105.キタガワ マユミ 24才
■スタートス聖教会 裏の空地
~第10次派遣1日目~
パパスの小屋から転移で戻って来てからコーヘイをダイスケと合流させて、タケルはマリンダと魔法練習をしていたマユミの元へ向かった。
「マリンダ、マユミの魔法はどうなの?」
「マユミ様の魔法はお上手です。とても初めてとは思えません、既に大きな炎を出せるようになりました」
「へぇ、凄いね。マユミ、やって見せてよ」
「わかった、まかせといて」
関西弁で軽くOKしてくれたマユミは右手を伸ばして目を閉じた。
-確かに凄い!
マユミの手の上には1メートル近い炎がゆらゆらと立ち昇っている。
タケル以外ではここまで最初から出せるメンバーはこれまで居なかった。
「凄いねぇ、最初からこれなら、もっといけるよ」
「ほんまですかぁ? 私才能あるんかなぁ?」
「間違いなくあると思うよ。マユミは魔法をだすときに名前は叫ばないの?」
「せやけど、この世界の魔法には呪文は無いってマリンダさんに聞きましたよ?」
「呪文は特に無いんだけど、掛け声が合った方が何となく格好良くない?」
「いっぺん、タケルが見本を見せてよ」
宣言どおり、ため口で行くみたいだ。
「いいよ、-ファイア!-」
タケルは無造作に伸ばした手の20メートルぐらい先に大きな炎を出した。
「ウゥワッ!あんなに向こうでもできるんや!」
「ああ、距離は練習すればかなり遠くでも出るようになるし、大きさや出す時間、出す数もコントロールできるようになるよ。今度は、あの木のあたりに出してみてよ」
タケルは10メートルほど向こうの木を指差した。
「やってみます、あの掛け声は私が使ってもかまへんの?」
「良いよ、じゃんじゃん使って」
マユミは頷いて、半歩左足を引いて右手を木に向けた・
「ファイア!」
掛け声と同時に見事に火がついた!
本当に才能があるようだ、炎のイメージがしっかり神様に伝わっているのだろう。
「マユミは凄いよ。過去最速でマスターしてるんじゃないかな?」
「ほんまですか!? めっちゃうれしい!」
魔法が使えて笑った表情は面接の時とは違って少し子供っぽい感じがする。
だが、笑顔でマユミを見ていたタケルは、マリンダが冷ややかに見ていることに気が付いて、表情を引き締めた。
「今度は、手を下ろしても5秒間出るようにしてみてよ」
「5秒? どんな風に神様にお願いしたらええんでしょうか?」
「最初は、頭の中で1.2.3.4.5って数えて5つ数える間は出して欲しいって祈ってからやってみてよ」
頷いたマユミは下を向いてぶつぶつ言ってから、右手を木に向けて差し出した。
「ファイア!」
マユミが放った炎は手を下ろした後も燃え続け・・・、やがて消えた。
「できました! 私いけてますよね!?」
「ああ、充分だよ。しばらく時間と炎の大きさを自分なりに調整して一人で練習しといてよ。火を出しすぎて、火事にならない程度にね」
「わかりました! 頑張りますわ! 何や、たのしなって来た!」
関西女子は魔法にはまったようだ、あれだけできれば楽しいに決まっている。
タケルにはその気持ちが良くわかっている。
「マリンダ、新しい風魔法の練習がしたいから丘の方まで付き合ってよ」
「はい、お供します」
マリンダは俺の誘いでやっと笑顔を見せてくれた。
マユミはタケル達をチラッとみたが、木のほうに向かって自主練を始めた。
■スタートス 風の丘
マリンダを風の丘に連れてきたのは二人きりになりたかったと言うものあるが、バトラーに教えてもらった風魔法を試してみたかったのが本音だ。
「バトラーさんに新しい風魔法の使い方を教えてもらったんだよ」
「バトラー司教様にですか・・・」
マリンダはバトラーの名前を聞くとあまり嬉しそうな顔をしなかった。
「うん、変わった人だけど風魔法の第一人者って本人が言うだけあって、凄かったから俺も出来るようになりたいんだよ」
「タケル様より魔法力が凄いのですか!?」
「いや、魔法力では無くて、使い方の発想が全然違うね。俺は自分の場所から風を飛ばそうと思ってたけど、そんな必要は無かったって事だよ」
「どう言うことなのでしょうか?」
「うん、一度やってみせようか」
タケルは風の石がついている火炎風ロッドを目標にした木の30メートルぐらい右側に向けて、神に祈りを捧げる。
-風の神ウィン様、ロッドの動きに合わせて強い風を放ってください。
「ウィンド!」
掛け声と共にロッドを木の方向へ素早く振った。
目標にした木が横殴りの風で傾いでいる。
イメージ通りの場所から強い風が放てたのだ。
「タケル様! 今の風がそうなのですか!?」
「そう、決めた場所から風が放てれば色々と戦いやすくなるからね」
「戦いやすく? ですか?」
タケルはイメージしていることをさっそく試すことにした。
さっきと同じ木の右側にロッドを向けて神に祈りを捧げた。
「ファイアーウィンド!」
ロッドを左に振りながら叫ぶと、指し示した位置から火炎風が木に向かって迸った。
「アッ!」
タケルのイメージ通りに何も無い空間から火炎風が走ったのを見て、マリンダが小さく叫んだ。
手元以外から火炎風が放てれば、曲がって先が見えない通路でも焼き尽くすことができるから間違いなく有利になる。
タケルは立て続けに左右から出来ないか試そうと思ってもう一度ロッドを構えた。
だが、後ろのマリンダが叫んだ。
「タケル様! 火事のようです!」
あれ?目の前の木は燃えていないけど・・・
振り向いてみるとマリンダが見ていたのは教会のほうだった、練習をしている空き地の辺りが騒がしくなって煙が立ち上っている。
マユミか・・・
目を離すんじゃなかった。




