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第11話 床下の最終伝言

 床の板を踏む。一枚だけ音が違う。


 爪を立てて持ち上げる。下にメモが挟まっている。


 広げる。暗号数字が並ぶ。佐藤の筆跡だ。


「最後の伝言か。連絡不能時の手順だ」


 胸が締め付けられる。息が浅い。


「佐藤は捕まった。それとも……」


 メモを握りしめる。紙が皺になる。


 立ち上がる。足元がふらつく。


「次の行動は一つだ。単独で計画を推進する」


 ドアに向かう。背中に冷たい視線を感じる。


 振り向かない。歩き出す。


「佐藤のメッセージを解読する。敵の手が届かぬ場所で」 机の上を見る。ペンの位置がまた変わっている。


「侵入者は戻った。証拠隠滅の続きだ」


 衛星携帯を取り出す。電源を入れる。画面が歪む。


「通信妨害が続いている。ここは監視網の中心だ」


 胸の鼓動が早い。喉がひりつく。


 鞄を背負い直す。肩の筋肉がこわばる。


「セカンダリ避難拠点へ移動する。今すぐだ」


 窓から外を窺う。路上に人影はない。静寂が不自然だ。


 玄関へ戻る。足音を殺す。


 ドアノブに手をかける。金属が冷たい。


「表向きの業務は捨てる。生存が最優先だ」


 扉を開ける。冷気が流れ込む。


 階段を駆け下りる。足音が響きすぎる。


 路地へ飛び出す。朝の光がまぶしい。


「監視カメラを避けろ。迂回路を行く」


 歩幅を速める。背中に視線を感じる。


 振り向かない。角を曲がる。


 衛星携帯を確認する。電波マークが消えている。


「完全な遮断だ。内部の敵が動いた」


 息が浅くなる。胃が締め付ける。


 次の隠れ家まであと三百メートル。距離が遠い。


「単独移動は危険すぎる。でも待てない」


 人混みに紛れる。雑踏が壁になる。


 携帯をしまい込む。手のひらが汗で濡れる。


「合図の鐘は罠だった。全てが筒抜けだ」


 歯を食いしばる。顎が痛む。


 目的地のビルが見える。窓は暗い。


「中に入る前に周囲を確認しろ」


 足を止める。ショーウィンドウに映る後方を注視する。


 男が立っている。距離二十メートル。視線が合う。


「発見された。離脱だ」


 歩き出す。速度を変えずに。


 次の路地へ曲がる。駆け足に変える。


 背中で叫び声がする。足音が追ってくる。


「捕まるな。情報を持ち込むな」


 肺が焼ける。足が重い。


 路地を抜ける。大通りに出る。


 タクシーに手を挙げる。車が止まる。


「空港方面へ。急いでくれ」


 乗り込む。ドアが閉まる。


 窓越しに男が見える。走り去る。


 深く息を吸う。肺が震える。


「セカンダリ避難拠点は変わった。次は一人で戦う」タクシーを降りる。路地の奥の倉庫が目に入る。


「ここが次の中継点だ。衛星携帯の確認から始める」


 ドアを押す。錆びたヒンジが軋む。


 暗がりの中で携帯を取り出す。電源ボタンを押し込む。


 画面が一瞬光り、すぐに暗転する。バッテリー表示は満タンだ。


「電波は完全に死んでいる。外部からの妨害だ」


 胸の奥が冷える。手の指先が震える。


 倉庫の奥へ進む。段ボールの山をどかす。


「代替手段を確立する。信頼できる協力者だけに絞る」


 無線機の箱を開ける。埃が舞う。


 電源コードを接続する。ツマミを回す。雑音だけが響く。


「短波もダメか。となると物理的な伝達だけが残る」


 胃が重く沈む。額に冷たい汗がにじむ。


 懐中電灯で壁を照らす。落書きの間に数字が書かれている。


「林の緊急連絡先だ。これを使う」


 携帯電話を取り出す。SIMカードを交換する。


 番号を打つ。呼び出し音が一度、二度。


「……こちら林。状況は?」


「衛星回線は完全遮断。短波も使えない。お前との直通だけが頼りだ」


 沈黙が長引く。息遣いだけが聴こえる。


「了解した。俺が次の連絡網を構築する。決まった方法で待て」


 電話が切れる。残された音は自分の鼓動だけだ。


「表向きの業務は諦める。生存と任務の両立だけを考えろ」


 倉庫の扉から外を窺う。人影はないが、不気味な静けさがある。


「監視の目は変わらず。移動を続けるしかない」


 鞄を背負う。肩の革が食い込む。


 路地へ歩き出す。次なる拠点へ向かう足取りが重い。 支店長室のドアを押す。机の上は昨日と変わらない。


「表向きの業務を始める。全てを装え」


 パソコンを起動する。ログイン画面が現れる。


 佐藤に内線をかける。呼び出し音が三度鳴る。


「衛星携帯の障害を確認した。寺院の鐘は三十分早かった」


 受話器の向こうで息が止まる。


「セカンダリ・プランを発動する。代替連絡手段を緊急確立せよ」


「手段は?」


「短波を使え。指定周波数で本土に接続しろ」


 キーボードを打つ音が聴こえる。佐藤の手が震えている。


「了解。ただし交信時間は限られます」


「構わない。第一報を『鐘、異常鳴動。通信断』とせよ」


 受話器を置く。手のひらが汗ばむ。


 モニターに映る業務画面を操作する。指先だけが動く。


 窓の外を見る。街は平穏だ。嘘のように静かだ。


「監視の目を欺け。通常業務のふりを続けろ」


 立ち上がる。膝の関節が軋む。


「林からの連絡を待つ。次の指示まで動くな」


 ドアに向かう。背中に重い視線を感じる。


 振り向かない。歩き出す。


「裏では戦う。表では商社マンを演じる」


 廊下を進む。足音が響きすぎる。


「七十二時間。全てがこの間に決まる」鞄を置く。机の上に新しい書類が山積みだ。\

「表向きの業務を始める。全て通常通りに」


 パソコンを起動する。ログが正常に流れる。\

 心拍が耳朶で鳴る。額に冷たい汗がにじむ。


「第一報は本土に届いたか?」


 佐藤がうなずく。目だけが泳ぐ。\

「短波で送信済みです。返信は未確認」


 胃が締め付ける。舌が重い。\

「監視プログラムの撤去は?」


「進行中ですが……新たな侵入痕を発見しました」


 画面を指さす。システムログに不審な接続。\

「工作員が支店サーバーに直接アクセスした。三時間前だ」


 歯を食いしばる。顎の筋肉が痙攣する。\

「全端末の物理的遮断を完了させろ。今すぐだ」


「ですが表向きの業務が──」\

「業務は俺が引き受ける。お前は防壁を築け」


 立ち上がる。膝が軽く震える。\

 窓辺に移動する。街を見下ろす。


 路上の車両が一台、不自然に長く停車している。\

「監視は続いている。だがペースを変えられた」


 デスクに戻る。書類にサインを入れる。\

 ペンの動きだけが滑らかだ。手は震えない。


「伊達からの連絡を待て。次の移動指示まで」


 内線が鳴る。受話器を取る。\

「陳国華が動いた。工作員三名、邦人リストに基づき個別接触を開始」


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