番外編 やり直し勇者と水辺の少女たち 濃藍の章
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番外編
【やり直し勇者と水辺の少女たち 濃藍の章】
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――クレア湖 東屋――
「クロードさま、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……問題ない……」
イリーナの刺激的な特訓からようやく解放された俺は、椅子に腰掛けて項垂れていた。
「そういえば、ミリスはどこに行ったんだ? 俺に見えてないだけか?」
「いえ、どうやら気をつかって席を外したみたいですね……あの子も立場は違えど、同じ妃候補なのに……」
そう言ってイリーナが片頬に手を当て、困ったような仕草をしていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「別に、少しずつ変わっていけばいいんじゃない? 急に態度が変わったら、こっちが混乱するわよ」
俺とイリーナが声のする方へ振り向くと、そこにはルーシェが立っていた。
「ルーシェ、姿が見えないと思ってたけど、どこに行ってたんだ?」
「別に、日陰で休憩していただけよ……泳ぐにもメガネを外したら何も見えなくなるから、することがないのよ……」
「そうか、なら少し歩くか? 波打ち際を歩くと、ひんやりして気持ちいいぞ!」
そう提案すると、ルーシェは少し考えたあと返事をした。
「そうね、どうせ暇だし付き合ってあげる」
「よし! じゃあ行くか! イリーナはどうする?」
「わたくしは、ここでミリスが戻ってくるのを待とうと思います」
そう言ったイリーナに、ルーシェが少し眉をひそめて言葉を返した。
「気を使わせたかしら?」
「いいえ、ただ機会は平等にと思っただけですよ……」
そんなやり取りをしている二人を見て、俺は首を傾げてしまった……
イリーナと別れた俺とルーシェは、湖の波打ち際に沿って歩いていた。
「やっぱりいいところだな! こんな土地で暮らせたらなぁ」
「なに、ジジ臭いこと言ってんのよ! それに国王になったらそんなの無理に決まってるじゃない! 別荘で過ごす程度で我慢しなさい!」
「……はい」
未だにのんびり田舎生活を夢見ているのだが、やっぱり俺の野望は始まる前から終わってしまったと諦めるしかないのだろうか?
そんなことを考えていると、俺の少し後ろを歩いていたルーシェが話し出した。
「……ねぇ、やっぱり休憩しない?」
「うん? ああ、いいぞ! でも、休む場所なんて……」
俺はルーシェの提案を受け入れたが、日除けになるようなところがなく、辺りを見回すとルーシェが呆れたようにため息をついた。
「何やってんのよ? ほら、ここで休むのよ!」
ルーシェがそう言うと、空間魔法で日除用の傘を取り出していた。
「……相変わらず便利なもんだな」
「いいでしょ? あげないわよ……」
ルーシェにしては珍しく冗談を言いながら、続々とイスやテーブルなどを取り出して、簡易的な休憩スペースが出来上がった。
「なにか冷たい物でも飲む? と言っても、水かお酒しかないけど……」
「水か酒? ずいぶん極端だな?」
「当たり前でしょ? 保存が効く物しか入れないもの」
俺たちはイスに腰掛け、ルーシェは酒の入った瓶とコップを二つ取り出した。
彼女が精霊術で作った氷をコップに入れてお酒を注いだ。
「はい、飲めるでしょ?」
「ああ、いただきます……」
俺はルーシェから酒の入ったコップを受け取った。
コップから感じる冷たさに、俺は耐えきれずに勢いよく酒を口に運んだ。
「はぁ! 美味いな!」
冷えた酒は度数も高くないのか、果実水のように甘いが、すんなりと飲み込めて、俺は感嘆の声を漏らしてしまった。
ルーシェは俺のその様子を見ると、ニヤリと微笑みながら酒を口に運ぶと、ゆっくりと語り出した。
「甘いわね、お酒なんて美味しいと思って飲むものじゃないわよ……」
その言葉に俺は、ルーシェとの攻略の日のことを思い出して、咄嗟に言葉が出てしまった。
「酔いたいから飲むもの……か?」
「あら? 言うじゃない! 誰かの受け売り?」
「……まぁな!」
「ふーん、でも残念! 正解は……」
そう言ってルーシェの話がピタリと止まると、彼女は湖に視線を向けてから、続きを話し出した。
「……こんないいところで飲む酒なら、美味いに決まってるって、そう思って飲むのよ……」
そしてルーシェはコップのなかに残った酒を見つめて、一気に飲み干した。
「なるほどな……」
俺はルーシェのことを、まだわかってはいないかもしれないが、彼女なりに楽しんでいることが伝わってきて、もう一度口に含んだ酒がさっきよりも美味く感じた。
「ところで、あの2人と何をしてたのかしら?」
「えっ?」
俺の酒を口に運ぶ手が止まった。
「えっと、あの2人とおっしゃいますと?」
「クレスとイリーナのことに決まってるじゃない? それとも、他にも手を出した子がいるのかしら?」
「いや! まて! クレスとイリーナで合ってるぞ! クレスとは一緒に泳いで、イリーナとは東屋で休憩してただけだ! 断じてやましいことはしてないぞ!?」
俺はなぜか必死になって、ルーシェに弁明の言葉を投げかけるが、それがよくなかった。
「へぇー、私は『何をしてた?』と聞いただけなのに『やましいこと』なんて言い直すには、さぞたいそうな理由があるんでしょうねぇ?」
「あ、いや、そのぉ、ちょっとギリギリだったこともあったと言いますか……」
「へぇ、クレスは顔を真っ赤にして走り去るし、東屋にいたイリーナは満足そうな顔をして、クロードは疲れたような顔をしていたけど、『ちょっとギリギリ』くらいのことだったのね?」
「う、す、すみません、色々ありました……」
……俺は口ごもりながらも、クレスが倒れて抱き合ってしまったこと、イリーナに特訓だと言われて日焼け止めの薬を塗らされたことを話した。
「……そう、ずいぶん楽しんだみたいね?」
「いえ、そのようなことは……」
「……まぁいいわ、クレスの件は確かに事故みたいだし、イリーナの件も一理あるから」
そう言ってルーシェが話を終わらせるが、まだ何か言いたそうだった。
「……ルーシェ、何か言いたいことがあるなら聞くぞ?」
俺の言葉にルーシェは、また呆れたようにため息をつきながら立ち上がると、俺の前まで歩いてきた。
「ルーシェ?」
彼女の名前を呼ぶが、何も言わないで俺の手を取って波打ち際に歩き出した。
俺は手を引かれて慌てて立ち上がり、ルーシェのあとをついていくと、足首が湖に浸るところまできて、彼女が立ち止まった。
そして彼女は、湖の方を向いたまま話し始めた。
「……確かに、最初はクレスにあげることになるんでしょうけど、それって全部じゃないわよね?」
「……ルーシェ、なにを……?」
ルーシェの言葉の意味を理解できず、俺が彼女に聞き返そうとしたその時、振り返った彼女が髪紐を解きながら、俺の横で仰向けに倒れ込んだ。
手を引かれたままだった俺は、倒れたルーシェに引き寄せられるようにバランスを崩して、彼女に覆い被さってしまう。
「す、すまないルーシェ! すぐに、ど……く……」
ルーシェを見て、俺は言葉を止めてしまった。
ルーシェは愛おしいものでも見るような眼差しで俺を見つめ、その髪は水に浸かってゆらゆらと揺れていた。
そして彼女が俺の頬に手を当て、静かに語りかけてきた。
「ねぇ、私も初めて……貰ってもいいでしょ?」
「初めてって何を……?」
俺の頬に添えられていたルーシェの手が動き、人差し指で俺の唇を這うようになぞり、自身の唇にその指を持っていった。
「私は全部あげるんだから……なんなら、今あげましょうか?」
「い、今!? いや、それは……」
「どう? あの子たちがまだ持ってない魅力を、私は持ってると思うけど……」
そう言ってルーシェは、唇に当てていた指をゆっくりと顔から首へ、首から胸元へと手を動かしていく。
俺は彼女の艶やかさに魅了されるように、ルーシェの手を無意識に目で追いかけていた。
そして胸元の水着を掴んだ状態で手を止めたルーシェが、小さくささやくように、俺に問いかけてきた。
「味見、してみる?」
俺はお酒とルーシェのささやきに心乱され、彼女に導かれて体を預けそうになり、だんだんと体を重ね……
「お二人とも! そこまでです!」
その言葉に、俺はハッとなり、声の方へと視線を向けると、そこにはミリスがいた。
「え!? ミ、ミリス!?」
「あら? ミリスいたのね?」
「あら? では、ありません! そこで始められては、私の出番がなくなります!」
そう言ってミリスは、少し頬を膨らませながら、ルーシェに抗議の意思表示をしていた。
「うーん、それもそうね! ミリス、ごめんね! お詫びに、こいつは連れていっていいわよ!」
「お詫びにって……」
俺は雑な扱いに、不満の声を漏らしてしまったが、内心ホッとしていた。
リアラとクレスとの件もそうだが、その場の空気に流されてしまうのは、気をつけなければいけないと、もう何回目になるのかわからない反省をしていた。
「クロード、ちゃんとミリスをエスコートしなさいよ!」
「あ、ああ、わかった……行こう、ミリス」
「はい、クロードさま……ルーシェさま、ありがとうございます……」
「こちらこそ、ありがとう……クロード! 言っておくけど、まだミリスはダメだからね!」
「わ、わかってるさ……」
そう言って俺たちは立ち上がり、ルーシェに手を振りながら、俺とミリスはその場を後にした。
「……いい感じに刻めたかしら?」
ルーシェが何か言った気がして、俺は振り返るが、すでに別荘に向かって歩き出している彼女の後ろ姿しか見えなかった……
――やり直し勇者と水辺の少女たち 濃藍の章 完――
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