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やり直し勇者は溺愛される ~魔王を倒した勇者ですが、平和の代わりに元仲間たちとのお見合いが始まりました~  作者: 希月タカトラ
やり直し勇者と堕落した女神

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そして、地獄の門は開かれた

引き続きお読みいただき、ありがとうございます。


『そして、地獄の門は開かれた』


どうぞ、お楽しみください。




  ――王都セレンディア――

 

 

 道中、特に問題もなく馬車は王都セレンディアに着いた。

 

 俺の領地から馬車で3〜4時間の距離にある、王都セレンディア。

 

 はるか昔からあるこの国は、魔物や周辺諸国との争いが絶えない過酷な土地だった。

 

 しかし、何代目かの国王が鬼神の如き強さで、周辺諸国を打ち倒し、領地を大幅に拡大した過去を持つ。

 

 そして、まだ幼かった俺が勇者として見いだされ、訓練に明け暮れた場所でもあった。

 

 馬車は、検問所の前にできた列の横を素通りした。

 

 衛兵は馬車に装飾された王家の紋章に気付いたのか、馬車を改めることなく、敬礼しながら俺たちを見送った。

 

「……さすがは王家の馬車だな」

 

 俺は自分の受けた待遇に、落ち着かない感覚を覚えながら、窓の外の城下町に目を向けた。

 

 昼前の城下町には、すでに果物や串焼きを売る屋台がひしめき合い活気に満ちていた。

 

 俺はふと見えた串焼き屋を眺めながら、冒険での出来事を思い出していた。

 

(なつかしいな、屋台で肉を買ったらクレスに『無駄遣い』だと叱られたな)

 

 そう思い出にふけっていると、街並みは徐々に静けさを見せ、建物もしっかりした造りの物が増えてきた。

 

 貴族街への通りに差し掛かったのだろう、そのときハンスが俺に声をかけてきた。

 

「勇者クロードさま! もう少しで城に着きますが、どこか寄り道したいところはありますでしょうか?」

 

 馬車のなかで退屈していた俺を気遣ったのか、ハンスは寄り道の提案を投げかけた。

 

「ありがとう……だが大丈夫だ、そのまま進んでくれ」

 

(寄り道してるとルーシェが機嫌悪くするからなぁ)

 

 俺は気にしなくてもいいことを、なぜか自然と考えてしまい、ハンスの提案を断った。

 

 そこでふと、会話が途切れたのをいい機会だと思い、ずっと気になっていたことを伝えることにした。

 

「それとハンス……その『勇者』と呼ぶのはよしてくれないか?」

 

「しかし! 貴方さまは平和をもたらしてくれた英雄で……」

 

「頼むよ……その呼ばれ方はあまり好きじゃないんだ……」

 

 俺はハンスの言葉をさえぎるように本心を伝え、重ねて願いを伝えた。

 

「……わかりました、クロードさま」

 

「ありがとう……」

 

『勇者クロード』――最初は陛下からいただいた、名誉ある称号だと思っていたが、魔王を倒した今では、何を企んでいるかわからない貴族たちからの『蔑称』に感じていた。

 

(彼とは、長い付き合いになりそうだからな……機会があってよかった……)

 

 そう安堵していると、いつの間にか貴族街も通り過ぎ、整った並木道を馬車は進んでいた。

 

 これを過ぎればセレンディア城に着くと思うと、心なしか口のなかが渇くのを感じ、俺は今頃になって緊張していることに気が付いた。

 

(飲み物くらい、買いに寄らせてもらえばよかったな……)

 

 おそらく城からは、こちらの様子は見えているのだろう……

 

 引き返せなくなった後悔と共に、俺はゴクリと喉を鳴らしていた……



 

 ――王都セレンディア 城門前――


 

 長い並木道を通り過ぎて城門に到着すると、馬車が停まりハンスが御者台から降りる音が聞こえた。

 

 そして彼が馬車の扉を開け、俺に声をかけてきた。

 

「クロードさま! 長旅お疲れさまでした! どうぞお降りください」

 

「あぁ……ハンスもご苦労だったな」

 

 俺はハンスに返事と労いの言葉をかけて、馬車から降りた。

 

『セレンディア城』……初めて見たときはまだ幼く、その大きさに感嘆の声を出して興奮した。

 

 そして凱旋のときは、やっと帰って来たと喜びの声が上がった場所……

 

 だが今は魔王城の前に立ったときと同じ、緊張と恐怖に襲われる気分だった……

 

「クロードさま、行きましょう!」

 

 ハンスは馬車を馬丁に預けると、俺をそのまま案内するために歩き出した。

 

(ハンスよ……君は真面目で、段取りよく動いて、とても優秀なのだろう……だが今は覚悟を決める時間を作ってほしかったよ……)

 

 俺は彼の人柄を褒めながらも、それゆえに起きた不満を心の中でつぶやくのだった……

 

 ハンスに案内される道中、巡回中の兵士や掃除中のメイドとすれ違うたびに、壁際に寄って敬礼したり、頭を下げたりして俺たちが通り過ぎるのを待っていた。

 

 なかには幼い頃世話になったり、対等に話していた者もいたが、今では雲の上の人扱いだ。

 

 仕方ないとは言え、少しさみしい気持ちを俺は覚えた……

 

 そしてハンスについて行く途中、見知らぬところを歩いていると思った俺はハンスに問いかけた。

 

「ハンス……俺は今どこに向かっているんだ?」

 

「はっ! 王専用の談話室に向かっております!」

 

「なっ……!?」

 

(どういうことだ? 貴賓室ならまだしも談話室だと? それほど政治的にやばい見合い相手なのか!? 俺はいったい誰と見合いをさせられるんだ?)

 

 俺が色々と思いを巡らせていると、通路の先から予想外の人物が現れた。


 いち早くそれに気付いたハンスは、いつの間にか壁際に移動して敬礼していた。


 そして俺も目の前から歩いてくる人物に気がついて『あっ』と驚きの声を上げた。

 

「待っていたぞクロード! ここまでの道のりご苦労であったな!」

 

「陛下……!? 護衛も連れずになぜこのようなところにいらっしゃるのですか!?」

 

 そう——この城の主にして、セレンディア国領を統べる国王、『マグナス・セレンディア』その人であった。

 

 後ろに流すように整えた短い白髪と短くそろえた白髭、豪華だが動きやすさを重視した服装、服の上からでもわかる体つきの良さと、身にまとう雰囲気が王たる風格を放っていた。

 

「いやなに……貴公が来るのが楽しみで執務が手につかなくてな……さぁここからは私が案内しよう! ハンス・ポーターよ、ここまでの案内ご苦労であったな!」

 

「は、はは、はいっ! とんでもございません! 失礼いたします!」

 

 そう言ってハンスは強張った表情をしたまま、カクカクとぎこちない歩き方をしながらその場を立ち去った。

 

「はっはっはっ! どうだクロードよ? おもしろい奴だろう?」

 

「えぇ、あがり症なのが気になりますが、とても真面目で優秀な男だと思います」

 

「ふむ、ならまた貴公の案件ができたときは、あの者に頼むとしよう」

 

(すまん、ハンス! 心労で倒れてくれるなよ!)

 

 陛下との短い談笑を終え、心の中でハンスに詫びると、陛下に案内されながら見合いのことを聞くことにした。

 

「ところで陛下、今日のその……見合いの件ですが……」

 

「おぉ! 気になっているようだな? 安心しろ! 手紙にも書いたように貴公がよく知った相手だ! 悪いようにはせんぞ!」

 

「はぁ……」

 

 陛下には申し訳ないが、俺はまったく安心できない心境だった。

 

 しかし、これ以上の質問は不敬だと思いあきらめて陛下の後をついて行くことにした……



 

 ――セレンディア城 談話室前――

 

 

「着いたぞ! この部屋だ」

 

 そこはいかにも王族専用の部屋だと思わせる重厚な扉があり、その両横には全身を甲冑で包み、ハルバードを手にした近衛騎士が直立不動の構えで佇んでいた。

 

「さぁクロードよ……入ろうか」

 

 そう言うと陛下は俺を談話室の扉の前に立たせた。

 

 近衛騎士が俺に向かって一礼し、扉の引き手に手をかけると重厚な扉がゆっくりと開いた……


 この先にいったいどんな相手が待ち受けているのか、あまりの緊張に俺の心臓は早鐘のように鼓動していた……


 


 ――そして、地獄の門は開かれた 完――


 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


扉の向こうにいるのは、一体誰なのか?


▼次回予告

『やり直し勇者誕生』

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― 新着の感想 ―
xから読まさせていただきました。 勇者がお見合い なかなかいいですね! 感想書かせていただきます。 魔王討伐という大きな使命を果たした勇者クロードが、本来なら英雄として静かな幸せを手に入れてもおかしく…
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