ララティア編 勘違いは加速する
いつも読みに来てくれてありがとうございます。
ララティア編
【勘違いは加速する】
お楽しみください。
――セレンディア領 道中――
どうしてこうなってしまったのだろう……
当初の目的だった、見合いを先送りにする作戦は、見事達成された。
はずなのだが……行きは1人だったはずの馬車の中は、なぜか6人になっていた。
「さすが、クロードさまです! まさか、見合い相手全員を連れて帰られるとは! 『英雄色を好む』とは、本当なのですね!」
そう言って、御者のハンスが大きな声で俺に語りかけるが、俺は返事をする気力もなかった。
(ハンス、すまない……今は否定する元気もないんだ……数少ない出番なのに、本当にすまない……)
俺が心のなかで、ハンスに謝罪していると、向かいの席にいたクレスが、話しかけてきた。
「そういえば、クロード! 女神さまたちは、どこ行っちゃったのかな?」
「あ、ああ、リアラの力で、先に屋敷に帰ってセバスに帰還の知らせを伝えに行ってもらったよ」
「そっかぁ! クロードのお屋敷、楽しみだなー!」
そう言ってクレスは、満面の笑みで、俺の屋敷までの道を楽しんでいた。
そんなクレスを見ていると、記憶のなかで見た、空腹を満たすために悪食を繰り返していた頃のことを思い出してしまう。
(帰ったら、セバスの料理を腹いっぱい食べさせてやろう……)
俺は勝手に、クレスにご馳走を食べさせる計画を立てていた。
すると、俺の隣に座って服の袖を掴んでいたララティアが、俺に向かってつぶやいた。
「クロードさま……お腹空いた……」
この子は本当に、あの魔王の娘なのだろうか?
城で大泣きしてから、ララティアは幼い見た目通りの精神年齢になってしまっていた。
「あー、後1時間くらいで着くから、それまで我慢しような!」
「ミリス、確かおやつに焼菓子を持っていましたよね? みんなで食べましょう」
「かしこまりました……」
会話を聞いていたイリーナが、ミリスに言ってバスケットの中に入っていた焼菓子を、みんなに配ってくれた。
俺は1つを手に取ると、ララティアの目の前に差し出した。
「ほら、城の菓子だから絶対に美味いぞ!」
俺の言葉を聞いたララティアが、恐る恐る焼菓子を手に取ると、小さな声でつぶやいた。
「……い、いただきます……」
「あら? 意外と礼儀正しいのね!」
いただきますの言葉に、ルーシェが驚いたように反応すると、焼菓子を食べようとしていたララティアが、怯えたような声で話した。
「マ、ママが……いただきますって言わないと、怒るから……」
「……ごめんなさい、誰って言ったのかしら? もう一度いいかしら?」
ルーシェがなにかを思ったのか、ララティアにお願いをすると、ララティアは恐る恐る、もう一度つぶやいた。
「マ……ママ……?」
「……ありがとう……もう大丈夫よ……よく噛んで、食べるのよ……」
そう言うとルーシェは、窓の向こうを眺め出した……
それからしばらくして、見慣れた風景が馬車の窓から見えるようになり、俺は自分の領地に帰って来たことで、少なからず気持ちが軽くなった。
すると、町の入り口の方から、ざわざわと騒ぎ声が聞こえてきた。
なにかトラブルでも起きたのかと、俺は緊張した面持ちで、町の方に視線を向けると、領民の何人かがコチラに手を振っているのが見えた。
「領主さまー! お帰りなさいませー!」
「待ってましたよ! 領主さまー!」
「みんなー! 勇者さまが帰って来たぞー!」
おそらく、セバスが領民たちに言って回ったのだろう。
しかし、俺のなかでは数ヶ月に感じる遠出だったが、実際には数日のことだ。
なのに領民たちから、こんなに帰りを喜ばれるなんて、俺って慕われてたんだなぁ、と嬉しくなって窓から身を乗り出して手を振ることにした。
だが、領民たちのあいだを抜けて行く途中から、不穏な言葉が聞こえ出してきた。
「領主さまー!」「結婚式はいつやられますかー!」「俺たち、盛大にお祝いしますよー!」
(…………うん!? 今なんて!?)
「見ろ! 奥さまたちも一緒だぞー!」「さすが領主さまだ! 手が早いなー!」「こりゃ、ご子息の顔を見るのもすぐだな!」「領主さまー! 私もどうですかー!?」
俺は気付くべきだった……あの駄目女神と適当女神に伝言を頼んで、正確に話が伝わるはずがないということに……
「クロードさま! 私も早馬で、奥さま方と帰られることを伝えていましたが、ここまでの歓迎ぶり、まさに上に立つ者としての度量が見て取れて感服です!」
(ハンス、お前もか!?)
どうやら俺は、城の見合いで気に入った女性を、全員連れて帰って来たことになっているらしい。
そしてそのことを、領民たちはなぜか受け入れて祝福さえしてくれている。
外堀を埋められたどころか、外壁を建てられて逃げられない雰囲気になってしまっていた。
そんな状況を目の当たりにして、俺は苦笑いしながら乗り出した体を戻して座り直すと、隣のララティアが質問してきた。
「……クロードさま、どうしたの?」
「ああ、これは、人生をどこで踏み外したかを考えてるんだよ……」
そしてハンスは、領民たちのために、馬車をわざとゆっくりと走らせて、俺の屋敷に向かっていた……
【チェックポイントの更新を確認いたしました。セーブデータを更新します。】
――ララティア編 勘違いは加速する 完――
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。
次回もよろしくお願いします。




