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第46話 松山空港への賭け

 画面に三つのウィンドウが開く。顔は映さない。声だけだ。

『父さん…』

『こっちは問題ない』

『待機完了だ』


「計画を説明する。松山空港への移動だ」


 拳銃をテーブルに置く。金属音が倉庫に響く。

「十二のグループに分ける。移動は夜間のみ。車両は林が手配した」


『ルートは?』

「海沿いの産業道路だ。検問を避ける」


 左手首が疼く。腫れが熱を持つ。

「空港では伊達が政府筋と調整する。民間チャーター機だ」


『本当に来るのか?』

「来させる。こっちが準備する」


 衛星電話の亀裂が指に引っかかる。

「美咲、お前は第一グループだ。林のトラックに乗れ」


『私は…』

「文句は聞かない。動け」


 胸が苦しい。呼吸が浅くなる。

「四十八時間後、午前四時に松山空港で集合する。遅れた者は待たない」


『了解』

『了解だ』

『…わかった』


「連絡はこのチャンネルのみ。他の一切を信じるな」


 ブリーフケースを開ける。名簿のページをめくる。

「千二百人を四十八時間で動かす。これが最終調整だ」


 エンジン音が外から近づく。車のヘッドライトが壁を掠める。

「…時間だ。撒け」


 PCを閉じる。暗号化チャンネルが切断される。

 拳銃を掴む。冷たい金属が最後の現実だ。倉庫の奥で名簿を広げる。千二百の名前が並ぶ。


「グループ分けを変更する。第一陣を今夜中に」


 林がメモを取る。彼の手が震える。


「トラックは三台。海沿いの産業道路だけを使え」


 美咲が顔を上げる。彼女の目が暗い。


「私は最後のグループに」


「駄目だ。第一陣で行け」


 胸が締まる。呼吸が浅くなる。


「父さん、一人で残るつもりでしょう」


「作戦指揮官は最後まで残る。当然だ」


 伊達が拳銃を手入れする。金属音が規則的だ。


「空港での受け入れは確実か」


「政府筋は約束する。民間機は待機中だ」


 衛星電話の亀裂が指に食い込む。液晶が痙攣する。


「通信は三時間毎。暗号化チャンネルのみ」


 林が頷く。彼の額に汗が光る。


「裏切り者の危険は?」


「佐藤は隔離した。政府回線は使わない」


 窓の外で車の音がする。ヘッドライトが一瞬掠める。


「…監視か」


 全員が動きを止める。呼吸だけが倉庫に響く。


「場所を変える。今すぐだ」


 名簿を叩き込む。ブリーフケースの金具が鳴る。


「次の連絡は四時間後。集結地点は変えず」


 皆が立ち上がる。椅子の脚がコンクリートを軋ませる。


「生きて会おう」


「生きる。それが任務だ」


 拳銃を腰に収める。冷たさが最後の確かめだ。埃取りが立てかけてある。掃除道具の列から角度が狂っている。


 心臓が肋骨を打つ。手のひらがじっとり熱い。

「監視だ。全痕跡を消せ」


 ブリーフケースを開ける。菊花紋章が冷たい。

 機密文書を掴む。頁がざらりと指に引っかかる。


「政府回線は汚染されている。一切使うな」

 書類を叩き込む。シュレッダーがない。


「伊達、燃やせる場所は?」

「無理だ。煙と臭いが目立つ」


 歯を食いしばる。喉が渇いて唾も出ない。

 ノートPCを起動する。林の通信記録を削除する。


「暗号化キーを再発行する。今すぐだ」

 指がキーボードを駆ける。汗でキーが滑る。


「新たな周波数は三つだけ。縦割りセルで繋げ」

 衛星電話の亀裂がひび割れる。液晶が痙攣する。


『了解。四十八時間で再編する』

「待て。佐藤の関与した全てのデータを破棄しろ」


 胸が締めつけられる。呼吸が浅い。

「証拠はこの部屋に残す。彼らに撹乱を与える」


 名簿のコピーだけを鞄に叩き込む。オリジナルはデスクに置く。

「誤った情報を食わせる。時間を稼ぐ」


 窓の外で車のエンジンが唸る。ヘッドライトがゆっくりと動く。

「…撒け。最終調整は終わった」


 拳銃を腰に収める。冷たさが現実を刻む。

「次の連絡は移動後だ。生きて繋がれ」


 足を引きずる。左腕の疼きが鋭い。

 暗がりへ消える。背後に証拠の山を残して。倉庫の奥で名簿の頁がめくれる。千二百の名前が指の下を過ぎる。


「松山空港へ。第一陣は今夜中だ」


 林がトラックの鍵を弄る。金属音だけが答える。


「政府回線は汚染されている。連絡はこのチャンネルのみ」


 衛星電話の液晶が痙攣する。亀裂が視界を歪ませる。


「美咲、お前は第一陣だ」


 彼女の息遣いがマイクに荒い。


「父さんは?」


「最後の陣で行く。指揮官は残る」


 胸が締まる。呼吸が浅くなる。


「四十八時間。集合は午前四時。遅れた者は待たない」


 伊達が拳銃の弾倉を確認する。カチ、カチ。


「空港での接触は?」


「民間機のパイロットが合図を出す。赤いスカーフだ」


 外でエンジン音が近づく。ヘッドライトが壁を掠める。


「…時間だ」


 名簿を叩き込む。ブリーフケースの金具が鳴る。


「生きて会おう」


「生きる。それが任務だ」


 暗がりへ足を踏み出す。左腕の疼きが次の隠れ家までの距離を刻む。埃取りが廊下の掃除道具から離れている。立てかけられた角度が不自然だ。


 胸の鼓動が早くなる。手のひらが熱い。


「掃除員は道具を揃えて戻す。これは監視の痕跡だ」


 伊達が机を叩く。音が硬い。


「連絡は取れぬ。衛星が死んでいる」


 ノートPCを開く。暗号化チャンネルだけが信頼できる。


「林か。計画を変更する。緊急連絡開始だ」


『美咲の寮には?』


「直接は危険だ。護衛付き移動を偽装する」


 左手首が疼く。腫れが熱を持つ。


「家族の緊急用件と伝えろ。寮長にはそれだけだ」


 鞄の中から新たなSIMカードを取り出す。


「代替連絡手段を確立する。この番号だけを使え」


 指がキーボードを駆ける。暗号化キーを送信する。


「受け取ったか」


『了解。偽装連絡を入れる』


「政府回線には触れるな。全ての痕跡を消せ」


 窓の外で車のヘッドライトが動く。ゆっくりと近づく。


「…監視が動いた。撒け」


 PCを叩き込む。ブリーフケースを閉める音が鋭い。


 拳銃の冷たさが腰に染みる。これが最後の連絡網だ。


「次の指示は移動後だ。生きて繋がれ」


 暗がりへ足を踏み出す。心臓が喉まで上がってくる。 部屋の埃取りが立っている。掃除道具の列から傾いている。


 心臓が肋骨を打つ。手のひらが熱い。

「伊達、娘への連絡は後だ。証拠隠滅を優先する」


 ブリーフケースを開ける。菊花紋章が冷たい。

 機密文書の束を掴む。頁が指に引っかかる。


「政府回線は汚染されている。美咲には連絡できない」

 衛星電話の液晶がひび割れる。暗号化チャンネルだけが信頼できる。


「伊達、外交デスクを調べろ。監視インジケーターを確認しろ」

 彼がデスクに近づく。警告ランプが赤く点滅している。


「回線は筒抜けだ」

「ならば、偽装情報を流す。時間を稼ぐ」


 名簿のオリジナルをデスクに広げる。コピーだけを鞄に叩き込む。

「誤った集合場所と時間を書き込め」


 ペンの先が震える。文字が歪む。

 松山空港とあった場所に、基隆港と記す。


「これで撹乱できる」

 胸が締まる。呼吸が浅い。


 窓の外で車のヘッドライトが動く。ゆっくりと接近する。

「…痕跡を残して撤収だ。今すぐに」


 拳銃を腰に収める。冷たさが覚悟を固める。

「美咲への連絡は、証拠隠滅後に我々の新チャンネルで行う」


 足を引きずる。左腕の疼きが鋭い。

 部屋に偽装の証拠を残し、暗がりへ消える。エプロンのポケットに手を突っ込む。現地協力者OBの連絡先メモが入っているはずだ。


 指先が紙片に触れる。引き抜く。メモは濡れている。汗か、それとも。

 文字が滲んで読めない。


「護衛要員への連絡は不可能だ」


 伊達がデスクの監視ランプを指さす。赤い光が規則的に点滅する。

「全ての回線が監視下にある。連絡すれば居場所が筒抜けだ」


 メモを握り潰す。紙の繊維が手のひらに食い込む。

 護衛要員の手配は諦める。代わりに証拠隠滅を急ぐ。


 ブリーフケースを開け直す。機密文書の束を取り出す。

 頁をめくる。邦人名簿、周波数表、偽装車両の手配書。


「これら全てを回収する。一片も残すな」


 外交官用デスクの通信端末を外す。配線を引き千切る。

 基盤が剥き出しになる。火花が散る。


「伊達、ハードディスクを破壊しろ」


 彼がデスクの下に潜る。鈍い衝撃音が響く。

 金属が歪む音だ。


 次に自分のノートPCを起動する。暗号化されたファイル群にアクセスする。

「護衛要員の個人データを削除する。彼らを危険に晒せない」


 指がキーを叩く。削除確認のダイアログが現れる。

 ためらわずに実行する。データが無効化される。


 鞄に叩き込むのは名簿のコピーと現金だけだ。

「偽装車両は使えない。既に監視されている」


 窓の外を見る。路地に止めてあった車のタイヤがパンクしている。

 ナイフの切り傷がくっきりと残る。


「徒歩で移動する。次の隠れ家まで」


 左腕の疼きが鋭さを増す。でも足は動かせる。

 最後に部屋を見渡す。証拠隠蔽は完了だ。


「行くぞ」


 ドアノブに手をかける。金属が冷たい。

 暗い廊下へ足を踏み入れる。護衛要員の代わりは、この拳銃だけだ。暗い廊下で手のひらが熱い。護衛要員OBの滲んだメモを握りしめたままだ。


「護衛は諦める。娘には我々が直接連絡する」


 伊達が頷く。彼の目が警告ランプの赤を反射している。

 拳銃の重さが腰骨に響く。


 ノートPCを起動する。暗号化プロトコルだけが信頼できる。

「証拠隠滅は完了だ。次は護衛要員との安全な通信確立だ」


 画面に新しいウィンドウが開く。使われていない軍事転用の暗号チャンネルを呼び出す。

「伊達、周波数『孤狼』を覚えているか」


「…あの非公式回線か」

「そうだ。政府の監視網からは外れている」


 指がキーボードを駆ける。かつての部隊で使った最終手段の認証コードを打ち込む。

 接続インジケーターが緑に変わる。


「繋がった」


 マイクに息を吹き込む。声紋認証だ。

「『冬の鷹』、応答せよ。緊急事態『白紙』だ」


 無線機から僅かなノイズ。そして声が返ってくる。

『…『秋風』、応答する。コード『白紙』確認』


 胸の鼓動が一瞬緩む。旧知の暗号だ。

「護衛対象は『雛鳥』。現在地は巣。回収を要請する」


『了解。『巣』の安全を確認せよ。『狐』の動向は?』

「『狐』は群れを乱した。『巣』周辺は汚染されている」


 左手首が疼く。腫れが熱い。

 伊達が窓の外を監視する。路地の車が動き始めた。


「移動計画を伝える。『巣』から『南の港』へ。今夜中だ」


『護衛は二名で可能か』

「可能だ。だが偽装車両は使えぬ。『狐』に把握されている」


 ブリーフケースの金具が冷たい。今やこれが全ての基盤だ。

「連絡はこの回線のみ。政府回線には一切触れるな」


『了解。『孤狼』チャンネルで待機する』


 通信を切る。暗号化された接続だけが残る確かな線だ。

 伊達が振り返る。彼の額に汗が光っている。


「護衛要員は動く。後は我々が娘を連れ出すだけだ」

「ああ。これでようやく…」


 窓の外でヘッドライトが一閃する。路地の車が加速した。

「…撒け。今だ」


 PCを叩き込む。拳銃を握り直す。冷たい金属が最後の護りだ。

 暗がりへ駆け出す。護衛要員との唯一の線を胸に刻みながら。エプロンの紙片が読めない。護衛要員への連絡は絶たれた。


 ノートPCを開く。起動が異常に重い。ファンが唸る。

「ウイルスか。それとも…」


 暗号化通信ソフトを立ち上げる。設定が初期化されていた。

「佐藤の仕業だ。セキュリティを破られた」


 心臓が肋骨を打つ。手のひらが冷たい汗で滑る。

 全ての通信基盤を疑う。


「伊達、衛星電話を」


 彼が渡す。液晶の亀裂が悪化している。

 周波数をスキャンする。雑音しか入らない。


「電波妨害だ。政府回線も民間もダメ」


 ブリーフケースを蹴る。中で名簿が軋む。

 娘への連絡手段が一つ、消えた。


「ゼロから構築する。暗号化キーを再生成だ」


 ノートPCのハードディスクを完全消去する。青い進行バーが遅い。

 新しいOSをUSBからインストールする。指が震える。


「最低限の通信ソフトだけ。余計なものは入れない」


 暗号化キーを手書きでメモする。紙とペンだけが確実だ。

 伊達が窓の外を見張る。彼の背中が張り詰めている。


「新しい周波数を割り当てる。既存のものは全て使わない」


 衛星電話のバッテリーを外し、再起動する。

 わずかに電波が掴める。軍用帯域をスキャンする。


「…これだ。未使用の隙間周波数」


 暗号化キーを入力する。接続テストの文字が点滅する。

「繋がった。これが新しい基盤だ」


 胸の奥で鼓動が高鳴る。これだけは守る。

 娘への緊急連絡経路を、この新チャンネル一つに絞る。


「美咲への伝達は、このキーと周波数のみ。他は全て偽情報だ」


 メモを破り、一片を口に入れ、噛み千切る。紙の味がする。

 飲み込む。これで消える。


「行くぞ。新しい基盤で動く」


 拳銃を腰に収める。冷たさが唯一の現実だ。

 暗がりへ足を踏み出す。左腕の疼きを無視して。ノートPCの起動が遅すぎる。プログレスバーが一ミリも進まない。


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