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やり直し勇者は溺愛される ~魔王を倒した勇者ですが、平和の代わりに元仲間たちとのお見合いが始まりました~  作者: 希月タカトラ
冥界攻略編

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冥界攻略編 絶対の王



 ――冥界 ???――



 暗闇に包まれた寝室のベッドの上で目が覚める。


 いつもと変わらない、いつまでも変わらない天井を見つめてから重い体を起こす。


 また、この天井を見ることができた……


 そのことに安堵しながら、私はベッドから立ち上がり、近くのテーブルに置いてあった服に手を伸ばした。


 襟と袖にフリルを軽くあしらったシャツ、金の装飾をつけた黒のベスト、そして同じく黒のズボンを身につけた。


 それから黒のリボンチョーカーを首に付けて鏡の前に座り、乱れた髪を櫛でとかした。


 腰まである長い髪。


 切ってしまえば楽かもしれないが、それができないのは、生前の姿にまだすがっているのかもしれない。


 そんなことをときどき思ってしまう。


 だが、もう戻れないことをいくら考えても意味がないと、いつものように自己完結する。


 それから横髪を少しだけ結び、軽く化粧を施すと再び立ち上がって、椅子の背もたれにかけていたローブを手に取った。


 最後にこの、雲ひとつない闇夜を思わせる、黒紫のローブを羽織ることで、三番区画管理者"妖王"は完成する。


「……さあ、行きましょう」


 妖王としての1日が始まる。


 そう自分に言い聞かせ、廊下への扉に手をかけると、私は呼吸を整えてから寝室を後にした。


 寝室から出ると、廊下を掃除していたメイドたちと目が合った。


「お、おはようございます! 妖王さま!」


 メイドの1人が、私に挨拶をして頭を下げると、他のメイドたちも遅れて頭を下げた。


「えぇ、おはようございます……屋敷をきれいにしてくれて、いつもありがとうございます」


「い、いえ! 滅相もございません!」


 私の言葉に、謙遜した態度でメイドが応えた。


「これから少し出かけます……留守をお願いしますね」


「は、はい! お気をつけて……」


 見送りの言葉を背にしながら、私はメイドたちの横を通り過ぎた。


 すると、背後から騒ぎ声が聞こえてきた。


「はぁ、やっぱり素敵だわぁ」


「えぇ、さすがは"夢の国の王子さま"ね……」


「なにそれ?」


「あんた知らないの? 立ち振る舞いからして、貴族の出の方なのは確実なのに、誰もあの方の過去を知らないのよ!」


「しかも! 私たちが思いつかないようなお考えで、この区画を見事にまとめ上げた手腕は、『まるで、違う世界の概念を持ち込んで来たみたいだ』って評されるほどなの!」


「だから夢の国の王子さま……なの?」


「「そう! 王子さま!」」


 周りの目などお構いなしに、そんなくだらない話をしているものだから、その声は私の耳にも届いていた。


「……くだらない」


 女はどの世界でも、確証のない噂話や夢物語が大好きで、男はみんな、力と権力を求めている。


 私がした政策など、過去の偉人たちが考えつき、当たり前となっていた仕組みをそのまま使っただけだ。


 それを夢の国の知識なんて言われても困るし、なんなら今いる世界の方が、私からすれば夢の国だ。


 だが、だからこそ……私は、"やり直す"ことができた。


 そう思いながら、屋敷の玄関へと向かっていると、玄関の前に男の姿を見つけて足が止まった。


「……なぜ、このような場所に? "剣王"」


「おはよう、妖王! 今日も美しいね!」


「はぁ、質問の答えになっていませんよ……」


 剣王……私でも底が知れない強さを持ち、その思考回路すら、まったくもって理解の外にある人だ……


「いやぁ、ごめんごめん! 昨日の件、覚えてるかな?」


「昨日の件、侵入者が出た件でしょうか?」


「そう、それ! 昨日その侵入者に、謀王が接触したみたいなんだ!」


 そう言って、剣王が嬉しそうに教えてくれるが、私には引っかかることがあった。


「接触したということは、会っただけで何もしていないのですか?」


「そうみたいだね! どうやら侵入者たちを、自分の城に招待するみたいだよ!」


「……あの城にですか」


 私はその話を聞いて、抜け目のない謀王が、わざわざ侵入者を自分のテリトリーに招いた意図をすぐに察した。


 そしてそれと同時に、剣王が嬉しそうな理由にも気づいてしまった。


「さすが妖王! 僕の気持ちをわかってくれて嬉しいよ!」


 まだ何も言っていないというのに、剣王はさらに嬉しそうに私に語りかけてきた。


「彼がわざわざ城に招き入れるということは、少なくともその場で処理できない実力者だと判断したんだ! 侵入者ってだけで素晴らしい出来事なのに、こんなに喜ばしいことはないよ!」


 剣王の嬉々とした様子に、私は呆れ混じりの息を吐いてから、苦言を漏らした。


「お言葉ですが剣王、侵入者側の都合も少しは気にしてあげてもいいのでは?」


 だが、その質問の答えは、いたって冷たいものだった。


「うん……君が"一番"なら、そうすればいいよ」


 そう彼がつぶやいた瞬間、私の背筋は凍りつき、それ以上の提言は無意味だと悟らされた。


 七冥王とは言っているが、7人の王が対等な関係にあるわけではない。


 王に任命されると担当区画を割り振られる。


 そして割り振られた区画の数字は、そのまま王の強さの序列と権限の大きさを表す。


 数字は一から七まで存在し、数字が小さいほど地位が高い。


 つまり、一番区画を治める剣王は、七冥王のなかで最も強い王であり、他の王たちに命令できる絶対者である。


 そして今、彼は私と戦うことを提案し、私は戦う前から彼に敗北していた。


「……申し訳ありません、出過ぎたことを口にしました」


「……うん! 君ならやっぱりそうするよね! とっても残念だ!」


 そしていつもの、まるで太陽のように曇りのない笑みを浮かべて話し出す剣王を見て、私は心から安心してしまう。


 三番である私ですら、彼との戦いを忌避してしまうのだから、四番の狼王がケンカを売られた時は、さぞ肝が冷えたことだろう。


「それで、ただそれを教えてくださるためだけに、ここまで来られたわけではないですよね?」


「もちろん! 外に馬車を用意しているから、一緒に見に行こうよ!」


「見に行くとは、もしかして……」


「そう! 謀王の城に、侵入者を見に行くのさ!」


 そう言って彼は、玄関の扉を勢いよく開き、馬車に向かって歩き出した。


 私は黙って、彼の後をついて歩いた。


 そして、剣王が馬車の扉に手をかけると、私に手を差し出して語りかけてきた。


「妖王! デートとはいかないが、楽しいショーを観に行こうじゃないか!」


 彼の誘いに、私は何度目かのため息を吐いてから、彼の手を取って馬車のなかに乗り込んだ。


 すると、既に馬車のなかにいた人物から、声をかけられた。


「遅かったな……」


「っ!? "冥王"! あなたも来ていたのですか?」


「ヤツがうるさくてかなわんから来ただけだ」


「それは、お疲れさまですね……」


 まさか、冥王まで来ていたとは思わなかったが、剣王の性格を考えれば納得だった。


 冥王は、まだ冥界を治める存在がいなかった時代に、『女神エイル』によって、初めて王として任命された存在。


 そして、七冥王となった今も、二番区画を治める王として"冥王"を名乗り続けている最古の王である。


 だが冥王の実力も底が知れず、怠惰な性格ゆえに、本気で戦おうとしない。


 だから剣王は、彼にちょっかいをかけては振り回す。


「やだなぁ、僕が声をかけないと君は1人ぼっちじゃないか! 君はもっと僕に感謝するべきだよ!」


 理由はなんでもいい。


 逆鱗に触れたからでもいい。


 ただ殺したいと思った、それだけでもいい。


 自分を殺すために冥王が本気になるのなら、剣王はいつまでも冥王を振り回し続けるだろう。


 冥王がまだ本気を出していない。


 その事実が、剣王の闘争心を刺激してしまった以上は……


「さあ、行こうか!」


 楽しそうに人を巻き込む剣王と、振り回されて黙り込む冥王に挟まれながら、私は馬車に揺られていた……


「……ところで、この馬車だと七番までどのくらいかかるのかな?」


「おそらくですが、1週間くらいはかかるかと……」


「……よし! 走っていこう!」


「……好きにしろ」


 結局私たちは馬車を乗り捨てて、七番区画の謀王の城へ向かうことになった……


 ――冥界攻略編 絶対の王 完――

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