冥界攻略編 冥界の花
――冥界 サンテスの家――
俺たちはサンテスに座敷へ通され、話をすることになった。
座敷の上座にサンテスが腰を下ろすと、先ほどまでの重苦しい雰囲気はすでに感じられなかった。
「さてと、どこから話せばいいか……とりあえず、この世界について話そうか!」
するとサンテスは、壁にかけられている旗布に視線を向けた。
その旗布の中央には、大きな六弁の花の紋章が描かれていた。
「あの旗に描かれてる紋章があるだろう? あれは冥界の形になぞらえて作られた絵なのさ」
「……冥界の形に?」
「あぁそうさ! まぁ実際はもっと歪な形だろうけど、昔この世界は一つのだだっ広いだけの世界だったが、ある日女神さまが世界を区画分けしたのさ! そして、その土地を統べるのが……」
「七冥王……?」
俺はサンテスから聞いていたその名前を、つい口にしていた。
「そうだ! 最初は二つに区画分けしたが、王が増えるたびに三つ、四つと増えていって、今の七つになったのさ! でもって、七冥王1人につき一つの区画を管理する……それが今の冥界の在り方だ」
そしてサンテスは、旗に描かれた花の紋章の1弁を指しながら話を続けた。
「ちなみに俺たちがいるのは左上の花弁の『七番区画』、そこから右下が六番、真下が五番って感じで二番まである」
「二番まで、一番は?」
俺がそう聞き返すと、サンテスは花の中央にある、小さな六角形を指し直した。
「このど真ん中にある小さな六角形、通称『女神の小屋』が一番だ! ここには最強の王と女神がいるって話だ!」
「女神が!?」
サンテスの話で女神の所在がわかり、俺はとっさに仲間たちに視線を移すと、セレーネが話し出した。
「クロードさん! 目指す場所が決まりましたね!」
「あぁ! サンテス、その女神の小屋には、どうやったら行けるか知ってるか?」
「あん? 知らん!」
俺の期待を込めた問いかけは、サンテスにバッサリと切られてしまった。
「他の区画を自由に行き来できるのは、王だけだ……俺たちゃ自分のいる区画のことしかわからんのよ!」
「そうか……」
サンテスの返答に、俺は行き詰まってしまうが、ルーシェが話に入ってきた。
「サンテスさん、この区画のことなら……ここを統べている王に会う方法なら、わかるかしら?」
「あぁん!? オメーら、七冥王に会いに行く気なのか!?」
「えぇ、だって王さまなら、他の区画へ行き来できるのよね? なら、その人に聞くしか方法はないでしょう?」
ルーシェの言う通り、他の区画への移動が制限されているなら、七冥王と言われている王たちに会いに行くしかない。
「教えてくれ! 王に会うには、どこへ行けばいい!?」
俺もサンテスに重ねて質問したが、サンテスの表情が曇り出して、とても嫌そうな声色で語り出した。
「いやまぁ、会う方法はわかるんだが、会わねぇ方がいいというか、なんというか……俺が会いたくねぇんだよなぁ……」
「会いたくない? 王なのに?」
「実はここの王は、謀王ってやつでよ、他の王たちは強さで選ばれたが、こいつはちょっと違う……」
「……違う?」
「あぁ、俺も遠目で見たことがあるだけだけどよぉ、ありゃ勝てれば何をしてもいいってヤローの顔だ……俺は好かん!」
そう言ってサンテスは、そっぽを向いてしまい、話を無理矢理打ち切られた気がした。
仕方なく俺は、サンテスにせめて情報収集ができそうな場所を聞いてから、村をあとにしようと思った。
「わかった、それなら……」
「この村に、侵入者が現れたとの知らせが入った!」
家の外から怒鳴るような声が聞こえてきた。
「し、侵入者って、なんのことですかぁ!?」
続けてラモンの声が聞こえて、俺たちは急いで家から外に飛び出すと、ラモンの目の前に鎧姿の騎士が数人立ち塞がっていた。
「ラモン! よすんだ!」
「お、オメェら、いってぇなにもんだぁ!?」
ラモンと騎士の間に、俺が割って入るとラモンが戸惑いの表情を浮かべながら問いただしてきた。
「すまない……迷惑をかけるつもりはなかったんだ……」
俺はラモンにそう伝えると、隊の長と思われる騎士に、後ろに待機している兵士たちを横目で見ながら問いかけた。
「侵入者っていうのは俺たちのことで合ってると思うが、こんな大げさにするほどのことだったのか?」
「それは我々が決めることではなく、我らが王の決めることだ! そして王は、お前らを連行しろと命じた!」
俺の問いかけに、鎧の騎士は太々しい態度で答えた。
正直、戦いになっても苦戦することなく倒すことができるだろう……だが、王の命令ということは、こいつらについて行けば王に会える可能性がある。
そう思うと、この場は素直に捕まった方がいいのではないかと、俺のなかで迷ってしまった。
「……お前たちについて行けば、王に会えるのか?」
「王の命令は絶対だ……」
「……わかった……投降す……」
「クロード! ちょっと待った!」
俺が降伏しようとしたその時、クレスが話に割って入り、俺の前を通り過ぎて騎士の前まで来ると、からかうように語り出した。
「ねぇ騎士さま、この部隊で一番偉いのは騎士さまなんだよね?」
「そ、そうだが、それがなんだというんだ?」
騎士の返答を聞いたクレスは、騎士の後ろに待機している兵士たちを見ながら問いかけた。
「ふぅ〜ん……じゃあ、後ろの人たちはどうしてみんな、騎士さまじゃなくて、真ん中にいる人に気を配ってるのかな?」
クレスの視線の先、待機している兵士たちの輪の中央にいる人物を、クレスは睨みつけていた。
「なっ!? 何を言っているんだキサマァ!」
今まで太々しかった騎士が、あきらかに動揺した様子を見せると、クレスは不敵に笑いながら話し出した。
「いやぁ、ごめんね! 冒険者やってると護衛依頼もあってね! たまにあるんだよねぇ、護衛に紛れて要人が潜んでるってパターン……まぁ、だいたい周りの護衛があからさま過ぎて、失敗するんだけどね〜」
クレスは話しながら騎士の横を通り過ぎ、待機している兵士たちの前で立ち止まると、腰に差していたダガーを両手に構えながら、輪の中央にいる兵士に問いかけた。
「ねぇ、アナタがここの王さまだったりするのかな?」
クレスの行動に周囲の兵士たちが武器を構えるなか、その兵士だけが静かに笑い出した。
「ふっふっふっふっ、いいですねぇ……実に素晴らしい!」
その笑い声に、他の兵士たちが戸惑い出して互いに見合っていると、兵士姿の男が兜を外し、まるで貴族のような振る舞いで挨拶をしてきた。
「お初にお目にかかります……わたくし、『ヴォルナール』と申します」
そう言って男がお辞儀をしたあと、不気味な笑顔を浮かべながら顔を上げた。
「不肖わたくし、この区画で"謀王"を名乗らせていただいております……」
――冥界攻略編 冥界の花 完――




