番外編 やり直し勇者と水辺の少女たち 純白の章
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番外編
【やり直し勇者と水辺の少女たち 純白の章】
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番外編 やり直し勇者と水辺の少女たち 純白の章
――クレア湖 桟橋――
ボートで桟橋の端まで来ると、イリーナとミリスが迎えに来てくれていた。
俺はミリスからロープを受け取るとボートの先端に括り付け、桟橋にボートを固定させた。
すると、それを見計らうかのように、クレスがボートから桟橋に飛び降りて、俺に話しかけてきた。
「ありがとう! 勝負に負けちゃったし、ちょっと湖の周りを走ってくる! じゃあまたね!」
「あっ、おい!」
クレスを呼び止めるが、彼女は振り返ることもなく走り去ってしまった。
「クロードさま、クレスさんと何かございましたか?」
「いや、ないと言えば嘘になるというか……」
イリーナの問いに、俺は歯切れの悪い返事をしてしまう。
「……そうですか……」
イリーナは俺と走り去ったクレスを交互に見ると、何かを悟ったように、ゆっくりとまばたきをして話を切り替えた。
「クロードさま! クレスさんはあの様子ですし、次はわたくしにお付き合いいただけますか?」
「え? ああ、いいけど……」
「ありがとうございます! では、日も高くなってきましたし、あちらで休憩でもいたしましょう」
そう言ったイリーナの視線の先を見ると、湖のほとりに小さな東屋が見えた。
俺は気にならないが、イリーナやミリスからしてみれば、湖からの照り返しもあって辛いかもしれない。
「そうだな、じゃあ行こうか……」
俺はイリーナの提案に同意して歩き出し、ミリスの横を通り過ぎようとしたとき、彼女から小さく声をかけられた。
「お兄ちゃん、エスコート……」
その言葉に俺は立ち止まって振り返ると、ミリスの横で、急に立ち止まった俺を不思議そうに見ているイリーナと視線が合った。
俺は少し気恥ずかしさと、夜会の日のことを思い出すなつかしさを感じつつ、イリーナに手を差し出した。
「えっと、よろしければお手をどうぞ……で、あってる?」
「……はい、ありがとうございます」
俺のぎこちない所作に、イリーナは微笑みながら手を取ってくれた。
それに安心した俺は、歩幅を広げ過ぎて手を離してしまわないように、注意しながら再び歩き出した。
すると、イリーナは微笑みを絶やさぬまま、鋭い言葉を投げかけてきた。
「クロードさま、お手なら触れても大丈夫なのですね?」
「えっ? ど、どういう意味かな?」
「いえ、クレスさんと気まずくなられた理由はなんだろう、と思いまして……」
(す、鋭い……)
「……別に、常識の範囲内なら、大丈夫だ!」
「ふふっ、クロードさま、殿方に許される“常識の範囲”なんて、せいぜい手を取ることと肩に触れること、あとはダンスで腰に手を回すくらいのものですよ」
「……それだけ触れられたら十分じゃないか?」
「さぁ、どうでしょうか?」
イリーナの話に、俺はなんとか反論してみせるが、彼女にうまく躱されてしまった……
東屋まで移動した俺たちは、備え付けのイスに並んで腰掛けていた。
「ところでクロードさま、クレスさんとの件ですが……」
「えっ、ああ、大したことじゃないさ! ボートがグラついて、クレスが倒れてきたから受け止めたら抱き合うような形になって、変な感じになっただけさ!」
俺はイリーナが何を問おうとしていたのか、なんとなく察して、決してやましいことはしていないと説明した。
……未遂だから。
「……それだけですか?」
「……えっ?」
「本当に、それだけなのですか?」
「そ、そうだけど……」
「クロードさま、はしたないことを聞きますが、抱きしめた拍子に、胸を触ってしまったとか、水着の隙間に手を入れてしまった、とかもなかったと?」
「そ、そんなこと、あるわけないだろ! その、ちょっとなりかけただけだ……」
イリーナの突拍子もない質問に、俺は慌てて否定しつつ正直に答えたが、なぜか彼女の反応はだんだんと曇る……というよりも呆れているようだった。
「……クロードさま、責務を優先してこられた結果とはいえ、その程度で狼狽えていては、わたくしたちとの営みにも支障をきたします」
「い、営みって、そんなまだ先の話じゃ……」
「いいえ、此度の冥界への遠征を一年で終わらせたとして、戴冠式とララちゃんとの婚姻発表が終われば、次はお世継ぎの問題が浮上します」
「一年後……?」
イリーナの予想とはいえ、一年と言われて思ったよりも短い期限に驚きを隠せなかった。
「はい、そして大事なのがここです! 政務と財務をわたくしとルーシェさんでまとめている間に、第一子を授かるのはクレスさんになるでしょう……」
「なっ、そんな業務的な!」
「仰りたいことはわかりますが、王族に連なるとはそういうことです……これは、ルーシェさんも理解されています」
「……そうなのか?」
「はい! ちなみにミリスとララちゃんとの営みは、彼女たちが成人するまでは我慢してくださいね!」
「はぁ、当然だ……」
冗談なのか、それとも本気で言っているのかわからない話に、俺はため息混じりの返事しかできなかった。
「あっ! でも、気をつけていただければ、営み自体に問題は……」
「大丈夫だ! そんなことしない!」
「……お兄ちゃん、しないの?」
「なっ!?」
俺がイリーナの話に食い気味に反論すると、近くにいたミリスがぼそっとつぶやく声が聞こえて、俺は狼狽えてしまった。
「やはり、特訓が必要ですね……というわけで、クロードさま! わたくしの体に日焼け除けの薬を塗ってくださいませ!」
「な、何故そうなる!?」
「何故って、クロードさまが異性の身体に触れても、動じなくなるためです!」
そう言ってイリーナはミリスに視線を移すと、ミリスが液体の入った小瓶を取り出してきた。
「ありがとう、ミリス……ではクロードさまお願いいたします!」
イリーナは俺に小瓶を渡すと、いつの間にかミリスが敷いていたシーツの上にうつ伏せで寝ながら俺に語りかけてきた。
「クロードさま、隅々までお願いいたします……それと……」
そう言ってイリーナが口を止めると、俺を見つめながら含み笑いを浮かべ再び話し出した。
「必要のないところを塗っていただいても、わたくしは構いませんよ……」
それを聞いた俺は、無意識にイリーナの体を見つめてしまい、ゴクリと喉を鳴らしてしまった。
俺は仕方なく小瓶のなかの薬を手のひらに垂らして、もう一度イリーナの体に視線を移した。
彼女は細身なのに曲線的な体型をしていて、セレーネいわく『全体的に柔らかそうでヤバい』と評していたが、まったくもってその通りだと思う。
「ぬ、塗るぞ!」
「はい、お願いいたします……」
俺はイリーナに断りを入れるように声をかけ、彼女の返事を待って背中に手を伸ばした。
「……あっ!」
ピタッと手が背中についた瞬間、イリーナからなんとも形容し難い声が漏れて、俺は慌てて手を離してしまう。
「す、すまない! 痛かったか!?」
「申し訳ありません、ちょっと冷んやりしただけですので、どうぞ続けてください……」
「わ、わかった……」
俺はもう一度、イリーナの背中に手を当てると、薬が背中全体に伸びるように手を動かしていく。
「こ、これでいいか?」
「いいえ、背中だけでなく、腕や足にも塗ってください」
「そ、それは自分でも出来るんじゃないか?」
「そうですが、どうしてもムラが出来ますから……」
俺はミリスに助けを求めようとしたが、彼女はいないのか、見えないのか、その場からいなくなっていた。
観念した俺は、手のひらにもう一度薬を垂らしてから、イリーナの腕に薬を塗っていき、それが終われば同じように足にも薬を塗っていった。
「イリーナ、終わったぞ!」
俺は出来るだけ心を無にして薬を塗り終わったことをイリーナに告げるが、彼女は容赦なく否定してきた。
「……クロードさま、まだ塗られていない場所がありますが……」
そう言って彼女は、自身のお尻に視線を向けていた。
「か、勘弁してくれ! これでも頑張った方なんだ……」
俺の情けない言葉に、イリーナは少し不満そうだったが、何かを思いついたみたいで、ゆっくりと起き上がった。
「わかりました! それでは、お願いがあるのですが、こちらのシーツで周りからわたくしが見えないようにしてもらえますか?」
「あ、ああ、わかった! こうでいいか?」
言われた通り小瓶とシーツを持ち替えると、俺は腕を広げた状態でシーツを被った。
そして自分の体と腕で屋根を作りイリーナの上半身を囲むカーテンのようにして彼女を周りから見えなくした。
「流石に足元までは隠せないが……これでいいか?」
「はい、ありがとうございます! では、失礼いたします……」
俺の問いにイリーナがそう答えると、何故か胸元の水着を脱ぎ出した。
「な! 何してるんだ、イリーナ!?」
「何って、水着を着たままだと上手く塗れないので脱いでいるのです!」
「そんな周りに見られた……ら……」
俺は自分でイリーナの体をシーツで隠していることを思い出して、言葉を詰まらせてしまった。
「はい、ですのでクロードさまに、隠していただいてます! 終わるまでそのままでお願いいたしますね!」
「は、図ったな……」
「さぁ、シーツの内側に来られたのは、クロードさまの意思ですよ」
そう、シーツでカーテンを作る時に、体が内側にあった方が作りやすいと思い、シーツのなかに入ったのは俺の意思だった。
そうこうしている内に、イリーナは上の水着を脱いでしまい、俺は慌てて目を閉じて、彼女が薬を塗り終わるのを、ただじっと待つしかなかった。
目を閉じたことで、他の感覚が研ぎ澄まされた。
イリーナが動くたびにふんわりと香る石鹸の香り、少し水を含んだ手で肌をなぞる音が、目の前で何をしているのかを想像させてしまう。
そしてしばらくすると、肌をなぞるような音が止み、やっと終わったと俺が安心した瞬間――
「えいっ!」
俺の体に何かが押し当てられた……
「イ、イリーナさん!? な、な、な、何をしてるのですかぁ!?」
「……すみません、ちょっとイタズラしたくなりました……」
そう言って彼女は、シーツを落とさないように手を上に上げたまま動けずにいた俺の体を、ぎゅっと抱きしめて離さなかった。
俺は目を閉じたまま、彼女が離れるのを待ったが、そのせいで敏感になった感覚は、俺の体に押し当てられた二つの柔らかなものに、完全に支配されてしまっていた。
「クロさま……今のうちに慣れてくださいね……」
「……善処します」
これに慣れる日が来るのだろうか? 俺は高鳴る心臓の音から、すでに否定されている気がしていた……
――やり直し勇者と水辺の少女たち 純白の章 完――
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