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やり直し勇者は溺愛される ~魔王を倒した勇者ですが、平和の代わりに元仲間たちとのお見合いが始まりました~  作者: 希月タカトラ
やり直し勇者と堕落した女神

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やり直し勇者は悪手をする

続きを読んでくれてありがとうございます。


『やり直し勇者は悪手をする』


どうぞ、お楽しみください。



 

  ――スロット1 ロード後 王族専用談話室前――


 

(何が起きたんだ!?)

 

 俺は今しがた自身に起きた現象が理解できずにいた……

 

 (俺は確かに、部屋のなかにいて、お見合い相手として彼女たちがいた。そして陛下は、俺に彼女たちのなかから花嫁を選べと選択を迫ってきた……)

 

「いったい……どういうことだ?」

 

 俺はつい、思っていたことを口に出していた。

 

「クロードさま? どうかなされましたでしょうか?」

 

 俺の困惑の声に、扉を開けようとしていた騎士の一人が不思議に思って声をかけてきた。

 

 俺はあわてて騎士に返事をした。

 

「あぁ……すまない……大丈夫だ!」

 

 実際のところは何も大丈夫ではなかったが、状況を整理するには時間が足りなかった。

 

 騎士は俺の言葉を聞くと向かいの騎士と顔を見合わせ、扉を同時に開いた……

 

 重厚な扉の向こうに広がっていたのは、明るい白い漆喰の壁、丁寧に磨き上げられた木目調の床。

 

 部屋の中央には、高級感を感じる灰色のカーペットが敷かれ、その上に低めの長テーブルと、それを挟むように置かれたエメラルドグリーンの長ソファが向かいあうように配置されている。

 

 さらにテーブルの奥には、陛下専用と主張するように青色の一人がけのソファが置かれていた。

 

 そして左のソファの奥には、オレンジ色のふわりとしたドレスに身を包むクレスが居心地の悪そうに座っていた。

 

 その手前には、体のラインがわかる深い藍色を基調に銀の刺繍の入ったドレスを着たルーシェが腕と脚を組み、ふんぞりかえっていた。

 

 右のソファの真ん中には、花嫁を連想させる純白と金の刺繍がされたドレスを着るイリーナが、後ろに侍女を待機させて腰掛けていた。

 

(同じだ……俺がさっき見た光景と、なに一つ違わない……ただ一つ違うのは、俺が3人を見たときの反応だけだった……)

 

「ほぅ……クロードよ、あまり驚かない……というよりは、なんとなくわかっていたという感じの反応だな」

 

「いえっ……、まぁそうですね……」

 

 陛下の鋭い感想に、俺は間の抜けた反応をしてしまったが、落ち着いて次の言葉を探した。

 

「……よく知る者たちとのことでしたので、なんとなくそうではないかと予想はできておりました……」

 

 俺はつたない言い訳をしてしまったが、今は状況の整理が必要だと思い、その場しのぎの嘘を口にしていた。

 

 しかし、その嘘が不幸を呼び込んでしまった……

 

「予想していたか……、なら話が早いではないか! さぁ、勇者クロードよ! 貴公は誰を妻に娶るのだ?」

 

「いやっ! ちょっ! 陛下!?」

 

「どうした? クロードよ!? わかっていたのだろう? その聡明さなら、すでに花嫁を誰にするのか決めているのではないのか?」

 

(やばい! 選択を間違えた! どうすれば?)

 

「勇者クロードよ! 魔王がいつ戻ってくるのか? それは十年後か? それとも百年後か? そんなものは誰にもわからぬ……ならばこそ! 勇者の血を絶やしてはならないのだ!」

 

(この流れはやばい! さっきと同じだ!)

 

 俺が理解と混乱の交差に悩まされていると、陛下は俺の横を通り過ぎて部屋の奥に移動した。

 

「さぁ! 勇者クロードよ! ここに貴公を知り、貴公と結ばれることを望む娘たちがいるぞ! 貴公はどの娘を妻とするのだ?」

 

(待ってくれ! まだなにも考えがまとまっていないんだ!)

 

 俺は心のなかで事態の停止を求めたが、すでに手遅れであった……

 

 始まった流れは、激流のように押し寄せ、俺の願いを無惨にも飲み込んでいく。

 

「いやっ、そのっ……」

 

 俺は言葉につまるが、陛下はそんなことなどお構いなしに、どんどん話を進めていく。

 

「幼き頃からの幼馴染か!? それとも信仰深き聖女か!? それとも才溢れる魔女か!? それとも!?」

 

 陛下は高らかに選択肢を挙げ、彼女たちが俺を見つめると同時に、陛下が満面の笑みで俺に目線を向けた。

 

「全員……と申すなら、それでも余はかまわぬぞ……」

 

 (やばい! さっきと何も変わらないじゃないか! それともさっきの光景は予知夢かなにかだったのか? いや! そんなことはどうでもいい! ここは戦略的撤退をしよう! そうだ! こんな急に話を持ってきてすぐに決められるわけないじゃないか!)

 

 俺は今の状況とさっきまでの記憶との混濁で、余計に考えがまとまらなくなり、つい言葉が先走ってしまった。

 

「とっ……とりあえず、保留で……?」

 

 その瞬間——周囲の空気が重く冷たくなったのを俺は感じた……

 

(なんだ? 何が起きたんだ? 敵の攻撃か!?)

 

 俺は敵襲の可能性を感じ、敵の姿を目で探すと、俺の後ろから気配を感じたと同時に声が聞こえた……

 

「うわぁ……引くわぁ……」

 

(えっ……?)

 

 俺は声がした方へ視線を向けると、セレーネが宙に浮いて俺を見ていた。

 

「セレーネ! やっぱりいたんだな! これはどういうことだ!?」

 

 俺はセレーネに事の詳細を問いただそうとするが……

 

「いやぁ〜、そんなことよりクロードさん……今の発言マジっすか? マジなら女神もドン引きっすわぁ〜」


「今の発言……って俺、今なんて言ってたっけ……?」

 

 セレーネに言われて俺は、とっさに口にした内容を思い出すために記憶を巡らせようとしたその時……

 

「クロードよ……貴公、今なんと言ったのだ……」

 

 背を向けていた陛下から、静かな……しかし、強い怒気がこもった声がした。

 

「今……娘たちへの気持ちに応えるでも、断るでもなく……保留にすると申したのか……? それどころか貴公……明後日の方を向いて、なにをふざけておるのだ?」

 

「なに……って、陛下ここに女神……」

 

 俺がセレーネの存在を陛下に伝えようとしたその瞬間、俺の声に被せるようにセレーネが話し出した。

 

「クロードさん! 私のことはアナタにしか見えてませんよ!」

 

「えっ……?」

 

 彼女の説明に俺が間抜けな声を漏らすと、セレーネは俺にさらなる追撃を行った。

 

「それよりクロードさん! アナタ本当にヤベェこと言っちゃってましたよ! だからご愁傷様ですぅ〜」

 

「……なん……だと!?」

 

 セレーネの話に、俺はなにを言ってしまったのか、もう一度思い出そうとしたが……背筋が凍るような怖気を感じてゆっくりと部屋のなかへ視線を戻すと、静かになった部屋でクレスが口を開いた……

 

「……だよね」

 

 クレスのかすれた声が、部屋のなかにこだました。

 

「幼馴染だって言っても、クロードが王都に行っちゃってからは一度も会えなかったし、グスッ……だからクロードと一緒に旅ができるように頑張って冒険者になって、やっと会えて……平和になったらまた一緒に故郷の村で暮らせると思ってたら……大っきなお屋敷をもらって帰って来なくて……ちゃんとご飯食べてるのか心配だったし、グスッ……」

 

 クレスが今までの俺への思いを語り出すと、彼女が鼻をすする音が聞こえてきた……

 

「でも王さまが機会を作ってくれて……今度こそクロードに『女の子』として見てもらうんだ! ……ってイリーナとルーシェに色々教えてもらって、頑張っておめかしして……もしかしたらクロードが私を選んでくれるかも? ……って一人で舞い上がって期待して……グスッ、ヒック……ごめんね二人とも……本当に……ごめんなさい、クロード……」

 

 そう言うとクレスの瞳から大粒の涙がぽろぽろと流れ落ちて、クレスは自身の顔を両手で押さえてしまった……


 すると、泣き出すクレスを慰めるように、向かいに座るイリーナが喋り出した。

 

「いいえクレスさん……クレスさんは何も悪くありません……悪いのはわたくしの方です……クロードさまのわたくしたちへの態度も、魔王との戦いのさなかだから仕方ないと勘違いしてしまって……でも今なら、わたくしたちのことを真剣に考えてくださると思って二人をお呼びしたのに……」

 

 そして、イリーナが俺の方へ顔を向けると、視線が合ったはずの彼女の目からは光が消え、俺は悪寒に息を呑んだ……

 

「わたくしは、クロードさまのお役に立てればと……決して選ばれなくても2人が選ばれるならと思い、手を打ってきましたが……まさかどなたも選んでいただけないなんて……」

 

 イリーナは淡々とお見合いに対する心情を語っていたが、その表情は感情を失い、まるで生気を感じなかった……

 

「クレスさん、ルーシェさん、お2人を巻き込んでしまい大変申し訳ありません。……わたくしも選んでもらえたらと……せめて慰みものになっても構わないから側に置いていただければと思っていましたが……それも無理なようです……」


 今とんでもないことを口にしていたようにも感じるが、イリーナは気にする様子もなく、さらに懺悔のような喋り方を続けた……

 

「……あぁ、わたくしのような、なんの役にも立たない汚れた聖女など、神のいる世界で息をすることさえ許されません……」

 

 そしてイリーナはゆらりと振り返り、後ろで控えていた侍女に沈んだ声で命令した。

 

「ミリス……わたくしの『神罰』の準備をお願いします……神の慈悲を無駄にした大罪人のわたくしには、穏やかな時を過ごす権利などありません……日の光も届かない牢のなかで、埃と雨水で飢えを凌ぎゆっくりと朽ちていく、そんな罰をお願いします……」


 イリーナが侍女に物騒な命令をしていると、ルーシェが目の前のテーブルを両手で思いっきり叩きながら体を起こして、俺を睨みつけてきた。

 

「ちょっとアンタねぇ!! 私たちがどんな気持ちで今日のために色々と準備してきたと思ってんのよ!?」

 

 いつも感情論よりも理屈を大事にする彼女が、まるで2人の代弁者のように感情的に捲し立ててきた。

 

「クレスはわかんないことばかりだから、不安を抑えながら申し訳なさそうにイリーナと私に聞いてきて! イリーナなんて自分のことのようにクレスと私のドレスとか髪飾りとか選んでくれて! 私だってアンタが喜ぶと思って化粧とか香水とか調べて……もし選ばれても選ばれなくても、ちゃんとアンタと花嫁が幸せになれるように! 『幸福な家族』になるための人生設計とか! 契約書とか! いっぱい用意したのに! ……なのにっ! あぁもうっ最悪っ!!」

 

 彼女は3人のなかで一番歳上だからか、2人の頑張りを無駄にしてしまった俺の発言を許すことが出来ずに激怒し、そして座り込んで頭を抱えてしまった……

 

 さらにそこへ、陛下が詫びるように重い口で語り出した。

 

「みな、すまなかった……色恋に疎くても不義理を働くような男ではないと……余は、この男の器を見誤っていたようだ」

 

 そして陛下が席を立つと、俺の近くまで移動して深々と彼女たちに頭を下げた……

 

「この不義理者に代わって、余が謝罪する! 本当に……すまなかった……」

 

(終わった……)

 

 彼女たちの反感を買ってしまうどころか、セレンディアの国王に頭を下げさせるなんて、俺は……

 

「おぉ〜い! クロードさぁ〜ん! 聞こえてますかぁ〜?」

 

 俺は取り返しのつかない過ちを犯してしまった事実が受け入れられず、隣で俺に声をかけるセレーネの声がまったく耳に入ってこなかった……

 

 そして俺がきょろきょろと視線を泳がせていると、イリーナの侍女と目が合った……

 

 その侍女はイリーナの方へ体を向けたまま、目線だけ俺に向けていた。

 

 そして、俺と目が合ったことに彼女が気付くと一言……

 

「……最低」

 

 誰も気づかないほどの小さな声で――しかし、なぜか俺の耳にはハッキリと届く呪詛のような響きで、彼女は短く鋭く、俺の罪を罰していた。

 

 俺は膝から崩れ落ち、声にならない声を漏らした……

 

「すまない……本当にすまない……だからどうかもう一度、さっきのところまで戻してくれぇぇぇ……」

 

 みんなの見ている前で、俺が叫びを上げたその瞬間——また目の前の光景が停止した……



 

 ――やり直し勇者は悪手する 完――


 


最後までお読みいただきありがとうございます。


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▼次回予告

『スキル説明』

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