冥界攻略編 七名会議
――魔界 冥界の門前――
「これが、門……?」
俺たちはララティアの空間移動のおかげで、冥界への門まで来たはずなのだが、目の前にあるのは年季の入った大樹だけだった。
するとルクレツィアが、俺たちの前に出て大樹の根元を調べ始めた。
そして、大樹の根に隠されるようにあった大きな石を見つけると、ルクレツィアは石に触れながら魔力を流し込んだ。
すると石に絡みついていた根が大きく動き出し、先が見えないほどに暗い穴が現れた。
「この先が冥界です……ところどころ光が差し込みますが、それらは無視して暗がりに向かって進んでください」
「進んでくださいって、お前らは来ないのか?」
俺はてっきり、2人も同行するのかと思っていたので、ルクレツィアの説明に疑問を感じて問い返した。
「申し訳ありません……以前お話しした通り、この遠征はララティアが魔族の代表として赴くことに意味があるのです……なので、我々が同行するわけにはいきません」
「そうだったな……すまなかった」
そう、この遠征の目的は、先の大戦で亡くなった者たちの転生を、勇者とララティアが輪廻の女神エイルに懇願しに行くことだ。
そしてララティアは魔王亡きあと、父親の暴挙を嘆いて勇者に協力した悲劇のヒロインとして、民衆に認知させる必要があった。
だからベルガドーラとルクレツィアがこの遠征に参加したら、意味がなくなってしまう。
俺はそのことを失念していたことを謝罪して、ララティアに視線を移した。
「ララティア、最後にするつもりはないが、何か2人に言っておかなくて大丈夫か?」
「……えっと、ある……」
ララティアは、少し考え込んだあとそう答えると、ベルガドーラとルクレツィアの元に駆け寄った。
「……パパ、ママ……いってきます……」
「……うむ……」
「えぇ、気をつけて行くのですよ……」
ベルガドーラが、その大きな手のひらでララティアの頭に優しく触れ、ルクレツィアがララティアと目線が合うようにしゃがみ込んで、ララティアを抱きしめた。
「ララティア、今から言うことをしっかりと覚えていてね……」
ルクレツィアはそう言うと、ララティアの耳元で何かを呟いた。
「えっ? …………うん、わかった!」
そして2人との別れを済ませたララティアが、また駆け足気味に俺たちの元に戻ってきた。
「もう、いいのか?」
「……うん、大丈夫」
ララティアの言葉に俺は頷き、大樹が隠していた冥界への入り口に視線を戻した。
「行こう!」
そのかけ声とともに、俺たちはゆっくりと、冥界へと足を踏み入れた……
【チェックポイントの更新を確認いたしました。セーブデータを更新します。】
俺の持つスキルが、冥界に入ったことを知らせていた……
――冥界 ???――
暗闇のなかを歩いていると、俺たちはどこかの洞窟の穴から外に出ていた。
そこは灯りがまったくなく、夜空が広がっているはずなのに、不思議と遠くまではっきりと見えていた。
「ここが冥界、なのか? 暗い感じなのはイメージ通りだけど、遠くがよく見えるのはどういう原理なんだ?」
「さぁ、本当は曇ってて太陽が見えてないだけ……とか?」
「ですが、雲ひとつない夜空のように、わたくしには見えます」
「そうね、雲ひとつどころか、星すら見えないけど……」
「異様な光景……ですね……」
「……暗い……」
俺たちが冥界の風景に驚きの反応を見せていると、セレーネとリアラが説明し出した。
「みなさん! 冥界は死者の世界です! 今を生きる我々の道理なんて通じませんよ!」
「そうそう! みんな魂だけだから、睡眠も食事も健康の概念も必要ないからねぇ〜」
「つまり、俺たちが生きるうえで必要なことが、なくても問題ない世界ってことか……」
「まぁ、さすがに地面はありますけど、だいたいそんな感じです!」
「さすがクロっち! 理解がはや〜い!」
2人の軽いノリに、いつもはため息が出ていたが、今は有り難いと思った。
そして、リアラの言葉に今まで疑問に思っていたことを、俺は聞いてみた。
「ところで、魂だけってどういう状況なんだ?」
「うん? そのまんまの意味だけど……?」
「いや、そうじゃなくてだな……例えば、ほら! 火の玉みたいにふわふわしてるのかってことだよ!」
「あぁ! そういうことね! えっとねぇ、火の玉っていうよりも、光の玉っていった方がいいかも! 光が強いほど、生前凄かった人! みたいな?」
「な、なるほど……」
「逆にねぇ、光が弱かったり濁ってるのは、生前弱い立場だったり、悪い人だった感じかなぁ……」
「つまり、近づかない方がいい光り方ってことだな?」
「まぁ、そうなるのかなぁ〜?」
俺の問いに対して、リアラの返事ははっきりとしないものだった。
「なんだ、違うのか?」
「いや、そうじゃなくてね! みんな最初は光の玉なんだけど、冥界での生活に慣れてくると、生前の肉体を霊体で模倣して生活し出すんだよぉ〜」
「……模倣?」
「そう! まぁ聞くよりも見る方が早いと思うしぃ、誰かいそうなところに早く行こうよ!」
説明するのがめんどうになったのか、リアラは先に進むように俺たちに号令を出した。
「いや、わかるならなにか起こる前に……」
「クロードさぁん! 大丈夫ですよ! 魂になって急に強くなるわけじゃないのですから!」
俺の言葉を遮るように、セレーネが楽観的な発言をしてきた。
「いや、そうだろうけど……」
「お兄ちゃん……」
すると、いつの間にか俺の背後に立っていたミリスから声をかけられた。
「おぉ!? ど、どうしたミリス?」
俺が驚きながらも、ミリスにどうかしたのか問いかけると、ミリスがある方向を指した。
「この先をずっと行ったところに人がいました……隠密、効きました」
「……ありがとう……でも、危ないから無茶はしないでくれ」
俺はミリスにそう言ってから、彼女の頭に手を置いてゆっくりと撫でた。
「……ごめんなさい……」
そうつぶやくミリスは、少し恥ずかしそうにしていたが、忠告を受け入れてくれたみたいで俺は安心した。
「じゃあ、行ってみるか……」
その声を合図に、ミリスの指していた場所に向かって歩き出した……
――冥界 とある会議室――
「侵入者らしいですよ!」
「あぁん? 侵入者だぁ?」
「七番区画からやって来たみたいさね!」
「七番区画、となると私の担当ですか……」
「担当の意識は大事ですが、別にこだわることではないですよ」
「……くだらん……」
人界と魔界の死者が集まる冥界は広い……だから冥界を統べる存在が女神1人では荷が重過ぎる。
ゆえに、輪廻の女神エイルは死者のなかから冥界を統べるに足る存在を選び、『冥界の管理者』として君臨させた。
冥界を7つの区画に分け、その1つずつを管理し守り統べ、有事の際は女神の代行者として処罰する7人の存在。
「やぁ、みんな元気そうでなによりだよ!」
彼ら彼女らを、冥界の住人たちはこう呼んだ。
「もう聞いてると思うけど、侵入者が現れたらしい……」
【七冥王】と……
「とりあえず……誰か、僕を殺せるようになったかな?」
――冥界攻略編 七名会議 完――




