ララティア編 母が視た未来
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ララティア編
【母が見た未来】
お楽しみください。
――クロード邸 リビング――
『冥界』――それは、死後の世界として神話や逸話にたびたび登場する世界のことだ。
そして、俺たちが会わなければならない存在、『輪廻の女神エイル』のいる場所だと、魔王妃ルクレツィアは……
「ルクレツィアで結構ですよ、クロードさま」
……ルクレツィアは話した。
その後俺たちは、せっかくの親子の再会に水を差さないように、来客用の寝室を用意(ルーシェが改装)して、泊まってもらうことにした。
そして、問題のセレーネだが……
「セレーネさま! 次の珍味は、マダラグンジョウガエルの姿焼きです! 私も食べたときは、痙攣がなかなか止まりませんでした!」
「も……もぅ、許じでぇ……ウッぷ!」
クレスの世界(猛毒)珍味フルコースを味わっていただいた。
「メインディッシュは、パンデミックボアのステーキですよ! 一口でも食べた瞬間に毒が回って死んじゃうけど、天にも昇る美味しさのお肉ですよ!」
「グレズざん、ぞれっで、ボンドに美味じがっだのが、わがらなぐないでずが!?」
「大丈夫です! お肉は美味しかったし、おばあちゃんに会えた気がするけど、私ちゃんと生きてますから!」
まったく説得力のない、『大丈夫』だった……
だが、リアラいわく、『女神に毒なんて効くわけないじゃん!』ってことで、ゲテモノ料理を食べさせられる程度の仕置きで済んでいるだろう……
「が、がらだが……じびれで……いぎが……でぎな……い……」
……本当に効かないんだよな?
ちょっと、心配になってしまった……
だが、今後の方針が決まったのは、進展があったと言っていい。
女神エイルに会うために冥界に行く。
ただ問題は、どうやって行くのか? だった。
「まぁそこは明日、ルクレツィアに聞けばいいか……」
「あら? 明日でよろしいのですか?」
その声に俺はとっさに振り向くと、そこにはルクレツィアがいた。
「ルクレツィア!? どうしてここに? ララティアと過ごさなくていいのか?」
「お心遣いありがとうございます、ですがララティアなら、主人と一緒に眠っていますので問題ありません……それよりもクロードさま、先ほどの話の続きをいたしましょう」
そう言ってルクレツィアは、苦しむセレーネの近くのソファまで移動して俺に会話を促してきた。
「……ミリス、紅茶を入れてくれ……目が冴えるように、濃いめのやつを」
「……お兄ちゃん、それならミルクで作るね……その方が、夜中のお腹にも優しい……」
「……そうだな」
俺はミリスの頭に手を置いて撫でると、ルクレツィアの向かいのソファに腰掛けた。
そしてルクレツィアにも着席を促すと、彼女は軽く一礼してからソファに腰掛けて語り始めた。
「まずは謝罪をしなければなりません……エイルさまが冥界にいることは、セレーネさまも周知の事実でした」
「うん? そうなのか?」
「はい、四女神たちは元々、天界・人界・魔界・冥界の4つの世界の管理をしています……ですので、エイルさまが管理している冥界にいらっしゃるのは、至極当然のことなのです」
「……そういえば、前にセレーネが言ってた『人間界に自分と同等の神はいない』ってのは……」
「ばいぃ〜、ぞういうごどでずぅ〜」
俺の問いに、セレーネが汚い声で答えると、ルクレツィアは説明を続けた。
「なので、『エイルさまがどの世界にいるのか?』なら、セレーネさまでも、リアラさまでも答えられたのです」
「ということは、本題はここからか?」
「はい、まずは冥界について説明する前に、世界全体について説明いたしましょう」
「世界全体に……ついて?」
死後の世界ってだけでも、規模の大きい話だと思っていたが、どうやらもっと大きい話になるらしい。
「いま私たちがいるここは『人界』もしくは『人間界』とも言いますが、特に人と言われる種族が多くを占めており、エルフやドワーフ、獣人や翼人といった亜人種も少なからず存在する世界です」
「亜人種って、本当に存在するのか!?」
エルフやドワーフは、俺たち人間からしてみると、絵本や物語に出てくる存在という認識だった。
旅の途中でも、エルフやドワーフどころか、獣人や翼人なども見たことがなかった。
「ええ、個体数が少なく、生活圏も人とはだいぶ異なる種族なので、知らないのも無理はありません……おそらく人族が、彼らの存在を認知するころには、よくて希少種になっているか、絶滅した後のことでしょう」
「そうか……それは、残念だ……」
「あら? 意外と冷静なのですね? てっきり『どうにもできないのか!?』と問い詰められるものだと思ってました」
「……思わなかったと言えば嘘になるが、それは当事者たちの問題だ……助けを求められれば力を貸すが、求められてもいないのに助けようなんて、ただ自己満足だ!」
「……いいでしょう、話を戻します……次に主人が統べる世界、『魔界』です……魔力を有する者『魔族』が存在する世界です。」
「ウチが管理してる世界だよ〜」
魔界の話になって、リアラが割って入ってくるが、それを無視して俺はルクレツィアの説明が気になって質問をした。
「魔力を有するって、俺たちとどう違うんだ?」
「端的に言えば、『体質』か『体構造』かの違いです……みなさまは、女神や精霊からの恩恵を受けやすい体質、私たちは恩恵を受けられない代わりに、魔力を生み出す『核』がある体構造なのです」
人と魔族の違いの説明をルクレツィアに聞いていると、ミリスに頼んでいた紅茶が運ばれてきた。
ルクレツィアの話を聞いていると、まるで世界について授業を受けているようだと思っていた俺には、ありがたい差し入れになった。
「ふふっ、問題ありません……クロードさまがわからなくても、理解される方がいれば、それでいいのです」
「うん? それはどういう……」
「話を戻しましょう……次に天界ですが、神のみが住まう世界です」
「神のみって、確か神は全部で5人だけだよな?」
「はい、なので天界は極小の世界に、神とその世話をする、『天使』と呼ばれる自動人形が存在するだけの世界です……そうですね、神々からしてみれば、天界という家のなかで、下界という名の箱庭を眺めているようなものです」
「家、ですか……」
意外だった……
神が住まう世界なら、国や組織のような、もっと厳格なものだと思っていたが、どうやら違ったらしい。
なんなら召使を雇えるような、ちょっと贅沢できる家程度の認識になった。
そしてルクレツィアは話を続けた。
「今回の話に、天界はほとんど関係ないので、最後の話をしましょう……そう、『冥界』についてです」
俺はその言葉に緊張が走り、無意味に背筋を伸ばして傾聴の姿勢になっていた。
「冥界、それは死した魂が新たな生を受けるまでの間、身を清め住まう死者の世界です」
「死者の世界……その人たちを生き返らせるのが……」
「いいえ、それは不可能です」
「……えっ?」
そう言ってルクレツィアは、俺たちが抱いていた希望を、あっさりと否定した。
「死してすぐの者であれば、蘇生も可能でしょうが、もう時間が経ち過ぎています」
「そんな!? じゃあ何のために!? 冥界の女神に会いに行かなきゃいけないんだ!」
「世界の融和のためです!」
今まで穏やかな表情で淡々と説明していたルクレツィアが、鋭い目つきと芯を射抜くような冷たい声で俺に言い放った。
「先の大戦は多くの死者を出し、人と魔族に深い溝ができてしまいました……だから、死者を蘇らせることは叶いませんが、そのために『我々魔族が人間に助力した』という事実がほしいのです!」
「どうして、そこまで……?」
正直、魔族が武勇を重んじる種族なら、今回の冥界への遠征に、ルクレツィアが躍起になっている理由が俺にはまったく理解できていなかった。
すると、俺の質問に対してルクレツィアは、もう一度穏やかな口調で、だが重苦しい雰囲気を漂わせながら語り出した。
「……クロードさま、人間からすれば魔族は、『悪魔』の類と同列に見られています……人を、魂を喰らう異形の化け物、そして先の大戦での犠牲者の家族からは、憎悪と怨嗟を向けられるでしょう……では、それは誰に? 魔族全体に? それとも『魔王ベルガドーラ』に? それとも……」
そこでルクレツィアが一瞬言葉を詰まらせると、深く息を吐き出して、先ほどと同じ淡々とした口調で語り出した。
「我が娘、『魔王姫ララティア』にでしょうか?」
その言葉に、みんなの動きが止まったような気がした……
――ララティア編 母が視た未来 完――
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