107.後始末と歓迎会と
■スタートス聖教会 風の丘
~第10次派遣1日目~
風の丘からでは、はっきりと見えなかったが、練習している場所の立ち木に火がついたようだ。
大火事にはならないだろうが、早めに消化した方が良いだろう。
タケルは水のロッドを取り出して、神に祈りを捧げた。
-大粒の雨が降る雲を与えてください。
ロッドの示した先に黒い雲が大きくなっていき、大粒の雨が教会周辺に降り始めた。
「じゃあ、俺たちも戻ろうか?」
「雨はそのままにされるのですか?」
「しばらく、頭冷やしてもらった方が良いんじゃないかな?」
タケル達が風の丘から戻って来たころにはちょうど雨も上がっていたが、あたりには焦げ臭い匂いが残っていた。
空き地にはメンバー全員とブラックモア、グレイスの二人がいる。
全員びしょ濡れだ。
「どうしたの?」
「私が調子に乗って、大きいのいっぱい出したら、消えんようになってしもたんです。スンマセンでした」
容疑者が犯人だったか。
林の一部がこげているが、大事になるほどではなかったようだ。
「私達もすぐに駆けつけたのですが、生憎ノックス司祭が不在だったものですから、桶の水をかけていました。中々消えないところへ運よく雨が降って、くすぶっていた場所も既に消えています」
運よく、では無いけどね。
「ご迷惑をかけてすみませんでした。私がマリンダと新しい魔法を試したくて、マユミから目を離してしまったので」
「いえ、また新しい魔法を考えられたのですか?」
「まだ、練習中なんですけど風魔法の応用を考えています。それで、マユミはどの位の大きさの炎を出したの?」
「そのぅ・・・、結構大きいやつですわ」
「俺が見た限りでは5メートルぐらいのを3つぐらい浮かべていましたよ。見てるだけでビビリましたから」
ダイスケ君が教えてくれました。
明らかにやりすぎだが凄い才能だ。タケル自身より凄いと思う。
「チャレンジするのは良いことだけど、ゲームと違って本当に燃えるってのを忘れないでよ。練習する時は桶に水を汲んどいたほうが良いね」
「わかりました・・・」
しかし、桶の水では追い付かないだろう、先に水魔法も覚えてもらうか。
「でも、心置きなく大きな炎を出せるように水の魔法もやってみようか?」
「はい、やってみたいです!」
やる気があって素晴らしい。
「基本的には炎と同じ、祈る神様がグレン様からワテル様に代わって、頭の中で出したい水をイメージすれば出来ると思うよ。一度やってみせるね」
タケルは無造作に右手を伸ばして声を出した。
「ウォーター!」
手の上に50cmぐらいの水球が浮かんでいる。
最初の頃と違って神へのお願いを短縮しても頭にイメージを浮かべれば声と同時に水球がすぐに浮かぶ。
「これ、水なんですよね!?」
浮かんでいる水球は真円に近いため、風が無ければ透明なガラス球か何かに見える。
タケルは水球をそのまま地面に落とした。
「ウワッ!」
地面に当たった水球が回りに飛び散って、マユミの足元も濡らした。
「最初は神様に話しかけるようにお願いするのが良いと思う。その時には具体的な水の形とか大きさを思い浮かべること。俺がやっているのはそれだけ、じゃあ、マユミもやってみよう!」
「わかりました!」
マユミは素直に言われたこをやり始めた。
口元でぶつぶつ言っている。
準備が出来たようだ、タケルと同じように右手を伸ばした。
「ウォーター!」
元気良く声が出た!・・・が、水は出ていない。
「あれ? なんでやろう? ちゃんとお願いしたんやけどなぁ・・・」
「もう一回、最初からやってみてよ。神様の名前は間違えないようにね」
頷いてもう一度ぶつぶつ言ってから、右手を伸ばした。
「ウォーター!・・・・あれ? やっぱりあかんわ。なんでやろ?」
適性なのだろうか?炎と同じようには水が出てこない。
「まあ、慌てる必要ないよ、魔法には相性があるらしいからね。少し時間掛けて使える魔法を増やしていけば良いんじゃないかな?それよりも、大きな炎を出して疲れてるんじゃない?」
「それは大丈夫ですけど、胸の辺りがピリっと」
-そうか、聖教石か!
「もらった聖教石をチョット見せてよ」
「オオッ、すげぇ」
マユミが取り出した聖教石の色を見てダイスケが思わず声を上げた。
確かに凄い、来て半日ほどで聖教石は既に緑に変っている。
聖教石は魔法のレベルに応じて、黄、緑、青、赤、そして黄金色に変化していく。
2ヶ月ぐらいやっているダイスケでもまだ黄色だから、これは期待の大型新人登場といえる。
■スタートス聖教会宿舎
今日の歓迎会にも大勢集まってくれた。
教会からは、ノックス司祭、ブラックモア、グレイス、マリンダ、マリア、ルイーズ、カタリナが、町からもスティンが三人連れて来てくれた。
乾杯の音頭は新人だがベテランのコーヘイにお願いした。
「それでは、皆様、私どものためにこのような会を開いていただきありがとうございます。これからの勇者チームとしての活躍を祈念して、カンパーイ!」
「「カンパーイ!!」」
4つに分かれたテーブルでカップをぶつけ合った。
タケルのテーブルには、コーヘイとマユミ、教会からはノックス、マリンダとマリアに座ってもらっている。後で席替えするだろうが主賓のテーブルだ。
食事はタケル達がゲイルで仕入れてきた食材を使って、イノシシのシチューと鳥の蒸し焼き中心にしたミレーヌ特性料理が並んでいる。
「コーヘイ、スタートスの雰囲気はどうよ?」
「いやぁ、町は小さいけど、居心地がいいですよね。風呂も入らせてもらいましたけど、驚きましたよ。あんな物まで作ってもらうなんてね」
「スティンを中心に町の人が親切なんだよ。もちろん、マリア達も手伝ってくれたからね。でも、壁がまだ出来ていないから、マユミ達女子には申し訳無いんだけどさ」
「気にせんといてください。後で私も入りに行きますから」
「エッ! マユミも入るの? 外から丸見えだけど大丈夫!?」
「暗いから見えへんと思いますよ。覗きに来たら炎で焼きますけどね」
「いや、それは勘弁して欲しいな、覗きに行かないようにはみんなにも注意しとくけどさ」
タケルはマユミの大胆さに呆れている、美人なのにどこかずれていると言うか、あつかましいと言うか・・・
「調味料とかも自分達で持ってきてるんですよね?」
「ああ、みんな好きな物を持ってきてるね。ケチャップとソースがたどり着かないんだけど、多分こっちにトマトとかが無いからだと思ってるんだよね。コーヘイ達は試してみなかったの?」
「はい、誰も思いつかなかったですね。食事もこの世界にしてはちゃんと出してくれてたと思いますし。やっぱり、タケルさんは工夫するのが好きなんですよね」
「うん、そう言う性格なんだろうね。マユミはどう、食事はこんな感じが多くなるけど、やっていけるかな?」
「全然大丈夫ですよ、こんだけ食べるもんがあって文句言うてたらバチがあたります。それにトイレとか風呂とか化粧とか色々違いますけど、『そんなもんやって』割り切らんとやって行かれへんでしょ?」
「たしかにその通り、この世界を受け入れないとやっていけないからね。謙虚で素晴らしい」
「それにしても、ここの教会は美人さんばっかりですけど、これは勇者特権でタケルが指名したんですか?」
タケルは飲みかけていたエールでむせた。
「し、指名なんてしてないよ。たまたまだね、神の思し召しだよ」
「へぇー・・・、マリンダさんなんか見たこと無いぐらいの美人さんですよね!?」
「ああ、俺もそう思った。タケルさんはバトラー司教にも気に入られてたし、美人を呼び寄せる恩恵があるんじゃないですか?」
-コーヘイ、余計なことを言うんじゃありません。マリンダの視線が厳しくなるだろ!
「あぁ、たまたまじゃないかな?それかこの世界の教会には美人が多いのかもしれないね。それよりも、マユミは魔法が凄かったよね。コーヘイも見てただろ?」
話を変えておいたほうが良いだろう。
「ええ、魔法ってあんなにすぐにできる人も居たんですね。もうチョット早めに気づけばよかったです。ダイスケに炎の刀も貸してもらいましたけど、あれもヤバイですよ。あんなの使っていたら、何でも切れる気がして危ないと思います」
確かに、それで前回は痛い目を見たのかもしれない。
「そうかもね、俺たちは剣の技よりも道具に頼ってるところはあるかもね。だけど、これも面白いように色々できるからやめられなくてね」
「他に、どんなんがあるんですか?」
「後は、炎の槍と炎、水、雷のロッドかな」
「雷! 雷も出せるんですか?」
「ああ、マユミも練習すればいつか出せるかもしれないね。今日降った雨もあれは俺が降らせた雨だしね」
タケルは調子に乗ってしゃべってしまった。
「え!? アレって、たまたまじゃ無かったんですか?」
「ああ、丘の上から煙が見えたから、スコールを降らせてみたんだけど」
「タケルさん、タケルさんの魔法はやっぱ無茶苦茶ですよ」
そうなのか?
何回も言われているが、頑張って色々できるようにしているだけなのだが。




