冥界攻略編 魔界と冥界の知将
――冥界 七番区画――
『ヴォルナール』……出自不明の謎の人物。
気づけばスラム街でその名が知れ渡り、いつしか裏社会の王として君臨した。
暴力と金だけが渦巻く混沌に、秩序と戒律を作り、裏社会の全てを掌握していたと言っても過言ではなかった。
その類稀なる手腕から、『とある王族の隠し子』『魔術で人を惑わす悪魔』など、さまざまな噂が流れ、それを利用してさらに権力を築いていた。
だが、もともと人前に出ることがなかった彼は、ある時期を境に、完全に消息を絶ってしまった。
『気まぐれで始めた裏社会での成り上がりに飽きて城に戻った』『悪魔として処刑された』など、彼が姿を消したあとも、さまざまな噂が流れた。
そうして真相は闇の中に消え、王の玉座は空席となった……
「いやぁ、素晴らしいですねぇ、やはり現場の人間、特に一流の者だけが持つ嗅覚のようなものは、侮れないですねぇ」
その男は、自分の策が暴かれたにもかかわらず、思い通りにいかなかったことを喜ぶかのように、不敵に笑っていた。
「ちなみにお嬢さん、これでも人を欺くのは得意な方なのですが……私の演技はいかがでしたか?」
男はそう言って、クレスに問いかけた。
クレスは男への警戒を崩さず、武器を構えたまま男の質問に答えた。
「そうだね……完璧過ぎて、逆に目立ってたくらいだよ」
「なるほど……妖王は、"木を隠すなら森のなか"と仰っていましたが、枯れ木のなかでは逆効果ですか……」
クレスの言葉に納得したのか、男は視線を落とし、小さく何かをつぶやき始めた。
そして、俺たちに視線を戻すと、片手を上げて周囲の兵士に武器を下ろさせた。
「とても貴重なご意見、誠にありがとうございます……どうでしょう、私の城に改めてご招待させていただいてもよろしいでしょうか?」
「えっ? えっと……クロード、どうする?」
男の提案を受けて、クレスが顔だけ俺に向けて判断を委ねてきた。
「クレス、下がってくれ」
そう言って俺はクレスの前に出て、彼女を下がらせると、男と対峙した。
「一応言っておくが、俺たちと戦ってもアンタらに勝ちの目はないぞ」
「えぇ、それはあなたたちの振る舞いを見ていればわかりますし、なにより私は戦闘向きの王ではありませんから」
「……わかった、招待を受けよう」
正直迷ったが、どのみち王の誰かとは話し合いや交渉が必要になるだろう。
だが他の王がどんな人物かわからない以上、まともに話し合える機会を逃すわけにはいかなかった。
「ありがとうございます! では明日、あらためてお迎えに上がらせていただきます……」
「明日? 今からじゃないのか?」
「そうしたいのですが、このような格好でエスコートなど、失礼にあたります」
そう言って男は、両手を広げて自身の着ている鎧を俺に見せつけるように振る舞った。
「なるほど、だが悪いがこっちは、正装なんてする気はないぞ?」
「もちろん、かまいません……では、失礼いたします……」
そして男は、また丁寧な一礼をすると、踵を返して歩き出した。
周囲の兵士たちもそれにならい、武器を収めると、男の後を追って村から出て行った。
俺はラモンとサンテスの元へ行き、ラモンに声をかけた。
「すまなかった、怪我はないか?」
「あ、ああ、でえじょうぶだ」
「お、おいアンタ! 侵入者ってどういうことだ!?」
「……言葉通りだよ、俺たちはまだ生きてるんだ」
一瞬言うべきか迷ったが、危うく巻き込むところだった2人に、本当のことを言わないのは不義理だろう。
「とりあえず、事情を話したいから家に戻らないか?」
俺は2人に提案すると、サンテスが呆れたような表情で応えた。
「はぁ、まさか自分から冥界にくるような変わり者がいるとはなぁ……ちゃんと説明してもらうぜ?」
「そうだな、まず魔王を倒したところからかな?」
「……はぁ!? オメーがベルガドーラさまを? 冗談も寝て言え!」
「ま、待て! ベルガドーラを知ってるのか!?」
「あぁん!? 何言ってやがる! ベルガドーラさまは俺たち魔族の王だぞ! 知らねぇわけねぇだろ!」
「……なぁサンテス、あんたが生きてた時代って……?」
「あん? 数百年くらい前だが? それがどうした?」
「……いや、なんでもない……」
俺が、ベルガドーラがずっと前から魔王として君臨していたことに驚いていると、ララティアがサンテスに声をかけた。
「あ、あの……クロードさま、パパ倒したの、本当……」
「……おい、兄ちゃん……この子は……?」
「えっと、魔王の娘だな……」
「ベルガドーラさまの!? ……母親は……?」
「ルクレツィアだが?」
「はぁぁぁ!? ルクレツィアって、あの"女帝さま"のことか!?」
「じょ、女帝……?」
「ああ、女帝ルクレツィアっていえば、魔王に敵対する3大勢力をまとめ上げて、魔王の最大の敵とまで言われたお方だぞ! それがまたどうして……?」
サンテスが疑問を口に出すと、ララティアがまたもじもじと答え出した。
「その……パパが、すごいアタックしてきたって……ママが言ってた……」
「「……マジか!?」」
ララティアの話にサンテスだけでなく、俺も一緒になって驚きの声を上げてしまった。
あのベルガドーラが!?
猛アピール!?
「……うむ……」しか言わないのに!?
なんとなく俺は、ベルガドーラがつぶやいた一言で、ルクレツィアが十の言葉を汲み取ったのだろうと悟った。
……恐るべし、女帝ルクレツィア……
「……ルクレツィアが敵じゃなくて、本当によかった……」
俺はララティアの頭に手を置き、軽くなでながら小さくつぶやいた。
ララティアはよくわかっていないようだが、とりあえずなでられて嬉しかったらしく、満面の笑みを浮かべていた……
――冥界攻略編 魔界と冥界の知将 完――




