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模型(1/10)スケールのアポカリプス  作者: 暁の裏


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第19話 「月光花の思い出」

 船は穏やかな波に揺られながら、港町ポルト・マリーナへと向かっていた。


 孤島を出発してから一日。太陽は西の空に傾き始め、海面をオレンジ色に染めている。


「もうすぐ着くぞ!」


 ガレスが豪快に叫んだ。


「見えるか?ポルト・マリーナだ!」


 悠斗は船首に立ち、遠くに見える町を見つめた。


 白い壁の建物が並び、港には多くの船が停泊している。数日前に出発した、あの町だ。


「戻ってきたな……」


 悠斗は呟いた。


「ええ」


 ルーナも隣に立って、町を見つめていた。


「懐かしい気がするわね。まだ数日しか経っていないのに」


「そうだな」


 二人は微笑み合った。


 船は徐々に港に近づいていく。


 やがて、船は港に到着した。


 船員たちが慌ただしく動き回り、ロープを桟橋に結びつける。


「お疲れ様でした、ガレスさん」


 悠斗は船を降りながら、ガレスに礼を言った。


「おう、無事に帰れてよかったな」


 ガレスは豪快に笑った。


「また何かあったら、いつでも言ってくれ。俺の船で連れて行ってやるぜ」


「ありがとうございます」


 悠斗は深々と頭を下げた。


「それじゃあ、また」


「ああ、気をつけてな」


 三人は港を後にした。


 町は、以前と変わらず活気に満ちていた。


 市場では魚や野菜が売られており、人々の声が賑やかに響いている。


「さて……」


 悠斗は周囲を見回した。


「宿を探さないとな」


「前に泊まった宿に行きましょうか」


 ルーナが提案した。


「あそこ、良かったし」


「そうだな。じゃあ、あの宿に行こう」


 三人は、以前泊まった宿屋へと向かった。


 宿屋の主人は、三人を覚えていたようだ。


「おお、また来てくれたのか!」


 主人は嬉しそうに出迎えた。


「ようこそ! 部屋はあるぞ!」


「ありがとうございます」


 悠斗は料金を支払った。


「同じ部屋でいいか?」


「ええ、お願いします」


 主人は三人を、二階の同じ部屋に案内した。


 窓からは海が見え、波の音が心地よく響いている。


「やっぱり、いい部屋ね」


 ルーナは窓を開けた。


 潮の香りが、部屋の中に入ってくる。


「ふう……」


 悠斗はベッドに倒れ込んだ。


「疲れた……」


「お疲れ様」


 ルーナは微笑んだ。


「今日は、ゆっくり休みましょう」


「そうだな」


 セレスティアも荷物を置いた。


「あの……」


 セレスティアが言った。


「夕食、どうしますか?」


「ああ、そうだな」


 悠斗は起き上がった。


「また、あの海鮮料理食べに行こうぜ」


「この間のところですね」


「ああ。また食べたいんだ」


 悠斗は目を輝かせた。


「美味かったからな」


「ふふ、相変わらずね」


 ルーナは苦笑した。


「でも、私も賛成よ。あの海鮮料理、本当に美味しかったし」


「じゃあ、決まりだな」


 三人は少し休憩した後、レストランへと向かった。


 レストランは、以前と同じように賑わっていた。


 多くの客が、海鮮料理を楽しんでいる。


「いらっしゃいませ!」


 店員が笑顔で出迎えた。


「おお、また来てくれたのか!」


 店主も顔を出した。


「ありがとうございます! どうぞ、こちらへ!」


 三人は、窓際の席に案内された。


「では、何にしますか?」


「えっと……」


 悠斗はメニューを見た。


 しかし、すぐに決めた。


「全部!」


「え……?」


 店員が驚いた。


「全部、ください」


「ぜ、全部ですか……?」


「ああ。前回食べて、どれも美味かったから。全部食べたいんだ」


「わ、わかりました……」


 店員は慌てて厨房に向かった。


「悠斗……」


 ルーナが苦笑した。


「また大量に頼んだわね」


「だって、美味いんだもん」


 悠斗は照れくさそうに言った。


「お前たちも、たくさん食べろよ」


「ええ、わかってるわ」


 しばらくして、料理が運ばれてきた。


 焼き魚、海老の塩焼き、貝の蒸し焼き、イカの炙り焼き、蟹、タコの柔らか煮……


 テーブルいっぱいに、海鮮料理が並んだ。


「うわあ……」


 セレスティアが感嘆の声を上げた。


「すごい量ですね……」


「ああ。じゃあ、いただきます!」


 悠斗は焼き魚から食べ始めた。


 一口食べて――


「うまい!」


 悠斗は感動した。


「やっぱり美味い! この魚、本当に美味い!」


 パリッとした皮、ふわっとした身、塩の味付け。


 完璧だった。


「海老も美味い!」


 悠斗は海老の塩焼きを食べた。


 プリッとした食感、甘い汁。


「最高だ!」


 ルーナとセレスティアも、静かに料理を楽しんでいた。


「本当に……美味しいわね……」


 ルーナは焼き魚を味わった。


「こんなに美味しい魚、初めて……」


「ええ……」


 セレスティアも頷いた。


「海の幸って、素晴らしいですね……」


 三人は、黙々と食べ続けた。


 悠斗は次々と料理を平らげていく。


 一皿、二皿、三皿。


「おかわり!」


「はい!」


 店員が慌てて料理を運んでくる。


 四皿、五皿、六皿。


「悠斗様……本当にすごい食欲ですね……」


 セレスティアが呆れたように言った。


「だって腹減るんだもん」


 悠斗は口に海老を詰め込みながら答えた。


「この体だと、エネルギー消費が激しいんだ」


「わかってますよ」


 セレスティアは優しく微笑んだ。


「でも、たくさん食べてくれると、作った人も嬉しいでしょうね」


「そうだといいけど」


 悠斗は笑った。


 食事は続いた。


 貝の蒸し焼き、イカの炙り焼き、蟹の身、タコの柔らか煮。


 すべてが美味しかった。


「ふう……」


 悠斗は満足そうに息をついた。


「食った……」


「お腹いっぱい?」


 ルーナが尋ねた。


「ああ。もう十分だ」


 悠斗は皿を見つめた。


 皿は、綺麗に空になっていた。


「全部食べちゃったわね」


 ルーナも満足そうに微笑んだ。


「美味しかったわ」


「はい」


 セレスティアも頷いた。


「幸せでした」


 三人は、料金を支払い、レストランを出た。


 外は、もう暗くなっていた。


 月明かりが、街を照らしている。


「さて、宿に戻ろうか」


 悠斗が言った。


「ええ」


 三人は、宿屋へと戻った。


 部屋に入ると、ルーナは窓を開けた。


 夜風が、心地よく吹き込んでくる。


「いい風ね……」


 ルーナは呟いた。


「ああ」


 悠斗もベッドに座った。


「そういえば、ルーナ」


「何?」


「お前、孤島で記憶を取り戻したんだよな」


「ええ……」


 ルーナの表情が、少し曇った。


「思い出したわ……辛い記憶を……」


「話してくれるか?」


 悠斗は優しく言った。


「無理にとは言わないけど」


「いいえ……」


 ルーナは首を横に振った。


「話すわ。あなたたちに、知っておいてほしいから」


 ルーナはベッドに座り、深呼吸した。


「私が思い出したのは……アリエルとの記憶」


「アリエル……」


 悠斗は思い出した。


 以前、ルーナが語った少女の名前。


「ええ。姉のエクリシアと私と、アリエルの三人で過ごした日々のこと」


 ルーナは目を閉じた。


「話すわ……最初から……」


 セレスティアも、静かにルーナの隣に座った。




 ルーナは、ゆっくりと語り始めた。


「それは……今から千年以上前のこと……」


 ルーナの声が、静かに響いた。


「私と姉のエクリシアは、この世界を統べる二柱の女神として、神々の世界で暮らしていたの」


 ルーナは遠い目をした。


「でも……正直に言うと、私たちは退屈していた」


「退屈……?」


 悠斗が尋ねた。


「ええ。神々の世界は、とても静かで、平和で……でも、変化がなかった」


 ルーナは続けた。


「毎日、同じことの繰り返し。人間たちを見守り、世界のバランスを保つ」


「それは……確かに退屈かもしれないな」


「ええ。姉も私も、もっと何か……新しいことをしたかった」


 ルーナは微笑んだ。


「それで、ある日、姉が言ったの。『ねえ、ルーナ。人間の世界に行ってみない?』って」


「人間の世界に……」


「ええ。私たちは神だから、人間の姿になることができた。だから、人間の世界に降りて、人々と触れ合ってみようって」


 ルーナの瞳が、輝いた。


「私は、すぐに賛成したわ。人間の世界、どんなところなのか、ずっと興味があったから」


 ルーナは続けた。


「そして、私たちは人間の姿になって、ある小さな村を訪れたの」


 ルーナは目を閉じて、当時の光景を思い浮かべた。


「村は、とても小さかった。二十軒ほどの家があって、人々は農業をして暮らしていた。私たちは、旅人のふりをして村に入った。村人たちは、最初は警戒していたけど、すぐに打ち解けてくれた」


「そして……その村で、アリエルと出会ったの」


 ルーナの声が、さらに優しくなった。


「アリエルは、当時十歳くらいの少女だった。長い茶色の髪、大きな緑色の瞳。いつも笑顔で、とても元気な子だった」


 ルーナは微笑んだ。


「最初に会った時のことを、よく覚えているわ」


 ルーナは語り始めた。


「私たちが村に入った時、アリエルは家の前で遊んでいたの。木の枝で作った剣を振り回して、『えい! えい!』って叫びながら。私たちが近づくと、アリエルは動きを止めて、私たちを見つめた。そして――」


 ルーナは少し笑った。


「『あなたたち、誰?』って、いきなり聞いてきたの。子供らしい、率直な質問だった。姉が答えたわ。『私たちは旅人よ。この村に少しの間、滞在させてもらえないかしら』って、アリエルは、少し考えてから言ったの。『うん、いいよ! でも、お父さんとお母さんに聞いてみないと』って。それで、アリエルは私たちを彼女の家に連れて行ってくれた」


 ルーナは続けた。


「アリエルのお父さんとお母さんは、とても優しい人たちだった。私たちのことを快く受け入れてくれて、家に泊まらせてくれたの。それから、私たちはその村で暮らし始めた」


 ルーナの表情が、明るくなった。


「最初の数日は、村の仕事を手伝ったわ。畑仕事をしたり、水を汲んだり、洗濯をしたり、姉は、最初は不器用だったけど、すぐに慣れた。私は……正直に言うと、かなり苦労したわ」


 ルーナは少し照れたように笑った。


「神として暮らしていた時は、何もかも魔法でできたから。でも、人間の世界では、すべて自分の手でやらなきゃいけない。でも……それが、とても楽しかった」


 ルーナの瞳が、輝いた。


「畑で土を耕す感覚、水を汲んで運ぶ重さ、洗濯物を干す時の風の香り。すべてが新鮮で、すべてが楽しかった。そして、アリエルは私たちにいろいろなことを教えてくれた」


 ルーナは微笑んだ。


「村のこと、人間の暮らしのこと、遊びのこと」


「アリエルは、本当に元気で明るい子だった。いつも笑っていて、いつも何かに夢中になっていた」


 ルーナは続けた。


「村での生活に慣れてきた頃、アリエルが言ったの。『ねえ、ルーナ、エクリシア、一緒に遊ぼう!』って、それから、私たちは毎日のように、アリエルと遊ぶようになった」


 ルーナの声が、さらに優しくなった。


「野原で鬼ごっこをしたり、川で水遊びをしたり、森で探検ごっこをしたり。アリエルは、いつも新しい遊びを考えついた。『今日はこれをしよう! 明日はあれをしよう!』って。姉も私も、アリエルと遊ぶのが大好きだった」


 ルーナは目を閉じて、当時の光景を思い浮かべた。


「ある日、アリエルが言ったの。『ねえ、森の奥に、すごく綺麗な花が咲いてるんだって。一緒に見に行こうよ!』って。私たちは、アリエルと一緒に森の奥へと向かった。森は深く、木々が鬱蒼と茂っていた。でも、アリエルは道を知っていた。『こっちだよ!』って、先を歩いていく。姉と私は、アリエルの後についていった」


「しばらく歩くと、開けた場所に出た。そこには――」


 ルーナの声が、感動に満ちた。


「一面に、青い花が咲いていたの」


「青い花……?」


 悠斗が尋ねた。


「ええ。月光花という花。夜になると、月の光を吸収して淡く光るの」


 ルーナは微笑んだ。


「その花畑は、本当に綺麗だった。青い花が、風に揺れている。アリエルは、花畑の中に駆け込んでいった。『わあ! すごい! 本当に綺麗!』って叫びながら。姉も私も、花畑の中に入った。花の香りが、心地よく漂っている。私たちは、花畑の中に座って、しばらく花を眺めていた」


 ルーナは続けた。


「アリエルが言ったの。『ねえ、この花、摘んで持って帰ってもいい?』って。姉が答えたわ。『いいわよ。でも、少しだけにしましょう。たくさん摘むと、来年咲かなくなるかもしれないから』って。アリエルは頷いて、数本の花を摘んだ。そして、私たちにも渡してくれた」


「『はい、ルーナ。はい、エクリシア』って。私たちは、アリエルから花を受け取った。青い花は、手のひらに収まるくらい小さかった」


「『ありがとう、アリエル』」


「『どういたしまして!』アリエルは、満面の笑みで答えた」


 ルーナは微笑んだ。


「それから、私たちは花畑で遊んだ。花を摘んだり、花冠を作ったり、花の匂いを嗅いだり、太陽が傾き始めた頃、アリエルが言ったの。『そろそろ帰ろうか。お母さんが心配するから』私たちは、花畑を後にして、村へと戻った」


「村に着くと、アリエルのお母さんが待っていた。『アリエル! 心配したのよ!』って。アリエルは、照れくさそうに謝った。『ごめんなさい、お母さん。でも、すごく綺麗な花を見つけたの!』って。そして、アリエルは摘んできた花を見せた」


「お母さんは、花を見て微笑んだ。『綺麗ね。じゃあ、これを花瓶に飾りましょう』」


「その夜、アリエルの家では、青い花が花瓶に飾られた。私たちは、その花を見ながら夕食を食べた」


 ルーナの声が、さらに温かくなった。


「そんな日々が、毎日続いた。ある日は、川で魚を捕まえたり、ある日は、村の祭りに参加したり、ある日は、星空を見上げながら語り合ったり、アリエルと過ごす時間は、本当に楽しかった」


「姉も、いつも笑顔だった。『ルーナ、人間の世界って、こんなに楽しいのね』って」


「私も同じ気持ちだった。『ええ、姉さん。もっと、ここにいたいわ』って」


 ルーナは少し寂しそうな表情をした。


「でも……私たちは神だった。いつまでも人間の世界にいるわけにはいかなかった」


「ある日、姉が言ったの。『ルーナ、そろそろ神々の世界に戻らないと』私は……正直に言うと、戻りたくなかった。アリエルと、もっと一緒にいたかった。でも、姉の言う通りだった。私たちには、神としての役割があった。それで、私たちはアリエルに別れを告げることにした」


 ルーナの声が、震えた。


「次の日の朝、私たちはアリエルに言ったの。『アリエル、私たち、明日この村を出るわ』」


「アリエルは、驚いた表情をした。『え……もう行っちゃうの……?』」


「姉が答えた。『ええ。私たち、旅人だから。ずっとここにいるわけにはいかないの』」


「アリエルは、涙を流した。『嫌だ……ルーナとエクリシアと、もっと一緒にいたい……』」


「私も、涙が溢れそうだった。でも、我慢した」


「『アリエル……私たちも、あなたと一緒にいたいわ。でも……行かなきゃいけないの』アリエルは、しばらく泣いていた。でも、やがて涙を拭いて言ったの」


「『わかった……でも、また戻ってきてね。約束だよ』って」


「姉と私は、頷いた。『ええ、約束するわ。必ず、また戻ってくる』って」


 ルーナは深呼吸した。


「そして――次の日、私たちは村を出た」


「アリエルは、村の入口まで見送りに来てくれた」


「『気をつけてね、ルーナ、エクリシア』」


「『ええ。あなたも、元気でね』」


「私たちは、アリエルに手を振って、村を後にした、でも――」


 ルーナの声が、暗くなった。


「私たちは、約束を守らなかった」


「村を出てすぐ、姉が言ったの。『ルーナ、やっぱり戻りましょう。アリエルのことが心配だわ』って」


「私も同じ気持ちだった。『ええ、姉さん。戻りましょう』って」


「それで、私たちは神々の世界に戻って、すぐに神の力を使って村の様子を見ることにした。でも……その時は、村は平和だった。アリエルも元気に暮らしていた」


「私たちは、安心した。『良かった。アリエルは大丈夫だわ』って」


「それで、また神々の世界での生活に戻った。でも……私たちは、毎日のように村の様子を見ていた。アリエルが元気にしているか、確認するために」


「数ヶ月が過ぎたある日――」


 ルーナの声が、さらに震えた。


「私が、いつものように村の様子を見ようとした時――村が……燃えていた」


「え……?」


 悠斗は息を呑んだ。


「村が……黒い煙を上げて、燃えていた」


 ルーナの瞳から、涙が溢れた。


「私は、すぐに姉を呼んだ。『姉さん! 大変! 村が!』姉も、村の様子を見て、顔色を変えた。『これは……盗賊!』」


「私たちは、すぐに人間の姿になって、村へと駆けつけた、でも……」


 ルーナは両手で顔を覆った。


「遅かった……村に着いた時には、もう……」


 ルーナの声が、悲痛に響いた。


「村は焼け落ち、人々は……倒れていた、血まみれで……動かない……」


「私は、必死にアリエルを探した。『アリエル! アリエル! どこにいるの!』って叫びながら、そして……」


 ルーナの涙が、頬を伝った。


「村の中央で……アリエルを見つけた……アリエルは……倒れていた……胸に……剣が刺さっていた……血が……たくさん流れていて……」


 ルーナは嗚咽した。


「私は……アリエルに駆け寄った『アリエル! アリエル!』って叫びながら……アリエルはまだ息があった。彼女は、私を見て微笑んだの」


「『ルーナ……戻ってきて……くれたんだ……』って。私はアリエルを抱きしめた『ごめんなさい……ごめんなさい……もっと早く来れば……』って」


「アリエルは……首を横に振った『ううん……ルーナのせいじゃ……ない……』って」


「そしてアリエルは言ったの『ルーナ……ありがとう……楽しかった……また……一緒に……遊びたかった……な……』って、それが……アリエルの最後の言葉だった」


「アリエルは……私の腕の中で……息を引き取った……」


 ルーナは、声を上げて泣いた。


「私は……何もできなかった……」


「神なのに……力があったのに……」


「アリエルを……救えなかった……」


 悠斗は、ルーナに駆け寄った。


 そして、優しく抱きしめた。


「ルーナ……」


 セレスティアも、ルーナの隣に座り、肩を抱いた。


「ルーナ様……」


 ルーナは、二人の腕の中で泣き続けた。


「アリエル……ごめんなさい……ごめんなさい……」


「お前のせいじゃない」


 悠斗は優しく言った。


「お前は、悪くない」


「でも……」


「悪いのは、盗賊たちだ。お前じゃない」


 悠斗はルーナの頭を撫でた。


「お前は……アリエルのことを、大切に思っていた。それだけで十分だ」


「悠斗……」


 ルーナは顔を上げた。


 涙で濡れた顔。


「本当に……私のせいじゃない……?」


「ああ」


 悠斗は力強く頷いた。


「お前は、何も悪くない」


 セレスティアも頷いた。


「ルーナ様。悠斗様の言う通りです」


「セレスティア……」


「アリエルさんは……きっと、ルーナ様を責めていません」


 セレスティアは優しく微笑んだ。


「最後の言葉を聞けば、わかります。アリエルさんは、ルーナ様と過ごした時間を、とても大切に思っていた」


「だから……ルーナ様も、自分を責めないでください」


「セレスティア……」


 ルーナは、再び涙を流した。


「ありがとう……二人とも……」


 悠斗とセレスティアは、ルーナを優しく抱きしめ続けた。


 しばらくして、ルーナは落ち着きを取り戻した。


「ごめんなさい……取り乱してしまって……」


「いや、気にするな」


 悠斗は微笑んだ。


「辛い記憶を話してくれて、ありがとう」


「ええ……」


 ルーナは涙を拭いた。


「でも……まだ続きがあるの」


「続き……?」


「ええ。姉のこと」


 ルーナは深呼吸した。


「アリエルが死んだ後……姉は……」


 ルーナの声が、震えた。


「姉は……怒り狂ったの」


「『許さない……絶対に許さない……』って、叫びながら。そして……姉の力が、暴走し始めた」


「黒い月が、異常に輝き始めた。姉の周囲に、黒い炎が渦巻き始めた。私は、姉を止めようとした。『姉さん、やめて! 落ち着いて!』って」


「でも……姉は、もう私の声が聞こえていなかった。姉の力は、どんどん大きくなっていった」


「そして……村を包み込み、森を焼き尽くし、周辺の国々をも飲み込んでいった」


 ルーナは目を閉じた。


「私は……姉を止めようとした。白い月の力を解放して、姉に立ち向かった。でも……姉の力は、あまりにも強かった。私の力では、暴走した姉の力には敵わなかった。私は……吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。そして……この間話した通り、姉の力が、私を貫いた。その時、私の力が……砕け散った。力は、無数の欠片となって、大陸中に散らばっていった。記憶も、一緒に散らばった」


 ルーナは目を開いた。


「それが……私が覚えている、最後の記憶」


 ルーナは悠斗を見た。


「そして……あなたに出会った」


「ルーナ……」


 悠斗は、ルーナの手を握った。


「辛かったな……」


「ええ……」


 ルーナは微笑んだ。


「でも……今は、あなたがいてくれる」


「だから……大丈夫」


 悠斗は、ルーナを抱きしめた。


「俺が、お前を守る」


「ありがとう……」


 ルーナは、悠斗の胸に顔をうずめた。


 セレスティアは、二人を優しく見守っていた。


 しばらくして、ルーナは顔を上げた。


「ごめんなさい……暗い話をしてしまって……」


「いや、気にするな」


 悠斗は微笑んだ。


「お前の過去を知れて、良かった」


「ええ……」


 セレスティアも頷いた。


「ルーナ様の辛い過去を知れて……私も、もっとルーナ様を支えたいと思いました」


「セレスティア……ありがとう」


 ルーナは微笑んだ。


「さて……」


 悠斗は立ち上がった。


「これからのこと、話し合おうか」


「そうね」


 ルーナも頷いた。


 三人は、テーブルの周りに座った。


「まず、確認だけど」


 悠斗が言った。


「ルーナの記憶は、あと二つ残ってるんだよな」


「ええ。全部で五つに分かれていて、今までに三つ取り戻した」


「じゃあ、残りの二つを探さないとな」


「ええ」


「シルヴァリアが言ってたな。北の極寒の地に、神殿があるって」


「そうね」


 ルーナは頷いた。


「そこに、私の記憶があるはず」


「じゃあ、次は北を目指すか」


 悠斗は地図を広げた。


「北の極寒の地……ここか」


 悠斗は地図上の一点を指差した。


「ノルディア帝国のさらに北。氷雪地帯の奥」


「ええ」


 しかし、悠斗は地図を見て、眉をひそめた。


「待てよ……この場所……」


「どうしたの?」


「ここ……黒月の聖堂の近くだ」


「え……?」


 ルーナは驚いた。


「黒月の聖堂って……ゼノンがいた場所……?」


「ああ」


 悠斗は頷いた。


「ゼノンは倒したけど……黒月教の残党がまだいるかもしれない」


「そうね……」


 ルーナは考え込んだ。


「でも、行かないわけにはいかないわ」


「わかってる。でも……」


 悠斗は少し考えた。


「まず、王都に戻ろう」


「王都……?」


「ああ。レイナルド宰相に、状況を報告したい。それに、装備も補充しないとな」


「そうね……」


 ルーナは頷いた。


「それに、エリシアにも会いたいわ。彼女、心配してるだろうし」


「ああ。じゃあ、決まりだ」


 悠斗は地図を畳んだ。


「明日、王都に向けて出発しよう」


「わかったわ」


「私も賛成です」


 セレスティアも頷いた。


「じゃあ、今日はゆっくり休もう」


 悠斗は伸びをした。


「明日から、また長い旅になるからな」


「ええ」


 三人は、それぞれベッドに横になった。


「おやすみ、悠斗」


「おやすみ、ルーナ」


「おやすみなさい」


 三人は、眠りについた。



 翌朝。



 悠斗たちは、早朝に目を覚ました。


「さて、出発するか」


 悠斗は荷物をまとめた。


「ええ」


 ルーナとセレスティアも準備を整えた。


 三人は、宿屋を出た。


 宿屋の主人が、見送りに来てくれた。


「気をつけてな」


「ありがとうございました」


 悠斗は頭を下げた。


 三人は、町を後にした。


 エルディア王国の王都を目指して。


 道中、悠斗たちは草原や森を抜けていった。


 時折、魔物に遭遇したが、悠斗が軽々と倒していった。


「相変わらず強いわね」


 ルーナが微笑んだ。


「まあな」


 悠斗は照れくさそうに頭を掻いた。


 数日間、旅を続けた。


 宿屋に泊まることもあったが、野宿をすることも多かった。


 そして――


 ある夜。


 悠斗たちは、森の中で野宿をしていた。


 焚き火を囲んで、簡単な夕食を食べた後、三人はそれぞれ休息を取っていた。


「今日は、俺が見張りをする」


 悠斗が言った。


「ルーナとセレスティアは、休んでくれ」


「でも……」


「大丈夫だ。俺、まだ眠くないし」


「わかったわ……」


 ルーナは寝袋に入った。


「何かあったら、起こしてね」


「ああ」


 セレスティアも寝袋に入った。


「お願いします、悠斗様」


「任せろ」


 悠斗は、焚き火の前に座った。


 火が、パチパチと音を立てている。


 周囲は暗く、木々の影が揺れている。


「……」


 悠斗は、周囲を警戒しながら座っていた。


 時折、風が吹き、木の葉が擦れ合う音がする。


 森の中は、静かだった。


 しかし――


 悠斗は、何か違和感を感じた。


「……?」


 悠斗は耳を澄ませた。


 何か……微かな音が聞こえる。


 足音……?


 いや、違う。


 もっと……静かな音。


 悠斗は立ち上がった。


 そして――


「誰だ!」


 悠斗は叫んだ。


 その瞬間――


 シュッ!


 暗闇から、何かが飛んできた。


 悠斗は、咄嗟に避けた。


 ドスッ!


 矢が、悠斗が立っていた場所に突き刺さった。


「くっ……!」


 悠斗は警戒態勢を取った。


「ルーナ! セレスティア! 起きろ!」


「え……?」


 ルーナが目を覚ました。


「何が……」


「敵襲だ!」


 悠斗は叫んだ。


 その瞬間――


 暗闇から、複数の人影が現れた。


 黒い装束に身を包んだ、五人の人物。


 全員、顔を仮面で隠している。


「暗殺者……!」


 セレスティアが叫んだ。


「ターゲット確認。セレスティアを確保しろ」


 一人の暗殺者が、低い声で命令した。


「了解」


 他の暗殺者たちが、一斉に動き出した。


「セレスティアを狙ってる!」


 悠斗は叫んだ。


「ルーナ、セレスティアを守れ!」


「わかったわ!」


 ルーナは、セレスティアの前に立った。


 暗殺者たちが、次々と攻撃してくる。


 一人目の暗殺者が、短剣を振るって悠斗に斬りかかった。


「遅い!」


 悠斗は、短剣を避けて暗殺者の腕を掴んだ。


 そして――


「うおおお!」


 悠斗は、暗殺者を投げ飛ばした。


 ドサァッ!


 暗殺者は、木に激突して倒れた。


「一人!」


 しかし、他の暗殺者たちも次々と攻撃してくる。


 二人目の暗殺者が、悠斗の背後から襲いかかった。


「後ろか!」


 悠斗は振り返り、拳を振るった。


 ドガッ!


 拳が、暗殺者の顔面に命中した。


 暗殺者は、吹き飛ばされて地面に倒れた。


「二人!」


 しかし、残りの三人の暗殺者は、悠斗を無視してセレスティアに向かっていった。


「セレスティアさん!」


「月光の矢!」


 ルーナが、光の矢を放った。


 矢が、一人の暗殺者に命中した。


「ぐあっ!」


 暗殺者は、倒れた。


「三人!」


 しかし、残りの二人の暗殺者は、セレスティアに肉薄していた。


「くっ……!」


 セレスティアは、光の結界を展開した。


 しかし――


 一人の暗殺者が、結界を破った。


「なんて……!」


 セレスティアは驚いた。


「結界が……破られた……!」


 暗殺者は、セレスティアに向かって短剣を振るった。


「セレスティア!」


 悠斗は、全速力で駆けつけた。


 そして――


 ドガァッ!


 悠斗の拳が、暗殺者を吹き飛ばした。


「四人!」


 しかし、最後の一人の暗殺者が、セレスティアの背後に回り込んでいた。


「危ない!」


 ルーナが叫んだ。


 暗殺者が、セレスティアの首に腕を回した。


「動くな」


 暗殺者は、セレスティアの首に短剣を当てた。


「セレスティア!」


 悠斗は、動きを止めた。


「くっ……!」


「動けば、この女の命はない」


 暗殺者は、冷たい声で言った。


「おとなしくしろ」


「くそ……!」


 悠斗は、拳を握りしめた。


 その時――


 ルーナが手を上げた。


「月の束縛!」


 銀色の鎖が、暗殺者の体に巻きついた。


「なっ……!」


 暗殺者は、動けなくなった。


「今よ、悠斗!」


「わかった!」


 悠斗は、暗殺者に向かって跳んだ。


 そして――


 ドガッ!


 悠斗の拳が、暗殺者の顔面に命中した。


 暗殺者は、セレスティアから離れて倒れた。


「セレスティア、大丈夫か!」


「は、はい……」


 セレスティアは、震えながら頷いた。


「ありがとうございます……」


「よかった……」


 悠斗は、安堵のため息をついた。


 そして、倒れた暗殺者たちを見た。


 五人の暗殺者。


 全員、気絶している。


「とりあえず、縛っておこう」


 悠斗は、ロープを取り出した。


 そして、暗殺者たちを縛り上げた。


「さて……」


 悠斗は、最後に倒した暗殺者を見た。


「こいつから、話を聞くか」


 悠斗は、暗殺者の仮面を外した。


 すると――


「え……?」


 悠斗は驚いた。


 仮面の下には、若い女性の顔があった。


 しかし、その顔の右半分には――


 大きな火傷の痕があった。


 皮膚が焼けただれ、痛々しい傷跡が残っている。


「女性……?」


 ルーナも驚いた。


「しかも……この火傷……」


「ひどい火傷だな……」


 悠斗は、女性の顔を見つめた。


 火傷のない左半分は、かわいらしい顔立ちをしている。


 長い黒髪、整った鼻、小さな唇。


 しかし、右半分の火傷が、その美しさを台無しにしていた。


「可哀想に……」


 セレスティアが呟いた。


「こんなひどい火傷……どうやってできたのかしら……」


「わからない。でも……」


 悠斗は、女性を木に縛り付けた。


「起きたら、話を聞こう」


 しばらくして、女性が目を覚ました。


「ん……」


 女性はゆっくりと目を開けた。


 そして、自分が縛られていることに気づいた。


「くっ……」


 女性は、縄をほどこうとした。


 しかし、縄はしっかりと結ばれており、ほどけない。


「無駄だ」


 悠斗が言った。


「おとなしくしろ」


 女性は、悠斗を睨んだ。


「……」


「聞きたいことがある」


 悠斗は、女性の前にしゃがんだ。


「なぜ、セレスティアを狙った?」


「……」


 女性は黙っていた。


「答えろ」


「……」


「答えないなら、こっちにも考えがある」


 悠斗は、少し脅すような口調で言った。


 しかし、女性は黙り続けた。


「頑固だな……」


 悠斗は困った。


 その時――


 ルーナが前に出た。


「待って、悠斗」


「ルーナ……?」


「私に、話させて」


 ルーナは、女性の前に座った。


「ねえ、あなた。名前は?」


 女性は、ルーナを見た。


 そして――


「……リリア」


 小さな声で答えた。


「リリア……」


 ルーナは優しく微笑んだ。


「私はルーナ。こっちは悠斗、そしてセレスティア」


「……」


「リリア、あなた……どうして暗殺者になったの?」


 ルーナの優しい問いかけに、リリアは少し表情を和らげた。


「……姉を探すため」


「姉……?」


「ええ。姉は……黒月教の使徒だった」


「黒月教の……使徒……?」


 悠斗は驚いた。


「どの使徒だ?」


「……第二使徒、セルペンタ」


「セルペンタ……!」


 セレスティアが驚いた。


「毒の巫女……」


「ええ」


 リリアは頷いた。


「姉は、黒月教の第二使徒として活動していた」


「でも……」


 リリアの声が、震えた。


「私は……姉が黒月教に入ったことを、知らなかった」


「ある日、村が襲われた。盗賊に」


「私は……家の中に隠れていた。でも、盗賊が家に火をつけた」


「火は、どんどん燃え広がった。私は……逃げられなくなった」


 リリアは、自分の火傷の痕に手を触れた。


「その時……顔に火傷を負った」


「必死で外に逃げ出したけど……もう、村は焼け落ちていた」


「両親も……死んでいた」


 リリアの目から、涙が溢れた。


「私は……一人ぼっちになった」


「それから、姉を探し始めた。姉が生きているか、確かめたくて」


「でも……姉は、黒月教に入っていた」


「私は……姉に会いたかった。でも、黒月教は危険だった」


「それで……暗殺者の組織に入った。情報を集めるために」


「でも……姉は、黒月教の中でも高い地位にいた。簡単には会えなかった」


 リリアは、悠斗たちを見た。


「そして……ある日、依頼が来た」


「『月の巫女、セレスティアを捕らえろ』って」


「え……?」


 セレスティアが驚いた。


「でも……なぜ私を……?」


「わからない。ただ、依頼主が言ったの。『セレスティアを捕らえれば、セルペンタに会わせてやる』って」


「セルペンタに……?」


「ええ。だから……私は、依頼を受けた」


 リリアは俯いた。


「姉に会いたかったから……捉えた」


「でも……失敗した」


「ルーナ……」


 悠斗は、ルーナを見た。


 ルーナは、リリアに優しく語りかけた。


「リリア……あなたの姉、セルペンタは……」


「生きてるわ」


「え……?」


 リリアは顔を上げた。


「本当……?」


「ええ。セルペンタは、黒月教を脱退したの」


「脱退……?」


「ええ。今は、ある村で静かに暮らすと言っていたわ」


 ルーナは微笑んだ。


「あなたの姉は、生きてる」


 リリアの目から、涙が溢れた。


「姉さん……生きてる……」


「ええ」


 ルーナは、リリアの縄をほどいた。


「リリア、あなたは姉に会いに行きなさい」


「でも……私は……あなたたちを襲った……」


「気にしないで」


 ルーナは優しく微笑んだ。


「あなたは、姉に会いたかっただけ。それは、悪いことじゃない」


「……」


 リリアは、涙を流しながら頭を下げた。


「ありがとうございます……」


「それより、リリア」


 悠斗が言った。


「依頼主のことを教えてくれないか?」


「依頼主……?」


「ああ。誰が、お前たちに依頼したんだ?」


 リリアは少し考えてから答えた。


「依頼主は……裏社会の男だった」


「裏社会の男……?」


「ええ。名前は知らない。顔も見たことがない」


「顔も……?」


「ええ。依頼は、いつも手紙で来る。そして、報酬も手紙と一緒に送られてくる」


「手紙……」


「ええ。その男は……とても用心深い。誰にも正体を明かさない」


「でも……」


 リリアは続けた。


「噂では、その男は裏社会で相当な力を持っているらしい」


「暗殺、盗賊、密輸……あらゆる犯罪に関わっている」


「そして……最近、その男が黒月教の残党と手を組んだという噂がある」


「黒月教の残党と……!」


 悠斗は驚いた。


「まだ、黒月教の残党がいるのか……」


「ええ。ゼノンが倒された後、黒月教は壊滅したけど……一部の信者たちは、まだ活動を続けているらしい」


「そうか……」


 悠斗は考え込んだ。


「リリア、その男について、他に何か知らないか?」


「ごめんなさい……それ以上は……」


「わかった」


 悠斗は頷いた。


「ありがとう、リリア」


 リリアは立ち上がった。


「私……姉に会いに行きます」


「ああ。気をつけてな」


「はい」


 リリアは、深々と頭を下げた。


「本当に、ありがとうございました」


 そして、リリアは森の中に消えていった。


「行っちゃったわね……」


 ルーナが呟いた。


「ああ……」


 悠斗も頷いた。


「でも、良かったな。姉に会えるんだから」


「ええ」


 セレスティアも微笑んだ。


「リリアさん、幸せになってほしいですね」


「ああ」


 悠斗は空を見上げた。


 夜空には、二つの月が浮かんでいる。


「さて……」


 悠斗は焚き火の方を向いた。


「今夜は、もう寝られないな」


「そうね……」


 ルーナも頷いた。


「警戒しないと」


「俺が見張りをする。お前たちは休んでくれ」


「いいえ、私も起きてます」


 セレスティアが言った。


「さっき、私が狙われたんですから」


「そうだな……」


 悠斗は頷いた。


「じゃあ、三人で交代で見張ろう」


「ええ」


 三人は、夜明けまで警戒を続けた。


 幸い、暗殺者は二度と現れなかった。


 朝になり、三人は出発の準備をした。


「さて、王都まであとどれくらいだ?」


 悠斗は地図を確認した。


「あと二日くらいかな」


「そうね」


 ルーナも頷いた。


「急ぎましょう」


「ああ」


 三人は、森を出た。


 草原を歩き、川を渡り、徐々に王都に近づいていく。


 道中、何度か魔物に遭遇したが、悠斗が軽々と倒していった。


 そして――二日後。


 ついに、エルディア王国の王都が見えてきた。


「王都だ……」


 悠斗は、遠くに見える城壁を見つめた。


「戻ってきたな……」


「ええ」


 ルーナも微笑んだ。


「懐かしいわね」


「はい」


 セレスティアも頷いた。


「ここから、すべてが始まったんですよね」


「ああ」


 悠斗は頷いた。


「でも……」


 悠斗は周囲を警戒した。


「気をつけろ。暗殺者がまた襲ってくるかもしれない」


「わかったわ」


 三人は、警戒しながら王都に向かった。


 王都の門の前には、衛兵が立っていた。


「止まれ」


 衛兵が槍を構えた。


「そいつらは」


 連れて来た暗殺者たちのことだろう。


「俺は神崎悠斗。こっちはルーナとセレスティア」


 悠斗は名乗った。


「こいつらは途中で襲ってきた暗殺者だ」


「神崎悠斗……?」


 衛兵は驚いた表情をした。


「あの、黒月教を倒した英雄の……?」


「ああ、そうだ、こいつらを頼みたい」


「そうか……分かった」


 衛兵は、悠斗をじっと見つめた。


 そして――


「通れ」


 衛兵は槍を下ろした。


「ようこそ、王都へ」


「ありがとう」


 悠斗は頭を下げた。


 暗殺者たちを預けた後、三人は王都の門をくぐった。


 王都は、以前と変わらず賑わっていた。


 市場では商人たちが商品を売り、人々が行き交っている。


「変わらないわね……」


 ルーナが呟いた。


「ああ」


 悠斗も頷いた。


「でも……」


 悠斗は周囲を警戒した。


「油断するな。暗殺者が、どこかに潜んでいるかもしれない」


「わかったわ」


 三人は、警戒しながら王城へと向かった。


 王城の門の前には、また衛兵が立っていた。


「止まれ」


 衛兵が槍を構えた。


「俺は神崎悠斗。レイナルド宰相に会いに来た」


「神崎悠斗殿……!」


 衛兵は驚いた。


「お待ちしておりました! すぐに宰相にお知らせします!」


 衛兵は慌てて城の中に駆け込んでいった。


 しばらくして、レイナルド宰相が出てきた。


「悠斗殿、ルーナ殿、セレスティア殿!」


 宰相は嬉しそうに出迎えた。


「お帰りなさい! 無事で何よりです!」


「ただいま戻りました」


 悠斗は深々と頭を下げた。


「報告したいことがあります」


「ええ、もちろんです。どうぞ、中へ」


 宰相は三人を城の中に案内した。




 悠斗たちは、宰相と向かい合って座った。


「それで、報告とは?」


 宰相が尋ねた。


「はい」


 悠斗は、これまでの冒険を説明した。


 孤島のこと。


 ルーナが記憶を取り戻したこと。


 そして、暗殺者に襲われたこと。


 宰相は、真剣な表情で聞いていた。


「なるほど……暗殺者が、セレスティア殿を狙ったと……」


「はい。そして、依頼主は裏社会の男で、黒月教の残党と手を組んでいるようです」


「黒月教の残党……」


 宰相は眉をひそめた。


「まだ、残党がいるのですか……」


「ええ。ゼノンを倒しましたが、一部の信者たちはまだ活動を続けているようです」


「それは……厄介ですね……」


 宰相は考え込んだ。


「わかりました。こちらでも、調査を進めます」


「お願いします」


「それと……」


 宰相は、ルーナを見た。


「ルーナ殿、記憶を取り戻されたとのこと、おめでとうございます」


「ありがとうございます」


 ルーナは微笑んだ。


「でも、まだすべてではありません。あと二つ、記憶が残っています」


「そうですか……」


 宰相は頷いた。


「では、次はどちらへ向かわれるのですか?」


「北の極寒の地です」


 悠斗が答えた。


「そこに、神殿があるようです」


「北の極寒の地……」


 宆相は地図を広げた。


「ここですね。ノルディア帝国のさらに北」


「はい」


「わかりました。こちらでも、準備を手伝います」


「ありがとうございます」


 悠斗は頭を下げた。


「では、今日はゆっくり休んでください」


 宰相は微笑んだ。


「客室を用意しますので」


「ありがとうございます」


 三人は、客室に案内された。


 部屋は広く、豪華なベッドが三つ用意されていた。


「ふう……」


 悠斗はベッドに倒れ込んだ。


「疲れた……」


「お疲れ様」


 ルーナは微笑んだ。


「ゆっくり休みましょう」


「ああ」


 悠斗は目を閉じた。


「しばらく、ここで休もう……」


 三人は、それぞれベッドに横になった。


 長い旅の疲れが、徐々に癒されていく。


 窓の外では、太陽が西の空に傾き始めていた。


 王都の街並みが、オレンジ色に染まっている。


 平和な光景。


 しかし、悠斗の心の中には、不安があった。


「暗殺者……裏社会の男……黒月教の残党……」


 悠斗は呟いた。


「これから、どうなるんだろうな……」


 悠斗は、天井を見つめた。


 そして、心の中で誓った。


「何があっても……ルーナとセレスティアは、俺が守る」


 悠斗は、決意を新たにした。


皆様、お疲れ様でした。セレスティアです。


今回は……とても心が揺さぶられる旅となりました。


ルーナ様が語ってくださったアリエルさんとの記憶。あの優しい日々と、突然の別れ。お話を聞きながら、私も涙が止まりませんでした。大切な人を失う悲しみは、千年の時を経ても癒えることはないのですね。


でも、悠斗様が優しくルーナ様を抱きしめる姿を見て、私は確信しました。ルーナ様は、もう一人ではないのだと。悠斗様という、かけがえのない存在がいらっしゃるのだと。


それから……暗殺者に襲われた夜のこと。私が狙われていると知った時は、本当に恐ろしかったです。でも、悠斗様とルーナ様が必死に守ってくださいました。お二人には、感謝の言葉しかありません。


リリアさんのお話も、胸が痛みました。姉を探し続けた彼女の想い。きっと、セルペンタ様と再会できることを、心から願っています。


次は北の極寒の地へ向かいます。どんな困難が待ち受けているのか……不安もありますが、悠斗様とルーナ様と一緒なら、きっと乗り越えられると信じています。


それでは、また次の物語でお会いしましょう。


月の巫女 セレスティア

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