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マイ・プレイス  作者: 国木田エイジロウ
出会って、別れて、また会って
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第24.5話 冷めないうちにどうぞ

「……なあ、京子」

「どうしたの? 航大くん」

 小学校までのことを話し終え、いつの間にかラーメンのスープは冷めきっていた。

「さりげなく変なシーンを付け足すな」

「い、いいじゃん別に! 私だって航大くんとの思い出はたくさんあるんだから!」

 今までの内容で一部、話を盛っているらしい。どこか、とは言わないが。

「特に最後のは酷いな。いつから詩人もどきになったんだ、お前は」

「そこは詩人にしてよ! 国語は航大くんより上なんだからね!!」

 えっへん、と顔に書いてあるが威張ることではない。1位か2位くらい違うだけで大して変わらない。お互い仲良く真ん中あたりだったような気もするが。

「まったく……。私はいちゃこらしてるところを見せつけられるために呼ばれたんじゃないのに」

「ああ、すいません監督」

 およそ一時間は過ぎてしまっているだろう。そろそろ退店すべきか、と思った航大だが、中年の店員に呼び止められる。

「なんだぁ、おめえ。よく見たら大村の坊ちゃんじゃねえか?」

「あ、ご無沙汰です」

「世間ってのは狭いもんだなぁ。まっさかこんなとこでお前さんと会うとは」

 標準語に無理やりしようとして、イントネーションがときどきおかしいという話し方。航大にとってそれなりに印象に残っていた。

 いきなりなれなれしく航大に話しかけてきたおじさんに京子は疑問を抱く。

「……航大くん、この人は?」

「浜本の親父って昔そう呼ばれてた人さ。中学の時近所にいたラーメン通のおじさんだ」

 そう航大は紹介したのだが、実際のところは航大がかつて所属していた北近畿シニアの正捕手、浜本大樹はまもとだいきの父親である。当時も今もラーメン好きは変わらない。試合終わりに疲れた選手たちを労ってラーメンをおごってくれることもあった。

 当時は自分の店を経営していたこともあったが、この店ではただの店員。本人曰く武者修行中なのだとか。

「あれま、あんた死んだ監督さんにそっくりじゃねぇか。俺は幻でも見てるんか……?」

 水原監督を見た浜本の親父は目が飛び出るくらいに驚いている。それもそのはず、姉妹なのだから似るのは当然と言っていい。

「あ、私その水原の妹です。今は龍山学院で野球部の監督をしてます」

「そうかそうか、あんたも監督を。似合うとる感じがするわ。水原監督率いる北近畿シニア。本当に強かった。なんてったって初めてチームを全国に導いた人やったもんなぁ」

 昔を思い出し、笑顔がこぼれる浜本の親父。だがその表情はすぐに暗くなる。

「だけどあの頃は色々あったなぁ。そのべっぴんさんな監督も死んじまったし、大樹は野球を投げ捨てて東京に行っちまった」

「大樹さん、東京に行ったんですか?」

「ああ。野球を観るのも嫌になったとか。向こうからちっとも連絡よこしゃしねぇし、どうしたもんかな……」

 その事情について航大は全てを知っている。話すつもりは毛頭なかったが、決勝の試合の相手とこれまでのことを説明する流れで少々絡んでくるため、触れないわけにもいかない。


「浜本さんは投手とチームを引っ張る大黒柱。チームの司令塔としての働きは流石だった」

 でも、と付け加え航大は目線を浜本の親父から逸らす。

「毎度のように打線は浜本さんでブレーキがかかる。僅差の試合で負ける原因はそこにありました。それでも監督はチームの要だから使わざる負えない、と言ってました」

 浜本の弱点は打撃。打率は1割台前半と低く、仮に塁が埋まっていたとしても得点を期待するのは酷であった。

「浜本さんが最高学年の時に、俺や中村たちが入ってきた。ここが北近畿シニアの転換点だったと俺は思います」

「話、長くなりそうだな……。そうだ、ちょっと待っとれ」

 そう言って浜本の親父は厨房へと急ぎ足で向かった。あたりを見渡すと客足は少なく、忙しくなる時間帯からズレ始めていた。

 時計を見ればそれなりに話し込んだことが分かるくらい時計の針は進んでいた。ちょうど半分という区切りだったのだが、ペースを上げて話す必要がありそうだ。

「お待たせ、当店裏メニューのコーンスープだ。冷めないうちにどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 3人に渡されたカップから立つ湯気と甘い香り。浜本の親父のラーメン店でも最後の締めに出してくれていたものだ。

「あ、これのお代は結構だぞ。これは内緒の裏メニューなんだから。そのかわり、俺もちょうどシフト上がりになるんでな、話聞かせてくれや」

 浜本の親父はよほど航大の話を聞きたいと見た。もう逃げることはできないだろう、と航大は思った。

 コーンスープを一口含み、航大はため息をつく。

「浜本の親父さん、今から話す全てはちょっとショックが大きいかもしれません。それでも?」

「構わねぇさ。大樹も同じチーム、つまりは渦の中におったということ。だがあいつは何も話してくれん。いつかは知るときが来ると思うとった。航大、あんたが野球から離れたことも気にはなっとったからな」

 わかりました、とひと言添えて、航大は息を吐き出す。

「……今思えば、なんですけどね。もっとうまくやれたかもしれないって、そうすれば監督に二度と会えなくなるようなことも起きなかったんじゃないかって」


 浜本大樹という男。北近畿シニアの隠された過去。そして決勝の相手。

 過去の扉を今一度開く。そこには輝かしい時間と封じられた過去。

 すべては昨日までの過ちを清算するため。明日の希望のカギを握るため。

「全部話します。ただ、ここからの話はなるべくオフレコでお願いします。変に広まると無用な混乱を招きますから」

 航大は話し始めた。彼が中学から野球を離れるまでに起こったことの全てが明かされる。



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