冥界攻略編 七冥会議
――冥界 七冥議会の場――
会議のテーブルについていた7人のうちの1人が、議題の内容も無視して、自身の好奇心を満たすためだけに、王たちに問いかけていた。
「誰か、僕を殺せるようになったかな?」
【担当区画一番『剣王』】
剣王は、6人全員に向けて不敵な笑みを浮かべていた。
「いやいや、剣王殿に勝てる者など、おりませぬよ」
【担当区画七番『謀王』】
謀王もまた、満面の笑みを浮かべながら、剣王の問いに否定の意味を込めて答えた。
「そうさねぇ、2・3ならともかく私は無理だねぇ」
【担当区画六番『霊王』】
そう言うと霊王は両手を上げながら、降参したように答えた。
「あら? 私は殺す気満々ですよ!」
【担当区画五番『聖王』】
聖王は体を乗り出して剣王を指差し、他の王たちに意思表明をした。
「ちっ! やめとけ、てめぇじゃ返り討ちにあって終わりだ」
【担当区画四番『狼王』】
そして狼王は、退屈そうにしながらも、剣王に殺気を向け続けていた。
「私は魔術専門ですからね、まともに戦ったら勝てっこありませんよ」
【担当区画三番『妖王』】
それは謙遜のように聞こえるが、妖王は勝てる方法はあると言っているも同然だった。
「……くだらん……」
【担当区画二番『冥王』】
短く一言答えると、冥王は何も言わなくなった。
「まったく、みんないつも通りなのは嬉しいけど、僕も退屈してるんだよ……特に、冥王とは本気で殺し合いたいんだけどなー」
「………………」
「今日もつれないねぇ」
冥王の反応に、剣王が残念がる素振りを見せたが、その表情はすぐに元に戻っていた。
「さて! 侵入者の件だけど、人数は8人、剣士が2人、術士が2人、メイドが1人、魔族が1人、それとなぜか女神が二柱だね!」
「なんだい、その組み合わせは? めちゃくちゃじゃないかい?」
「本当ですね、女神さまがいるのは驚きですが、戦闘要員なのかわからない人もいますし、まともに戦えるのかしら?」
侵入者の詳細な情報に、霊王と聖王の2人が疑問を口にした。
「……それを貴女が言うのですね、聖王?」
「う〜ん? だって私、不信心者ですから!」
妖王が何を思ったのか、聖王に苦言を漏らすが、聖王はまったく気にする様子がなかった。
そして、ひとしきり雑談が終わるのを見計らって、剣王が話を再開した。
「さて、そんな感じだけど、どうするかな? ねぇ、謀王?」
剣王の問いに、謀王は席から立ち上がり、余裕綽々とした態度で語り出した。
「問題ありません、剣王殿……七番に現れた以上、私が対処いたしますので、どうぞお楽しみください……」
「そう? じゃあ謀王にまかせて、僕たちはお茶にでもしようか!」
しかし、会議が終わったことを察した狼王が席から立ち上がり、部屋の扉に向かって歩き出した。
「おや? もう行くのかい?」
呼び止めるでもなく、ただ問いかける剣王に、狼王は立ち止まって振り返り、啖呵をきった。
「うるせぇ! 無駄に全員呼び出しやがったくせに、喧嘩の押し売りと、七番1人で済む話しかねぇなんて舐めてんのか!?」
「いやだなぁ、僕はみんなと会えるいい機会だと思ったんだけど、機嫌を損ねちゃったかな?」
「当たりめぇだ! わかっててやってんだろ!?」
「うん! そうだよ!」
「……てめぇ」
その返答を聞いた狼王が、さらに強い殺気を帯びた視線を剣王に向けたが、次の瞬間――
「じゃあ……僕と殺し合うかい?」
「……くっ……」
その一言で、狼王は殺気を抑えて黙り込み、立ち尽くしてしまった。
「……うん、残念! お茶会って感じでもなくなっちゃったから、また日を改めようか! 謀王、頼んだよ! みんなも、おつかれさま!」
そう言って剣王が全員に言葉をかけた次の瞬間――
「大丈夫! 仮にみんながやられるようなことがあったとしても……」
笑顔一つ崩さなかった剣王の表情はまるで、そうなってほしいと夢を語る子どものように、淀みを知らない無邪気さを帯びていた。
「僕が全員殺すから、心配いらないよ……」
その言葉を合図にするかのように、誰一人話すことはなく、この会議は終わりを迎えた……
――クロード一行 近くの集落――
「ここは、村だな……」
「村だね……」
驚く俺の言葉に、クレスも同じように驚きながら応えていた。
ミリスが見つけた場所まで歩いた俺たちは、元の世界でも見るような、何も変わりがない集落に辿り着いた。
無作為に建てられたいくつもの家々、その周りにいくつも作られた畑、そして集落を囲むように打ち付けられた柵。
どこからどう見ても、村と言えるくらいには整った環境の集落がそこにはあった。
そんな風に俺たちが驚いていると、集落から人影が近づいてきた。
「オメェら、見たことねぇ顔だけども、どこのもんだべ? 区長からの使者さまか何かべか?」
「えっ? あっ、いや、俺たちは……」
俺は急に話しかけられて戸惑って、しどろもどろとした返事をしてしまう。
(人!? ここにいるってことは死者なんだよな!? じゃあ、これがリアラの言っていた、人間の姿を模倣してるってことか?)
「なんか怪しいべぇ、オメェら本当に何もんだ?」
男は問いに答えない俺たちを訝しみ、もう一度問いただしてきた。
するとイリーナが、俺の前に出て男の問いに答え始めた。
「申し訳ありません……実はわたくしたち、旅の途中で崖崩れに遭ってしまって、気がついたらここにいたのです……もしよろしければ、ここがどこなのか教えていただけないでしょうか?」
「ほぅ、オメェら新参者かぁ? その割にはもう"体持ち"なんて、よっぽど何が起きてるのかわかってねぇんだな」
俺はイリーナのとっさの作り話に感謝をしたが、よくもまぁ思いつくものだと感心してしまった。
「ほんだらぁ、詳しいことは、奥で説明してやっからついてこぉい!」
そう言って男は俺たちに背を向けると、村のなかを歩き出した。
俺たちは追いかけるように歩き出したが、セレーネとリアラが、俺にだけ聞こえるようにささやいてきた。
「クロードさぁん、交渉ごとを、みんなにお任せしてた理由が、よぉ〜くわかりましたよぉ〜」
(うるさい! 適材適所だ!)
「クロっちぃ〜、ちょっとダサかったよぉ……」
(う、うるさい!)
セレーネとリアラの言葉に、目から何かが溢れそうな気がしたが、俺はそれを無意識に腕で拭っていた……
――冥界攻略編 七冥会議 完――




