冥界攻略編 謀計の前の安息
――冥界の集落――
謀王が去った後、俺はサンテスとラモンの2人に事情を説明した。
「なるほど……魔王さまの娘さんを魔族と人間の融和の象徴にするために来た、ねぇ……」
「んでも、女神さまに会うならやっぱり、七冥王さまたちと話さねえといけねえな!」
「まぁ、そうなんだが、あの謀王が協力的になると思うかぁ?」
「えっと……それだけ?」
2人とも俺の説明をあっさりと受け入れて、今後のことについて話し出したので、俺は逆に問いかけてしまった。
「まぁ、オメーらが侵入者だったことは驚きだが、事情を聞いたら別に悪い奴じゃなさそうだしなぁ……」
「うんだ! それに元々悪そうな奴にも見えんかったしなぁ」
「だな! 美人の姉ちゃんたちを引き連れた、いけ好かない兄ちゃん、とは思ったがな!」
「うんだなぁ!」
そう言って2人は、冗談を言いながら笑い合って、緊張した面持ちだった俺たちを和ませてくれた。
そこにリアラが俺にささやくような声で話しかけてきた。
「クロっち……ララちーがそろそろお眠みたいなんだけど……」
そう言われてララティアに視線を向けると、ララティアは目を閉じかけ、何度も船を漕いでいる状態だった。
冥界に来るまでの道のりは、ほとんどララティアのスキルでの移動だったし、負担をかけたのかもしれない。
俺はサンテスに向き直すと、休めるところがないか尋ねた。
「サンテス、どこか寝泊まりできるところはないだろうか?」
「あん? もうそんな時間か……そこらじゅう空き家だらけだから、好きなところを使いな!」
「そうなのか? てっきり、住んでいる人がいるのかと……」
「まぁ、女神さまの導きで、住んでた奴がいなくなるなんてよくある話だ……」
「うんだぁ、オラたちみたいにずっといる変わり者もいるけどな」
「女神さまの導き……?」
2人の話の内容が理解できず聞き返そうとすると、セレーネが俺に話しかけてきた。
「言葉の通りですよ、エイルは輪廻転生を司る女神です……冥界の魂が増えれば、すでにいた魂を転生させて調整する……彼らの言うことが本当なら、希望者のなかから選んで送り出しているのでしょう」
「……なるほどな、じゃあ広めの空き家があったら遠慮なく使わせてもらうよ!」
「おう、好きにしろ! それとオメーら、一応確認なんだが……」
そう言ってサンテスが言葉を止めて、俺と後ろのメンバーたちをジロジロと見回すと、ふたたび話し出した。
「俺たちゃ、魂の存在だからよぉ、飯はいらないし、風呂もいらないけど……大丈夫か?」
「「「……えっ?」」」
サンテスの話に、俺の後ろにいたクレス・イリーナ・ルーシェの3人が、一斉に声を上げた。
そしてクレスとルーシェの2人が、テーブルを『バンッ!』と叩いて前のめりになると、サンテスに詰め寄った。
「サンテスさん! 空き家は1軒くらいなら壊してもいいですか!」
「それと、近くに川の流れている場所はあるかしら!」
「えっ? まぁ1軒くらいならいいか? 川は、裏手の山から流れてたような……」
2人の剣幕に気圧されながらサンテスが答えると、クレスとルーシェが互いに顔を見合わせて頷いた。
「お、おい、お前ら、もしかして……」
「うん! ないなら作ればいいんだよ!」
「ええ、明日には入れるようにするから待ってなさい!」
そう言って2人は、家の外へと走り去ってしまった。
「……なあ、兄ちゃん、もしかしてだけど、あのお嬢ちゃんたちは、風呂を作る気なのか?」
「……どうやら、そうらしい……」
「……オメーら、本当に何もんだ?」
「……あははっ……」
俺はサンテスの質問に、苦笑いを返すと、席から立ち上がってララティアを抱き上げた。
「サンテス、ラモン、色々と助かったよ、ありがとう……」
「あ、ああ、またな」
「んだら、オラも帰るべぇ」
そう言ってラモンも、俺たちと共にサンテスの家を後にし、近くにあった空き家を教えてくれた。
そして、ラモンとも別れると、セレーネとリアラにララティアをまかせて、イリーナとミリスの3人で空き家の掃除をすることにした。
寝室とリビングの掃除だけを手分けして済ませると、クレスとルーシェの帰りを待った。
だが、みんな久しぶりの旅で疲れが出たのか、睡魔に襲われた俺たちは、2人の帰りを待たずに眠りについた……
――翌日――
……そして、目を覚まして起き上がると、ぼやけた視界がだんだんと鮮明になってきた。
すると、同じ部屋で寝ていたはずのみんながいないことに俺は気づいた。
「……みんな、もう起きてるのか?」
以前、旅していた時もそうだったが、みんな朝が早いから、俺はいつも寝室に1人とり残されてしまう。
ふらふらと寝室からリビングへと向かって歩き出すと、リビングの床で、何かが這いずっているのが見えた。
「っ!? な、なんだ!? 誰かいるのか!?」
俺が慌てて這いずっている何かを確認すると、それは縄で簀巻きになったセレーネだった。
「あっ! おはようございます! クロードさん! 昨日はお楽しみでしたね!」
「……何してんだ、お前?」
「いえ、みなさんがお風呂に行かれると言うので、私も喜んでご一緒しようとしたのですが、クレスさんの恐ろしく速い縄術で縛られてしまいました! もう、女神に対する扱いじゃないですよ! まったく!」
「……そうか、みんなお前に順応してるみたいで何よりだ」
俺はセレーネの横を通り過ぎて外に出ると、昨日見た時にはなかった、小さな小屋が隣に建っていた。
ついでに、昨日まではなかったはずの川が、家の真横を流れているのは、気にしないでおこう……
「みんなはあそこか……」
俺は体を拭くために、タオルとお湯を貰えないかと、小屋の扉をノックしようとして、あることに気がついた。
「あれ? この建物、扉がないけど、どうなってるんだ?」
小屋のなかからは、微かにみんなの話し声が聞こえるし、煙突からは湯気が漏れている。
だが、小屋の周りをいくら見渡しても、人が出入りできるような扉が見当たらなかった。
「……なんだこれ? みんなどうやってなかに入ったんだ?」
俺が小屋の作りを不思議に思っていると、セレーネがまるでイモムシのような動きで近づいてきた。
「はぁはぁ、クロードさん……はぁはぁ、適当に壁をノックすればいいんですよ……ついでに、縄を解いて!」
「はあ、適当にねぇ……」
俺はセレーネの願いを無視して、小屋の壁を『コンッコンッ』と軽くノックして、なかからの反応を待った。
しばらくすると、小屋を見つめながら待っていた俺の後ろから声が聞こえてきた。
「あっ! やっぱりクロっちだぁ! おっはぁ!」
聞こえてきた声に反応して振り向くと、そこには空間の穴から顔を出したリアラの姿があった。
「リアラ!? なるほど、小屋に扉がないのは……」
「そだよぉ〜、ウチが開けた空間からなかに入ったんだよぉ!」
だがそこで、一つ疑問が浮かんだ。
「でも、お前たちの能力は俺たちに使ったらダメじゃなかったのか?」
「う〜ん、そこはほら! 自分たちの家に入るだけだし、乙女の入浴を覗かれる危険性を減らす方がいいよね? ってことで許されたっぽいよ!」
「……許されたっぽいんだ……」
「そんなことより、クロっち! 何か用があったんじゃないの? お風呂一緒に入りたかった?」
「ちがっ! 体を拭くためのお湯を分けてもらおうと思っただけだ!」
「おぉ、なるほど! 洗面器で足りる? ちょっと待っててね!」
「あ、ああ、助かる!」
リアラは俺の返事も待たずに、どこかに行ってしまった。
そして、空間の穴だけが残っていたが、そこから小屋のなかの様子が見えてしまうことに気づいて、俺はとっさに視線を外した。
遠くでみんなの声が聞こえる気がして、俺は余計に、視線を向けてはいけないと思った。
「……お待たせぇ! はい、どうぞ!」
少ししてリアラが戻ってくると、空間の穴から体を乗り出し、お湯の入った洗面器を渡してきた。
「あ、ああ、すまない、ありが……」
俺は洗面器を受け取り、お礼を言おうとして、身を乗り出したリアラに視線が行ってしまい、すぐに顔を背けて言葉を繋げた。
「あ、ありがとう! 助かったよ!」
「はぁい! てか、クロっち、どうしたの?」
「あぁ、その……ちょっと、目のやり場に困ってだな……」
「目のやり場……? あっ、ご、ごめん……」
俺の濁した言葉の意味を、リアラも察したみたいで、見えてはいないが、体が隠れるように動いてくれた気がした。
「いや、こちらこそすまない……お湯、ありがとう……俺も準備するから、またあとで……」
「うん、また……」
リアラの返事を聞いて、俺は家のなかに戻り、支度を整えることにした。
そして、謀王が迎えにくるであろうその時まで、俺は久しぶりの剣の感触を取り戻すために、ゆっくりと型を確認しながら剣を振り続けた……
「誰か、縄解いてぇぇぇぇぇ!!!」
――冥界攻略編 謀計の前の安息 完――




