ララティア編 陛下、討たれる
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ララティア編
【陛下、討たれる】
お楽しみください。
――夕暮れ時 クロード邸 リビング――
「クロードさま! イリーナが戻りました!」
そう言ってイリーナが、リビングの扉を『バンッ!』と勢いよく開いて現れた。
「お……おかえりぃ、イリーナ……」
「クロードさま!? 一体どうなされたのですか!?」
「いや……ちょっと飲み過ぎただけだ……」
結局、魔王との飲み交わしは昼過ぎまで続いた。
「そんな……わたくしが出かけている間に酔い潰れるなんて……」
「す、すまんイリーナ……これには、深い理由が……」
「まるで、『君の金で酒を飲みたい』のようではありませんか!」
「……なんだって?」
「以前、メイドにお借りした恋愛小説です! 働かないダメ男のために、身を粉にして働く女性が主人公の物語で、たびたび男が主人公の稼いだお金を奪って酒を飲み、ときには乱暴もする……心がグッとなるお話でした!」
「だからそれ、絶対に恋愛小説じゃないよ!?」
「でも、とてもおもしろいお話でしたよ? 特にダメ男に乱暴にされているのに、それがとてつもない快感に感じてしまう主人公の心情描写はとても素晴らしくて……」
「もうわかって読んでるだろ!?」
「クロードさま! そこはもっと道具を見るような目でおっしゃってください!」
「彼女にできるかぁ!」
「かのっ!?」
不意に出てしまった俺の言葉に、イリーナは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
酔いがすっかり冷めた俺は、うつむいて固まっているイリーナの後ろにいたミリスに声をかけた。
「ミリス、結果はどうだったか教えてくれるか?」
「はい、大変驚かれていましたが、陛下から今日の夜に、お会いする約束を取り付けました」
「そうか、助かったよ!」
俺はミリスの元に行き、頭を撫でると、さらに後ろに隠れていたララティアに声をかけた。
「ララティアもありがとうな!」
「うん……ただいま……」
そう言うとララティアは、俺になにかを期待するような眼差しを向けていた。
俺は、もう片方の手でララティアの頭を撫でてみると、彼女は満足そうな笑みを浮かべた。
それから俺たちは、改めて旅の準備と、陛下との謁見のために装いを整えた。
そして、約束の時間まで後わずかとなった……
事前に伝えたとはいえ、一気に全員で移動するのは避けるべきと考えた俺は、セレーネとリアラと魔王たちに待機してもらうように伝えた。
「ララティア、疲れてはいないか?」
「ううん……大丈夫……」
「そうか、もうちょっとだけよろしくな!」
そう言ってララティアの頭を撫でると、彼女は照れくさそうに笑って応えた。
「よし、じゃあ行こうか!」
「「「「はい!!!!」」」」
俺の言葉を合図に、クレス、イリーナ、ルーシェ、ミリスの4人が応え、頭を撫でられて油断していたララティアがビクッとすると、慌てて空間に穴を開いた。
俺たちは、ゆっくりとその穴へと足を踏み入れた……
【スキルの使用を確認しました。指定のチェックポイントへ移動します。】
――セレンディア城――
それは一瞬だった。
暗闇のなかに踏み入れたはずの足は、先ほどまでいた部屋とは別の部屋の床を踏みしめていた。
そして俺は、この部屋がどこだか知っていた。
「ここは……王族専用の談話室か?」
忘れられるはずがない、この部屋はヒロインたちとの見合いの場として使われた、あの部屋のなかだった。
「おお! クロードよ! よく来てくれたな!」
その声に反応した俺は、声のした方に振り向くと、そこには安堵の表情を浮かべた陛下が立っていた。
そして、陛下の後ろには数人の騎士がいたが、そのなかに懐かしい顔があった。
「陛下! ……それにアルバイン侯爵!? どうしてここに?」
「どうしてってそりゃあ、旧敵の親玉が来るってのに、陛下1人で会わせる訳にゃいかんだろ!」
「た、確かに……」
よく考えれば、アルバイン侯爵の言っていることはもっともだった。
どうやら、昨日今日と魔王を見てきた俺は、完全に警戒を解いてしまっていたらしい。
そう思っていると、アルバイン侯爵が俺のことをジロジロと見ていることに気付いた。
「ア、アルバイン侯爵……なんでしょうか?」
「いやぁー、あのちっこかった男が、随分とたくましくなったと驚いてたら、まさか5人も美人を引き連れてくるとは……陛下から聞いていたから知ってはいたがなぁ……死ぬなよ」
「怖いこと言わないで!」
「はははっ! すまんすまん! いやしかし、イリーナさまは、なんとなく予想してたが、他に4人もいて本当にビックリだよ!」
「まぁ、アルバインさまったら、クロードさまを見て羨ましがっていたと、奥さまに言い付けますよ?」
「いやー、イリーナさまには敵いませんなー!」
俺はアルバイン侯爵に振り回されたように感じだが、そのおかげで、場の緊張感が和やかなものになっていた。
そう思って俺は、改めて陛下に視線を移して、話を進めた。
「陛下、多忙にも関わらずお時間を作っていただき、ありがとうございます」
「よい、他でもない貴公とイリーナの頼みだ……して、客人の姿が見えぬようだが?」
「はい、陛下たちの様子をうかがってからの方がいいだろうと思い、待たせております……それと、本題に入る前に済ませておきたいこともあったので……」
「済ませておきたいこと? なんだ? 申してみよ!」
俺の言葉に陛下が訝しんだ反応を見せたが、俺は気にせず後ろにいたララティアを陛下の前に連れて行った。
陛下はララティアを見ると、見覚えがあるその姿に、どこで見かけたのか思い出すように、口にしていた。
「お主は、どこかで……」
「あ……あの……えっと……」
俺は、緊張して上手く喋れないララティアに、優しく微笑みながら頭を軽く撫でた。
すると、ララティアは意を決したみたいで、陛下に一生懸命話し出した。
「あの! この前は……お部屋、壊して……ごめんなさい……」
ララティアは、深く頭を下げて謝った。
すると陛下は、口をパクパクさせながら俺に話しかけてきた。
「ク、クロードよ! この小さい子はもしや?」
「はい……昨日この部屋を襲撃した、魔王姫ララティアにございます」
「誠か!? しかし、あの時とは随分と……その……性格が違うようだが?」
「これが本来のララティアです、陛下……」
「なんと……!」
陛下が驚くのも無理はない。
あの高笑いをしながら現れた人物が、目の前のオドオドしながら謝る人物と同一人物なんて、普通に考えたら信じられないだろう。
だがララティアは、親以外の強者に出会うことなく、ここに現れ、そして返り討ちにあった。
そして、ヒロインたちへの恐怖のあまり、精神が幼児退行してしまったのが、今のララティアだった。
陛下は、頭を下げたままのララティアを見つめ、少し考えた後、その口を開いた。
「娘よ、顔を上げなさい……余はもう気にしてはおらぬ、だからそのような顔をするでない」
「えっ? 許して……くれるの?」
「許すもなにも、余は怪我もしておらぬし、部屋もこの通り、元に戻っておる……だから気にすることはない!」
俺は、陛下の言葉を聞き安堵すると、ララティアと目線が合うようにしゃがむと、彼女に声をかけた。
「よかったな、ララティア!」
「……うん!」
ララティアが満面の笑みで、俺の言葉に応えると、陛下に視線を移して話し出した。
「ありがとう……えと、おじいちゃん?」
「おじ……!?」
その瞬間――陛下に電撃が走った!
「へ、陛下!? 申し訳ありません! ララティアも早く謝って!」
「えっ? でも……」
「いいから!」
すると陛下が口を開いた。
「よいのだ、クロードよ……ララティアと申したな……もう一度、余を呼んでくれまいか?」
「え? んと……おじい……ちゃん」
「はうっ!!」
その瞬間――陛下に雷が落ちた!
「おじいちゃん……ええのぉ……まことに、甘美なひびきじゃぁ……まさか、余に孫ができるとはぁ……」
陛下の変わり果てた姿を見て、俺たちは悟った。
(((((あっ、この人落ちたわ)))))
ただ1人、なにが起きたのか理解していないララティアが、俺たちを見回した後、首をかしげて不思議がっていた……
――ララティア編 陛下、討たれる 完――
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