108.南方州の動き
■スタートス聖教会宿舎 食堂
歓迎会は盛り上がってきていた、コーヘイもマユミも酒はかなりいける様だ、マユミは顔色一つ変えていないから、ナカジーよりも酒が強いのかもしれない。
「魔法もいろんな種類があるけど、戦うならまずは炎と風をマユミには覚えて欲しいな。炎は今のレベルでも大丈夫だから、明日は風の魔法を練習しよう」
「はい、めっちゃ楽しみです。せやけど、水の魔法はなんであかんかったんでしょうね?」
「ノックスさん、水の魔法を使うにはコツがあるのでしょうか?」
マユミの代わりに、水の魔法導師であるノックスにタケルが質問した。
「いえ、水の魔法だからと言って他と違いがある訳ではありません。ですが、炎の魔法に適性が高いのであれば、教会魔法士は水をあまり扱わなくなります。両方扱われるのはタケル様ぐらいでしょう」
「やっぱり、タケルさんがおかしいんですよね!?」
コーヘイが我が意を得たりとばかりに乗って来た。
「おかしいと言うか、タケル様は全ての神に愛されているのです」
マリンダが最高の笑みで俺をフォローしてくれた。
「確かにね、俺は神様とラブラブだからね。嫌がる神様は一人もいないみたいだね」
「どうやったら、そんな風になれるんですか?」
マユミから至極当たり前の質問が飛んでくる。
「実は俺にも全然わかってないけど、神や魔法を疑わない、魔竜を倒すのが使命だって思うことが大事なんじゃないかな? そこが揺らぐと神の恩恵は無いと俺は思ってるけどね」
「疑わない・・・、使命・・・、なんや難しい話ですね」
「でも、タケルさんのやって来た事を聞いてると、それが正しいんじゃないかって俺も今は思ってる。チョット気が付くのが遅かったけどね」
コーヘイはタケルにかなり影響を受けたようだ、本人にとって良いほうに活かしてくれれば良いだろう。
コーヘイ達としっかり話が出来たので、ダイスケとアキラさんを主賓テーブルに移ってもらって、二人が座っていたテーブルに移動した。
何も言わなかったがマリンダも一緒にくっ付いてくる。
もちろんタケルにも異存は無いが、少しだけ周囲の目が気になった。
移動したテーブルには、ブラックモア、ルイーズ、カタリナ、スティンが座っている。
「スティン、何度も言ったけどお風呂は本当にありがとう。ルイーズ達もありがとうね。何度感謝しても感謝しきれないぐらいだからさ」
「お役に立てたんなら、何よりです。やっぱり風呂ってのが、勇者様にはどうしても必要なんですかね?」
「うーん、どうしてもって言うよりは、『入りたい』って言うだけなんだけどね。スティンも入れば良いのに」
「いえ、アレは勇者様達の風呂ですから、あっしらが入るわけには行きません」
「でも、作った人が良いか悪いか判らないと修理したりする時に困ると思うから、やっぱり入らないとまずいんじゃない?」
多少強引に押してみることにした。
「私達は一度入ってみたいです」
「そうなの!? 良いね~、でも、ルイーズとカタリナは壁が出来てからが良いかな?今は丸見えだからね。壁もあと1週間ぐらいで出来るしさ。そう言うことだから、スティンも一度は入らないとダメだよ」
「・・・そうですかね。勇者様がそこまでおっしゃるなら、一度入らせていただきましょうか」
「良し、じゃあ、今度お互いの背中を流し合いしましょう。男同士の友情を高めるためにね」
「背中? 流し合い?・・・」
「まあ、一緒に入ればわかりますよ。ブラックモアさんは入らないんですか?」
「私はご遠慮させていただきます、教会の人間として勇者様のものに手をつけるわけには参りませんので。それよりも、今日は風の魔法を練習されていたそうですが、どのような魔法なのでしょうか?」
ブラックモアが妙に食いつくな、こいつはオズボーンの手下だから、情報は小出しにしたほうが良いだろう。
「いや、まだ上手く行っていないんですけど、もっと強くて早い風を二つ出せないかなと思って」
「強くて、早い、そして二つですか?確かにできればすごい魔法でしょうね」
多分、今のタケルならそのぐらい出来ると思うが、猫を被っておいたほうが後々便利だろう。
「ところで、ブラックモアさんから見て、コーヘイの剣技はどうですか?」
「すばらしいと思います、こちらでの修練も熱心にされていたそうですが、元々の世界でもかなりの修練を積まれていたのだと思います。魔法剣を習得されれば、私では太刀打ちできないと思いますので」
なるほど、ブラックモアを倒せるならたいしたものだ。
「私達は剣や槍の練習が不足していますから、もう少し頑張りますので、引き続きよろしくお願いします」
「それが・・・、しばらくスタートスから離れるかもしれません」
「何かあったんですか? 私達がムーアに行かないから・・・とか?」
オズボーンの差し金でタケル達をムーアに連れて行く策の一つなのだろうか?
「いえ、もちろんオズボーン司教は皆様がムーアにお越しになるのを楽しみにされていますが、それとは別に武術士を西方大教会に集めて、南の問題を相談されたいようです」
「南の問題って言うと、人や物の動きが南方州との間で止まっていると言う件ですか?」
「ええ、話し合いが上手くいかない場合にどうするかを考える必要がありますので」
「南の司教は何をしたいんでしょうか?」
「それについては、私達はなにも聞かされておりません」
南方州で一体何が起こっているのだろうか?
教会全体、いや教皇って人は何を考えているのか?
タケルは色々気になったが、今のところは直接の関係が無さそうだったので、特に気にとめないことにした。
「じゃあ、教えてもらいたいことがあればムーアまで行きますから、引き続きよろしくお願いします」
「もちろんです、転移魔法がお使いになれるのですから、いつでもお越しください」
オズボーン達も無理やりタケル達をムーアに連れて行くのはあきらめたようだ。
結果的にマリア達は風呂造りに協力してくれたし、肉などの差し入れも手に入ったし、オズボーンの策略もタケルにとってプラスになったのかもしれない、そんな風にタケルは思うようになっていた。
災い転じて福と為す?って感じかな。




