85.魔法のブレイクスルー
■シベル大森林
~第7次派遣2日目~
パパスもそうだが、この国では教会から離れていく人間が一定の割合でいるようだ。
教会が全てを動かしている国で、そこから離れていく理由がタケルには判らなかった。
「それは、教会の言うとおりにしていても成長しないからだ」
「成長しない?」
「そうだ、教会は基本的に今までやってきたことが全て正しいと信じている。だから、新しい魔法も必要ないし、魔法ロッドなんて使う必要を全く感じていないのさ」
「俺は、どうやればもっと強い魔法が出せるかを突き詰める中で、ロッドの可能性にたどりつた。だが、教会としては『魔法を強くしても意味が無い』ってな言い分だ」
「魔法に限った話じゃないが、教会のせいで、この国では進歩しようって気が全然無いんだよ」
(確かに、この国は不自然なぐらい発展が遅れている)
(魔法も属人的なものだし、知識の共有が行われていない)
「ですけど、教会から離れると生活するうえで不自由なんじゃないですか?」
「関係ないさ。幸い、俺のロッドが欲しいって言うヤツはそれなりにいる。みんながアンタみたいに、化け物じみた魔法が使えるわけじゃない。少ない魔力や弱い聖教石しかもたないヤツは他の道具に頼ることになる」
(この国で一人のロッド職人なら食っていけるのか)
「判りました、私もロッドの代金はちゃんとお支払いします。大体、おいくらぐらいなんですか?」
「値段は相手次第だ、持ってるやつからはそれなりにもらう。だが、アンタからは聖教石を分けてもらえばありがたい。そんなに強い力の石じゃなくてもいいからさ」
「いいですよ、必要な種類と数を教えてください」
「じゃあ、小屋に戻ったら相談させてくれ」
(使い道が心配だが、多少のリスクはやむを得ないだろう)
森の中では狼を何度か見かけたが、襲い掛かってくるヤツは居なかった。
3時間ぐらい進んだところで、タケルはロブに止まるよう声を掛けた。
「じゃあ、ここからワグナーさんの小屋まで戻ります」
馬も含めて全員を集めてから、アキラさんと二人で光聖教石(転移用)を地面に埋めた。
大き目の光聖教石を握り締めて、目を瞑る。
「ジャンプ」
■シベル大森林 ワグナーの小屋
「!」 「!」
ワグナーも、ロブも一瞬で周りの景色が変わったため、きょろきょろと辺りを見回している。
「本当に転移できるんだな! スゲエな!」
「・・・」
ロブは驚きすぎて、声が出ないようだ。
「ええ、理屈は教会にある『転移の間』と同じような場所を何処にでも作れるというだけです。他にもできる魔法士はいるかもしれません」
「いや、そんなに簡単な話じゃない。まずは、そんなに強い光の聖教石を5本も簡単に揃えられるヤツはいない。それと、いくら加工しても教会の『転移の間』程の石にはなら無いだろうから、魔法の力自体も必要だ。いずれにせよ、こんなことを思いつくヤツは他には居ないだろう」
「明日は、あそこまで転移で飛んでいきます、そうすれば北の小屋までは1日も掛らないですよね」
「ああ、半日ちょっとで着くだろうよ」
「じゃあ、少し早いですが、そろそろバーベキューにしましょうか」
「バーベキュー?」
タケルとアキラさんは二人でスタートスまで転移で戻った。
ミレーヌから加工肉と野菜をドッサリ分けてもらい、調味料・焼酎・日本酒・果実酒と一緒にワグナーの小屋まで戻ってくる。
所要時間はわずか15分ぐらいだろう。
ナカジーの仕切りで小屋の前に椅子や座れる木箱とマキが用意されている。
包丁仕事はナカジーに任せて、タケルは石でかまどを組んで焼き網を乗せた。
渡し木につるした鍋には水を入れて火にかける。
切られた肉と野菜が揃った!
まずは、果実酒をカップに注いで乾杯だ。
「では、新しい出会いとすばらしい魔法ロッドの完成を祈って、カンパーイ!」
最近はしきたりの説明をしなくても、雰囲気でカップをぶつけてくれることが判った。
ロブは加工肉とコショウに今日も取り付かれている。
ワグナーも食材の種類に驚いたようだ。
「こんなに、良い肉をどうやって手に入れているんだ?」
「ああ、オズボーンっていう親切な人が、毎回差し入れてくれてるみたいです」
「オズボーン司教が!?」
ワグナーもオズボーンのことを知っているようだ。
イメージと差し入れが合わないのだろう。
面倒なので、経緯の説明は省略することにした。
ワグナーも酒と肉の両方が気に入ったようだ、段々とピッチが上がってきた。
ナカジーは、今日もよく働くいている。もちろん、食べる方も抜かりは無い。
「ワグナーさん、アイオミー司教にも聞いたんですが、一本のロッドに異なる種類の聖教石をつけるのは無理なんでしょうか?」
「いや、無理じゃぁ無いさ。だけど、魔法力の強化は当然弱くなる。ロッドの役割をどう考えるかじゃないか? 一つの強い魔法で行くか、二つの魔法でそこそこにするか。だけど、タケルならどっちもアリだろう。そもそも魔法力が強いんだろ?これ以上強くしてどうするつもりなんだ?」
「確かにそうですが、ロッドはナカジーのために先ずは用意したいんです」
「いやぁ、この姉さんだってかなりの魔法力だと思うぞ」
「でしょー♪ もっと飲もうよ、ワグナーさん♪」
ナカジーがご機嫌になった。
「ロッドや聖教石はつまるところ魔法を発動させるための手助けだ、自分がどんな風に魔法を発動させたいかをイメージして、ロッドを持つ方が良いだろうな」
(イメージ・・・)
「ロッドを使って、異なる2種類の魔法を同時に発動させることは出来るでしょうか?」
「厳密には無理だろう、だけど水を氷にするのと同じで短い時間で連続して発動させれば良いんじゃないか?」
「でも、それぞれの神に祈りが必要になるので、二つ目の発動に時間が掛ります」
「なるほどな、神様に順番に祈ってるからか。まぁ、俺もやったことがある訳じゃないが、二つの神に同時に祈りを捧げてから発動したらどうなんだ? 魔法を発動させる時の動作や言葉で二つの魔法が立て続けに発生するように、タケルが祈れば出来そうな気がするがな」
「・・・・・オォー!! その通りですよね! 何でこんな簡単なこと思いつかなっかたんだろう。やっぱりワグナーさんは天才ですよ!」
タケルの興奮ぶりにワグナーやナカジーは驚いていた。
だが、タケルにとっては大きなブレイクスルーだ。
二人の神様に同時に祈りを捧げる・・・
明日、さっそく試してみよう。




