やり直し勇者誕生
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『やり直し勇者誕生』
どうぞ、お楽しみください。
――セレンディア城 談話室――
近衛騎士が重厚な扉を開いたその先には、戦場のなかで見慣れたはずの、でも何かが……どこかが違う『彼女たち』の姿があった……
「遅い! クロードのことみんな待ってたんだよ!」
部屋に入って早々に俺を叱責したのは軽戦士の冒険者クレスだ。
だが今日のクレスは動きやすさ重視の服と違って、明るいオレンジ色のフリルのドレスを着ていた。
そして、髪紐一本でいつも結ばれていた長い髪は、花の装飾を施された髪留めで綺麗なお団子状に整えられていた。
「クロードさま、お待ちしておりました……どうぞこちらにおかけください」
そう言って隣に俺が座れるように席を勧めたのは、神聖術師の聖女イリーナだった。
彼女は普段の聖女然とした服ではなく、純白を基調に金の装飾が控えめに施され、胸元が開いたドレスを着ていた。
いつもの流れるような金色の髪も、サイドに小さな編み込みをしてから下ろされていて、普段とは違う上品さを感じさせた。
「いつまで呆けてるのよ? そのっ……テーブルのクッキー……美味しいわよ……」
そう俺に言葉を詰まらせながら話しかけたのは、精霊術師の魔女ルーシェだ。
彼女は夜空のように深い藍色のドレスを着ていた。
体のラインがしっかりとわかり、深めのスリットが入ったドレスは、彼女の妖艶さを際立たせていた。
ブルーのロングヘアも、頭の後ろで纏められていて、背中の開いたドレスがよく見えるようになっていた。
ここにいる3人は、間違いなく俺の元パーティメンバーたちだった……
「お前ら……どうしたんだこんなところで?」
俺は状況が理解できずに、部屋の扉の前で彼女たちに問いかけていた。
するとクレスが、俺の問いに反応した。
「どうしたって……やっぱり変かな?」
「いや、変とかじゃなくてだな……」
クレスの反応に俺が困っていると、イリーナが割って入った。
「そうですよ、クレスさん。この日のためにみんなで一生懸命準備したんですから……変なんてことありませんよ!」
「だから、そうじゃなくて……」
するとルーシェもそれに賛同した。
「そうよ! 私たちがここまでしたんだから、感謝して頭を下げて喜ぶべきね!」
「なんでそうなる!?」
俺は彼女たちの勢いに押されて動揺したが、一呼吸おいて冷静に状況を考えることにした。
(今日俺は、陛下が用意した見合いのためにここへ来た。陛下の口ぶりから、おそらく見合い相手は俺の知る人物であり、彼女たちは互いによく知った仲だ。つまり!?)
「なんだ! そういうことかよ! まったくびっくりさせるなよなお前ら〜」
俺は3人がいることに合点がいったと思い、彼女たちに安堵の声を漏らした。
「えっ? クロードどういう……」
「わかってるってクレス! お前たちは俺の見合い相手の品定めに来たんだろう?」
俺は彼女たちがここに来た理由を言い当てて見せた。
……が、俺の後ろにいた陛下が大きなため息を吐いたのが聞こえ、彼女たちの反応も俺が想像してたものと違った。
「クロードさま、とてもおもしろい冗談を仰られるのですね!」
イリーナが口に手を当てながら、後ろに控えていた侍女に笑いかけた。
「アンタ……本気でわかってないの?」
その一方でルーシェは明らかに不機嫌な態度で、俺に真意を問いかけてきた。
「えっ……? 違う……のか?」
俺が情けない声で質問を返すと、俺の後ろにいた陛下が堪え切れずに口を開いた。
「くっ!……はっ! はっ! はっ! どんな反応をするのか楽しみにしていたが、全く……予想外の反応で笑いが抑えられんぞ!」
陛下は俺の反応をいたく気に入ったみたいだが、状況がいまだに理解できていない俺はますます混乱した。
「いや、すまないクロードよ、貴公に剣を持たせれば向かうところ敵なしだが、こと色恋に関してはゴブリンすら呆れる鈍さだな」
「ゴブリンって、さすがにそれは酷くありませんか?」
俺は言い返してみるものの、陛下はそれを聞き流して話を続けた。
「良いか? 勇者クロードよ……貴公の前にいる彼女たちこそが、貴公の見合い相手たちだ!」
(………………えっ?)
俺の思考が、陛下の言葉を理解するのに数秒かかった。
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
そして理解と同時に声を張り上げた。
「陛下! いったいどういうことですか!?」
「落ち着け、クロードよ! 貴公は言っておったな? 魔王ベルガドーラはまたいつか戻ってくると?」
「それは……確かに奴を倒したときに、いつか戻ってくると言い残して消えたとは申しましたが……」
「だからこそだ! 魔王がいつ戻ってくるのか? それは十年後か? それとも百年後か? そんなものは誰にもわからぬ……ならばこそ! 勇者の血を絶やしてはならないのだ!」
要するに陛下は『俺に子を作り勇者の血を存続させろ』と言っていた。
(理屈はわかる……しかし、その相手がなんで彼女たちなんだ!?)
俺が理解と混乱の交差に悩まされていると、陛下は俺の横を通り過ぎて部屋の奥に移動した。
「さぁ! 勇者クロードよ! ここに貴公をよく知り、貴公と結ばれることを望む娘たちがおるぞ! 貴公はどの娘を妻とするのだ?」
「なっ……?」
混乱する俺のことなどお構いなしに、陛下がどんどん話を進めていく。
「幼き頃からの幼馴染か!? それとも信仰深き聖女か!? それとも才溢れる魔女か!? それとも!?」
陛下が高らかに選択肢を挙げ、彼女たちが俺を見つめると同時に、陛下は満面の笑みで俺に視線を向けてきた。
「全員……と申すなら、それでも余はかまわぬぞ……」
この時俺の思考は、完全に停止していた……
(なんだこの状況は!? 選ぶ? 誰を? この3人から? 無理だ! だって彼女たちは冒険仲間で、今までそんな素振りなんて……)
俺は今までの冒険の日々を……彼女たちとの記憶を思い出していた……
朝早く起きれない俺は、いつもクレスに起こされて、そんな時彼女はいつも言っていた……
「もう、クロードは私がいないと本当にダメなんだから……」
俺の不注意で、イリーナと風呂場で鉢合わせしてしまった時も……
「ク、クロードさま!? その……お相手は、お清めのあとでもよろしいでしょうか……」
俺が体調を崩してしまって、ルーシェの作ってくれた薬で元気になったお礼をした時も……
「べ、別にアンタのためじゃないわよ! まぁ……アンタがまた倒れたら、仕方ないからまた作ってあげるわよ……」
(……あったわぁ〜、めっちゃくっちゃあったわぁ〜)
俺は今になって自身と彼女たちとの歪んだ関係性に気付いた。
(なぜ今まで気付かなかったんだ俺はっ……!? いや、そんなことよりもこの状況をどうにかしないと!)
彼女たちの熱い視線と陛下の期待の眼差しが俺に向けられ、空気が薄く感じてしまうほどの圧迫感で呼吸が上手くできない。
そんな状況で俺は考えをまとめることができず、無意識に心の中で助けを求めて叫んでいた。
(誰か助けてくれ! この状況を! どうすれば正解なのか誰か教えてくれ!!)
……そのときだった。
「やっと願いが決まりましたね! クロードさん!」
聞き慣れた声が聞こえたと思うと、俺の前髪から光が溢れ、部屋全体を包み込んだ……
俺は眩しさに閉じた目をゆっくり開くと、部屋の中にいる全員がまったく動くことなく止まっていた。
「何が起きたんだ?」
「何って、私が時を止めたんですよ!」
俺は声のする方へ振り向くと、そこには俺の屋敷で留守番をしているはずだったセレーネが、部屋のなかでふわふわと宙に浮いていた。
「なっ……!? セレーネなのか!? なんでお前がここにいるんだ!?」
「それはですねぇ〜、クロードさんの前髪にちょちょいっと細工しまして、今までの内容を全部見聞きしてたんですよぉ」
「細工……って、あのときか!?」
俺が屋敷で馬車に乗る前、彼女が俺の前髪からゴミを取ってくれたときのことを思い出す。
「はいっ! あのときです! まぁそんなことは置いといてぇ〜、クロードさんには私からプレゼントがあります!」
「プレゼントってなんだ? この状況を打開できるものなのか?」
「それはクロードさん次第です! 私はアナタの願いを叶えるためのプレゼントを贈りますが、どんなプレゼントになるかは完全に運任せなんで、あとはクロードさんが頑張って願いを叶えてください!」
「おいっ! 話が違うぞ!!」
「では、コチラをどうぞ〜」
そう言うと彼女は、光の塊のようなものを俺に向けて放ち、俺はまた眩しさに目を閉じるのだった……
【スキル:『セーブ&ロード』機能を獲得しました】
【スキル:『記憶回想』を獲得しました】
【初回特典①解放:談話室前をスロット1にセーブしました。初回特典①が消滅しました。今後のセーブは任意となります】
【初回特典②解放:スロット1をロードします】
【初回特典②が消滅しました。今後のロードは任意となります】
俺の頭のなかで、聞き慣れない声がした……
――スロット1 ロード後――
「着いたぞ! この部屋だ」
目を開けるとそこは、いかにも王族専用の部屋だと思わせる重厚な扉があり、その両横に全身を甲冑で包み、ハルバードを手にした近衛騎士が直立不動の構えで佇んでいた……
――やり直し勇者誕生 完――
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
ヒロインたちに迫られた、うらやまけしからんなクロードは、一体どんな選択をするのか?
ぜひ、お楽しみください!
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▼次回予告
『やり直し勇者は、悪手する』




