冥界攻略編 魂のかたち
――冥界 集落――
「いけねぇいけねぇ、オラは『ラモン』ってんだ!」
そう言ってラモンに案内され、俺たちは集落のなかを歩いていた。
「あぁ、こちらこそすまない、俺はクロードだ、後ろにいるのが……」
「いやぁ、オラはどうも覚えんのは苦手でよぉ、オメェさんの名前だけは覚えっから、あとのは嬢ちゃんで勘弁してくれぇ」
ラモンはそう言って言葉を遮ってきたので、俺は後ろのみんなに顔を向けて頷くと、みんなも頷いて返してくれた。
そのまま俺は辺りを見渡すと、俺たちを警戒しているわけではないが、物珍しそうに物陰から覗いている住民たちの視線を、あちらこちらから感じていた。
「なぁあんた、俺たちってそんなに珍しいのか?」
「うぁ? そだなぁ、珍しいかそうでねぇかで言うと、めっさ珍しいなぁ……普通死んだら魂だけになってここに来るもんだが、オメェらはみんな"体持ち"だからなぁ……」
「体持ち?」
「うんだ、そんなやつぁ、霊王さま以来だからなぁ……」
「霊王?」
「安心しろ、オラよりも詳しいヤツんとこに連れてくから、そいつに聞けばえぇ……」
その言葉を最後に、ラモンは黙々と歩き続けた。
俺もラモンとの話のなかで、なんとなくわかったことはあったが、もっと腰を据えて話が聞きたいと思った。
それにラモンや周囲の者たちからは、脅威は感じられなかったし、もし襲いかかってきたとしても、対処は容易だと判断できた。
だから俺は、ラモンの案内に従うことにした……
……集落のなかを奥の方まで歩くと、一際大きく古い家屋が見えてきた。
「着いたど、ここに詳しく説明してくれるヤツがおるから、何でも聞くとえぇ」
ラモンはそう言うと、扉を『ドンドン』っとノックした。
そして少し待つと、『ギィィィ』っと扉がゆっくり開き、家のなかから声が聞こえた。
「はいはい、そんな勢いよく叩かんでも聞こえてるよ!」
そして扉の向こうから、馬の頭をした大男が現れた。
「!? 魔人!?」
その存在に気づいた瞬間――俺たちは、戦闘態勢に入り武器を構えた。
(くそ! 油断した、まさかこんなところに敵がいるなんて、どうにかラモンを魔人から……)
そして瞬時にクレスが魔人に向かって突っ込もうと前に出ると、あろうことかラモンがクレスと魔人の間に割って入って両手をクレスに向けて話し出した。
「まてまて、こいつは確かに人間でねぇが、落ち着けぇ!」
「……はい? えっと……」
クレスがラモンの発言に困惑していると、魔人が高笑いをあげてきた。
「はっはっは! その反応見るのは久しぶりだなー! さてはオメーら新入りか!?」
クレスだけでなく俺たちも、相手から戦意を感じられない状況に戸惑っていると、セレーネとリアラが慌てた様子で語り出した。
「みなさん! ここ冥界ですから! 人間も魔族も共同生活してても不思議じゃないんですよぉ!」
「そうだよぉ! それにみんなだって、ララちーと仲良しでしょ!」
俺たちは困惑しながらも、状況を理解して武器を収め、目の前の魔人に謝罪をした。
「……すまない、軽はずみな行動で危害を加えそうになったこと、どうか許してほしい……」
俺が頭を下げると、イリーナ、ルーシェ、ミリスもそれに続いて頭を下げた。
「え、あっ、ご、ごめんなさい!」
そして、クレスも慌てた様子で、魔人に向かって頭を思いっきり下げて謝り出した。
「おう、気にするな! どうせ死なねぇからよ!」
「いや、侮ってるつもりはないが俺たちも腕には自信がある、殺さないにしても重傷を負わせただろう……」
「いやいや、そうじゃねぇ……俺たちゃもう"死ぬ"って概念が存在しねぇのさ!」
俺は魔人の言っていることが理解できず、頭を上げて魔人に向き直して、言葉の意味を確認した。
「死ぬ概念がない……?」
「あぁ、俺たちゃ死んだあと、魂となって冥界に運ばれて、生前の体をだんだんと形成して暮らし直すんだ」
そう言って魔人は、隣にいたラモンと肩を組み出した。
「俺が扉を開けたり、こうやって誰かと触れ合ったりできるが、それは"仮初の肉体"が作った"幻"にすぎねぇ」
「……幻?」
「あぁ、だからもし、俺たちが殺し合ったりしても、仮初の肉体が一時的に崩れて魂のみになるだけだ」
そして魔人は、馬の顔に似合わない、まるで狼のような歯を見せながら笑った。
「まぁ、痛ぇって感覚もちゃんとあんだけどな!」
「うんだなぁ、でえじょうぶってわかってても、あれは勘弁だなぁ!」
「だな! それに元の姿に戻れるまで、喋れねぇし、ふわふわ浮いてるしかできなくて退屈で仕方ねぇ!」
俺は2人の会話を聞いて、リアラが言っていた模倣の意味を理解することができた。
確かに目の前の2人は、死者であることを除けば、俺たちと何も変わらないように感じた。
そして互いに笑い合っていたラモンと魔人は、組んでいた肩を離すと、魔人が家の扉を大きく開いた。
「まぁ入れ! オメーらが知らないことを、この『サンテス』さまが色々と教えてやろう!」
そう言ってサンテスは、俺たちを家に招き入れようとしたが、ララティアたちとの交流があったとはいえ、その光景はなかなかに異様だった。
だがそんなことはお構いなしに、サンテスは家に入って行き、ふと何かを思い出したかのように俺たちに話しかけてきた。
「おっと! それとだなオメーら! これだけは、ぜってぇに覚えておけ……」
その声からは、先ほどまでの飄々とした調子が消え去り、重苦しい空気が漂っていた。
「七冥王……こいつらにだけは、気をつけろ……実質、この世界の"神さま"だからよぉ……」
――冥界攻略編 魂のかたち 完――




