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やり直し勇者は溺愛される ~魔王を倒した勇者ですが、平和の代わりに元仲間たちとのお見合いが始まりました~  作者: 希月タカトラ
冥界攻略編

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冥界攻略編 魂の行方



 ――冥界 七番区画 外れの集落――



 準備を整えた俺たちは、集落の入り口で謀王の迎えを待っていた。


 長年、旅をしてきた俺たちだが、敵の誘いをわざわざ受けるような経験はなかった。


 だから自然と、周囲の空気が張り詰めていることに気づきながらも、それを晴らす方法がわからずにいた。


「あのぉ〜、みなさん当たり前のようにしてますけどぉ、私はいつまで簀巻きにされたままなんでしょうか?」


「あっ! 忘れてた!」


「酷い! クロードさんの頼れるパートナーである、このセレーネちゃんを忘れるなんてぇ〜!」


「いや、誰も頼りにしてねぇよ……」


 そんなことを話していると、何を思ったのかララティアがセレーネの前にしゃがみ込んだ。


 そして、近くに落ちていた小枝を拾うと、セレーネの頬に小枝の先を何度もつつき始めた。


「ちょ!? ちょっと、ララティアさん!? やめっ! やめて! ツンツンしないでぇ!」


「……つーん、つーん……ふふっ……」


 どうやらララティアのお気に召したらしい……


 すると、ニヤニヤと含み笑いを浮かべたリアラが、ララティアに近づいてきた。


「ララちー、こういう時はねぇ……ごにょごにょ……」


「……うん……えっ? いいの……?」


「うん! セレっちなら絶対に喜ぶから、強気にいっちゃって!」


「……わかった! ふぅ……」


 リアラがララティアに何やら吹き込むと、ララティアが一度大きく息を吐いた。


 すると、いつもは内気なララティアが、お見合いの場に乱入して来た時と同じ、世間知らずな小娘を思わせるような表情をして語り出した。


「あれれぇ〜、私たちのお風呂を覗こうとして捕まっちゃったのぉ? だっさぁ〜い! ねえ、今どんな気持ちぃ? 変態さんに教えてほしいなぁ! きゃはは! ざぁ〜こっ! ……キモっ!」


「ゴフッ!」


 ララティアの渾身の一撃が、セレーネの急所に入った!


 こうかはばつぐんだ!


「ラ、ララティアさん……見事なメスガキボイス、でした……グフッ、カスタム……」


「……お前ら、いつの間にそんな仲良くなったんだ?」


 俺はララティアの隣にしゃがんで、セレーネを縛っていた縄を解いていると、遠くから馬車の音が聞こえてきた。


 俺は縄を解くのを中断して立ち上がった。


「えっ!? クロードさん!? 私、このまま!? 嘘でしょ!?」


 数人の護衛を連れた大型の馬車が俺たちの前で止まると、馬車のなかから1人の男が出てきた。


 白いスーツと靴、黒のベスト、金の装飾をアクセントにした気品を感じさせる身なりで、白銀の髪を左右に流し、細いフレームの眼鏡をかけた男。


 雰囲気はまったく違ったが、兵士を装って現れた昨日の男で間違いなかった。


 謀王――冥界を統べる七王の1人。


 できれば彼と友好的な関係を築いて、この旅の目的である輪廻の女神エイルとの対話を果たせればいいのだが、どうも信用ならない男に感じた。


「みなさま、おはようございます……お待たせして大変申し訳ありません」


「いや、気にしないでくれ……今日は、よろしく頼むよ……」


「ありがとうございます……ところで、そちらのご令嬢は何故、縄で縛られているのでしょうか?」


「……気にしないでくれ、ちょっと不義理をして反省させているところなんだ」


「不義理を、ですか? それは、出過ぎたことを聞きました……では、どうぞお乗りください」


 セレーネのことを適当に流しつつ、形式的な挨拶を済ませた俺たちは謀王に促されて馬車のなかに乗り込んだ。


 セレーネを馬車の荷台に放置し、俺たちが向かい合わせの長椅子に分かれて座ると、謀王は全員を見渡せる扉側の席に腰を下ろした。


 全員の着席を確認した謀王が御者に合図を送ると、ゆっくりと馬車が動き出した。


 そして、それに合わせるように、謀王が俺たちに質問を投げかけてきた。


「さて、目的地まで時間もありますし、ある程度のお話はここで済ませられればと思うのですが、なぜあなた方は、このような地に足を踏み入れられたのでしょう?」


「別に侵略なんて考えちゃいないさ! ただ俺たちは、冥界を管理している女神に会いたくて来たんだ」


 本音を言うべきか、一瞬ためらったが、この男が七王の1人なら、どのみちわかる話だと思って正直に答えた。


「ほう、つまり輪廻の女神さまに……しかし、いったい何のために?」


「先の戦争で亡くなった者たちの、転生の確約を貰うためだ」


「……なるほど、すべて語るには、まだ私は信用ならないということですね?」


「……やりたいこと自体に嘘はないさ」


 やはり、騙されなかった。


 この旅の真の目的は、女神エイルとの対談にララティアが貢献したことの実績を得るため。


 そしてそれを、人間側の共通認識にして、魔族への怨恨を断つことにある。


 だが、この男の本心がわからない以上、魔族殲滅を望む過激派なら、この旅を邪魔しかねない。


 しかし目の前の男は、俺の警戒など気にしていない様子で語り出した。


「ですが、それは困りましたね……私ごときの権限では、女神さまとの謁見は叶いません」


「……私ごときって、ちょっと待ってくれ! アンタは七冥王の1人なんだろう?」


「ええ、それは間違いございません……私は七冥王の1人、謀王の名を冠しております……しかし、女神さまとの謁見が叶うのはただ1人、『剣王』だけなのです」


「どういうことだ?」


「順を追って説明しましょう……我々は死者として魂となり、冥界に運ばれると、六つの区画のいずれかに適当に割り振られて住まうことになります……ですが時折、すでに体を築いた状態で冥界に運ばれる魂が現れます」


 俺はその話を聞いて、ラモンが言っていた単語を思い出した。


「『体持ち』か……?」


「おや? ご存知でしたか……体持ちの魂はいわば強者や権力者の証、普通に天寿を真っ当しただけでは起こり得ないことなのです」


「その割には、俺たちを見たラモンは、あまりビックリしていなかったが?」


「それはまあ、例外もあるからでしょう……いわゆる死んだことに気がついていない者のことです……例外とは言いましたが、大体の体持ちはそれに当てはまりますので」


「……なるほどな」


 確かにラモンに会った時、イリーナのとっさの発言で、俺たちは旅の道中に事故に遭っていたことになっていた。


「さて、話を戻しましょう……体持ちとして冥界に来た魂は、女神さまに見初められると、管理者として任命され、魂の生き様や在り方を表した一文字とともに王の名を与えられ、剣王のもとで、二〜七番の区画のどれかを任されるのです」


「……その『剣王』ってのは、一体何者なんだ?」


 俺は七冥王のなかで、明らかに扱いが違う剣王について聞いてみたが、謀王は両手を挙げ、首を振りながら答えた。


「わかりません……ただ、立ち振る舞いから位の高い方だったことは予想できますが、なにぶん私が冥界に来た時にはすでにいらした方ですので……」


 そう言って両手を下ろすと、謀王は話を続けた。


「ただ、我々王が管轄する区画の番号は、そのまま七王のなかでの力の序列と権力の大きさを示します……そして、剣王はその座に就いてから不動の一番であり、女神の小屋を守護しています」


 その話を聞いて、俺はサンテスも『最強の王』と称していたことを思い出した。


 すると、話を聞いていたルーシェが謀王に話しかけた。


「つまり、女神さまにお会いするには、その剣王って人にお願いするしかないってことかしら?」


「ええ、ご名答でございます、麗しい人……そして、残念ながら、その願いを聞き入れることはないでしょう」


 その言葉に、クレスが反応して割って入ってきた。


「えっ!? なんで!? ただお話がしたいだけだよ?」


「だからですよ、健やかな人……剣王の興味は強いかどうか……もっと具体的に言うなら、自身を殺せるくらい強いのか? それだけです」


 そしてイリーナが、話をまとめるように話し出した。


「つまり、わたくしたちがエイルさまにお会いするには、剣王さまに力を示さなければならない、とのことですね?」


「その通りです、清らかな人……そして、その方法は自ずと限られてきます……」


 そう言われた瞬間――俺たちは、とっさに身構えてしまった。


 剣王に力を示す方法――つまりそれは、他の6人の王たちを倒すことだった。


 だが、俺たちの警戒心を知ってか知らずか、謀王はそのまま話を続けた。


「しかし残念ながら私は、七王のなかでも最弱……武術も嗜む程度で、たいしたことはありません……なにせ"謀計の王"ですから」


 そう言って謀王は、爽やかさを感じてしまうほどの笑みを浮かべ、俺たちは緊張の糸を緩めるしかなかった。


「私から話をしておいてなんですが、まだ屋敷までは時間がかかります……それまでどうぞ、ごゆっくりおくつろぎください」


 そして謀王は、服の内側に手を入れて何かを取り出すと、リアラの膝の上に座っていたララティアの前に紙の包みを差し出した。


「可愛らしい人……長話で退屈したでしょう? こちらをどうぞ、飴菓子です」


「あ、その……ありがとう……」


「死者に食事は必要ないって聞いたが?」


「ええ、ですから娯楽の一つとして、食事をするのですよ……あなたもどうですか? 『勇者クロード』さま」


「っ!? なぜ、俺の名を!?」


 俺は自分の名前を言い当てられたことに驚き、緩めていた警戒心を、もう一度強めてしまった。


 そして、俺の反応を見た謀王が、得意げに推理を語り出した。


「いやいや、単純な消去法ですよ……あなたたちは生者だ、なら必然的に今を生きる存在だ……なら、最近死んだ者から名のある武人や英雄の話を募れば自ずと可能性は限られてくる……女神セレーネさまを魔王の封印から解放し、世界に平和をもたらした英雄、その仲間には凄腕の冒険者、天才と言われた魔術師、王族に連なる聖女がいた……そこの可愛らしいお嬢さんは謎ですが、ここまで絞れていれば、あとは試しに言ってみれば、ほらこの通り! 白状してくださって助かりました!」


「……つまり、まんまと引っかかったってことか……」


 俺は目の前の男に、完全に遊ばれていることに気づいたが、睨みつけることしかできなかった。


 そして、謀王の表情がだんだんと元の不気味な笑みに戻り、静かに語り出した。


「さて、勇者さま……まだまだ楽しめそうなので、このままお話しされますか?」


「……一つ、聞きたいことがある」


「はい、なんでしょうか?」


 俺は謀王に質問する前に、一度目を閉じて気持ちを落ち着かせた。


 そして、平常心を装いながら目を開け、謀王に質問した。


「……さっきあんたは、死者の魂は六つの区画のどれかに適当に割り振られるって言ってたけど、それは本当に平等なのか?」


「……ほう、意外なところに着目されるのですね? それとも、お仲間に誰か……」


「いいから答えろ」


 質問の意図を探る謀王の言葉を、俺は静かな怒りを込めてさえぎった。


 そんな俺の態度に、謀王は片手を胸に当てながら頭を下げて、謝罪の意を示した。


「……失礼いたしました……質問の答えですが、言葉どおり、割り振りは適当でございます……ただし、その前に"除外される魂"もございます」


「……罪を犯した魂か?」


 俺の問いに、謀王は俺の意図を察したのか、口元を緩めた。


「ご明察でございます……いわゆる"地獄行き"でございますね……大義名分もなく、ただ己が欲望のままに罪を犯した者には、それ相応の苦しみが待っているのでしょう……まぁ、その基準は私にもわかりかねます……なにせ、私のような外道でも、冥界に来れるのですから」


「……そうか、ありがとう」


 俺は謀王の話を聞き終え、向かいの席のイリーナに視線を向けると、イリーナも俺を見つめていた。


 そして、彼女が軽く頷くのを確認して、俺はイリーナの隣にいたミリスへと視線を移した。


 ミリスの母親は、彼女がまだ幼い頃に、俺の故郷の奴らに殺されている。


 イリーナに陰で調べてもらっていたが、その犯人たちは、すでに死んでいた……



 

 ――冥界攻略編 魂の行方 完――


 

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