番外編 やり直し勇者と水辺の少女たち 漆黒の章
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番外編
【やり直し勇者と水辺の少女たち 漆黒の章】
お楽しみください。
――クレア湖 砂浜――
ルーシェと別れた俺とミリスは、湖と川の境目に向かって歩いていた。
(……き、気まずい……!)
ミリスがルーシェとの間に割って入ってきてくれたからよかったが、俺はあんな場所でいったい何をするつもりだったのか?
そして、そんな光景を目の当たりにしたミリスが、俺の前を歩きながらいったい何を考えているのか?
自分の招いた結果だが、心穏やかではなかった。
するとミリスが急に立ち止まって、俺の方に振り返ると、申し訳なさそうに話し出した。
「その、さっきは申し訳ありませんでした……」
「えっ?」
ミリスが急に謝ってきたので、俺は戸惑いの声を漏らしてしまう。
「別に、お兄ちゃんは悪いことをしていません……場所は考えたほうがいいと思いますけど……なのに、気まずい思いをさせてしまって……」
「いや、いいんだ! 確かにあれは、俺が悪かった!」
「いいえ! 違うんです! ただ……」
そう言って彼女は、俺に何かを言いかけて言葉を詰まらせると、申し訳なさそうに、だが恥ずかしさもある表情で続きを話し出した。
「ただ、お兄ちゃんとの時間がなくなっちゃうと思って、邪魔をしてしまいました……ごめんなさい……」
それを聞いた俺は、彼女の気づかいと、俺との時間を楽しみにしていた気持ちを理解した。
なんとなくミリスは、クレスとイリーナとルーシェの3人が最優先で、自分と後からきたララティアはその後だと思っていたのだろう。
だから俺との時間も、他の3人が終わるのを待つべきで、ルーシェとの時間が終われば、次は自分との番だと期待していた。
それなのに、俺がルーシェとの時間で一日を終わらせてしまうところだった。
今思えば、みんなの少し後ろに構え、空気を読んで身を引くような子が、ルーシェとの間に割って入るなんて珍しいどころの話じゃなかった。
それだけ、自分の番が来るのを楽しみにしていて、それがなくなってしまうかもしれないと不安に襲われ、その焦りから間に割り込むようなことをしたのだろう。
「……ミリス、心配させてごめんな! ちゃんとするべきだった、ありがとう」
「っ! いえ、私が!」
「ミリス……イリーナも言っていたけど、立場は違ってもミリスもみんなと一緒だ! だからもっとわがままになっていいんだぞ!」
「……わがままに、ですか?」
「そうだぞ! なんたって俺は、ミリスのお兄ちゃんなんだからな!」
俺はそう言って胸を張ると、ミリスは少し戸惑っていたが、祈るような仕草をしながらゆっくりと話し出した。
「その……手を、握ってもいいですか?」
「もちろんだ!」
俺はミリスのわがままとも言えないお願いを聞いて、すぐに彼女の手を取って握った。
するとミリスは頬を赤くさせ、うつむきながらつぶやいた。
「あ、ありがとう……ございます……」
「別に、たいしたことしてないぞ? とりあえず行こうか!」
「……はい」
そして俺とミリスは、手をつないだまま歩き出した……
「……お兄ちゃん、手慣れてる……」
「えっ!?」
――クレア湖 川近く――
ミリスと一緒に、湖と川のつなぎ目辺りまでくると、砂地にだんだんと石が混ざるようになっていた。
「ここでいいのか? それとも、もう少し上流の方へ行くか?」
ミリスに目的地を確認すると、彼女は首を横に振って話し出した。
「いえ、ここで大丈夫です……」
そう言ってミリスは、川の浅瀬まで歩くとその場でしゃがみ込んだ。
そして両手で川の石をすくうと、じっと石を見つめていた。
俺もミリスの横へ移動してしゃがみ込み、彼女に声をかけた。
「……何をしてるんだ?」
「……きれいな石がないかと思って……」
ミリスは相変わらず鉱石に興味があるみたいで、ここなら珍しい石があるかもしれないと思っているみたいだ。
「きれいな石って、普通は掘ったりして探すもんじゃないのか?」
「そういう探し方もありますが、川に流されてくる物もあると、本で読んだことがあります……」
「なるほど、なら俺も探してみようかな?」
そう言って俺は立ち上がり、もう少し川上の方へと向かって歩き出し、素足で地面を踏みしめた瞬間、問題が起きた。
「……いったっ!?」
そう、すでに砂から砂利に変わっていた地面を踏みしめるたびに、ゴツゴツした石が足の裏に食い込んできた。
「? お兄ちゃん、どうかしましたか?」
「い、いや! なんでもない! 問題ない! さぁて、お宝ないかなぁ〜」
俺はミリスの前で情けない姿を見せないように、必死に痛みをこらえながら歩くが、その様子はとてもぎこちなかった。
「お兄ちゃん、やっぱり変です! もしかしてケガですか!?」
そう言って俺を心配したミリスが、立ち上がって急ぎ足で近づいてきた。
俺はとっさに彼女を止めようと声を上げた。
「ダメだ、ミリス! 来ちゃダメだ!」
「えっ!?」
だが、もう遅かった……
ミリスは走った勢いでゴツゴツした石を、思いっきり踏みしめてしまった。
「ぅ……ん……」
ミリスが言葉にならない声を上げながら、動きが鈍くなったが、走った勢いのせいで一歩二歩と足が前へと出ていった。
そして俺の前でゆっくりと止まると、ミリスは下をうつむいたまま、微動だにしなかった。
「ミ、ミリス? 大丈夫……か?」
俺はミリスに声をかけるが、彼女はしばらく黙ったままだった。
少しすると、ミリスが体をぷるぷる震わせながら、涙を浮かべて俺に視線を合わせてきた。
「お、お兄ちゃん……い、痛い……」
「だよな! 痛いよな! 強がってごめんな! 来てくれて、ありがとうな!」
俺はミリスをあやすように言葉をかけたが、ここで問題がまた起きた。
「ミリス、元の場所まで戻れそうか?」
「む、むりぃ……」
「だよなー」
あまりの痛さに、いつもの口調ができなくなったミリスを見て、俺は一つの解決策を思いつくが、それはそれで色々と覚悟が必要だった。
「あーミリス、ちょっとだけじっとしててもらえるか?」
「ふぇっ?」
ミリスの返事と言っていいのかわからない返事を聞いた俺は、一度大きく深呼吸をして彼女の肩と足に手を回して持ち上げた。
「ふぅん! いっつぅぅぅ!」
「へっ!? お、お兄ちゃん!?」
「ミリス! じっとしててくれ! 足に食い込むから……」
「で、でも……」
俺はミリスを持ち上げたことで更に食い込む石の痛みに耐えながら、一歩ずつゆっくりと歩き出した。
少し痛みに慣れていたのもあったが、ミリスが思った以上に軽かったこともあり、俺はなんとか彼女を抱えたまま、砂地側にまで歩くことができた。
「……ふぅ! すっげぇ痛かったぁー! ミリスはもう大丈夫か!?」
俺は込み上げる痛みを吐き出すように声を上げて気持ちを落ち着かせると、抱えるミリスへと視線を移して声をかけた。
だが、ミリスは黙ったままうつむいていた。
「ミリス? 大丈夫か? どこか、痛めたか?」
もう一度ミリスに話しかけると、彼女はハッとして返事をした。
「あ、だ、大丈夫です! あ、ありがとうございます……」
「そうか、それならよかった……今降ろすから、気をつけろよ」
「……はい」
そして体を屈めてミリスを降ろすと、彼女が首から下げた小袋を両手で握りしめながら顔を近づけてきた。
俺の頬に柔らかな何かが触れて離れていく……
何が起きたのか、すぐに理解できず頬をなぞると、ミリスの唇が当たったのだと遅れて気づいた。
「ミ、ミリス!? ど、どうしたんだ急に!?」
戸惑う俺に、彼女は微笑みながらささやいた。
「いつか……この先もできるから、待っててくださいね! お兄ちゃん……」
まだ幼さの残るはずの彼女の表情は、どこか大人びて見えて、俺は息を呑んでしまった……
「あっ! クロードさま!」
俺を呼ぶ声で我にかえり、声がする方へと視線を向けると、そこにはララティアがいた。
「ララティア!? どうしたんだ? えっと、魔王とルクレツィアは?」
俺の問いに、ララティアは左右をゆっくりと見渡したあと、気の抜けた返事をしてきた。
「えっと……迷子……?」
「……ララティアがな……」
ララティアの返しに、俺は呆れ気味に答えると、ミリスに声をかけた。
「悪い、ララティアを連れて行くけど、ミリスはどうする?」
「私もご一緒します。よろしいでしょうか?」
「ありがとう、助かるよ!」
ミリスの返事を聞いた俺は、ララティアの前に手を差し出しながら彼女に話しかけた。
「ララティア、一緒に行こう……」
「……うん!」
ララティアが俺の手を取り、ミリスが隣に来たことを確認して、3人で歩き出した。
だけど、さっきミリスが見せた大人びた表情が、俺の頭のなかから離れていなかった……
――やり直し勇者と水辺の少女たち 漆黒の章 完――
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