区域を分ける。
「セカンダリ避難拠点は三か所。移動は単独で。監視を掻い潜れ」
指で地点を叩く。紙がへこむ。
「連絡は午前中に完了だ。遅れは許されない」
佐藤が頷く。手が震えている。
「了解しました。でも、表向きの業務はどうしますか?」
「通常業務を装え。メールの返信を続けろ。全てはカバーだ」
パソコンの電源を入れる。起動音が空虚に響く。
窓の外を見下ろす。路上の男がまだ立っている。
「監視の目は変わらない。だが計画は動き出した」
コーヒーカップを持つ。手の震えが湯面に波紋を描く。
飲まずに置く。喉がひりつく。
「全員、行動開始だ。72時間のカウントダウンが始まった」 モニターの光が目を刺す。通常業務の画面が並ぶ。
「表向きのメール対応を続けろ。全て定型文で」
手がキーボードを打つ。文章に熱はない。
佐藤が近づく。息が荒い。
「衛星回線の復旧策です。短波ラジオによる代替網を構築しました」




