5話 やり直し勇者は悪手をする
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第5話『やり直し勇者は悪手をする』
どうぞ、お楽しみください。
――スロット1 ロード後 王族専用談話室前――
(何が起きたんだ!?)
俺は今しがた自身に起きた現象が理解できずにいた……
(俺は確かに、部屋のなかにいて、見合い相手として彼女たちがいた。そして陛下は、俺に彼女たちのなかから選択を迫ってきた……)
「いったい……どういうことだ?」
俺は頭のなかでの声を、つい口に出していた。
「クロードさま? どうかなさいましたでしょうか?」
俺の困惑の声に、扉を開けようとしていた騎士の一人が不思議に思い、俺に問いかけてきた。
俺はあわてて騎士に返事をした。
「あぁ……すまない……大丈夫だ!」
実際、なにも大丈夫ではなかったが、状況を整理するには、時間が足りなかった。
騎士は、俺の言葉を聞くと向かいの騎士と顔を合わせ、扉を同時に開いた……
重厚な扉の向こうに広がっていたのは、城の中だと忘れさせるような、明るい白い漆喰の壁、丁寧に磨き上げられた木目調の床。
部屋の中央には、ふかふかと高級感を感じる灰色のカーペットが敷かれ、その上に低めの長テーブルと、それを挟むように置かれたエメラルドグリーンの長ソファが向かいあうように配置されている。
テーブルの奥には、陛下専用と主張するように置かれた、暗い青色の一人がけのソファが置かれていた。
そして、左のソファの奥には、マリーゴールド色のふわりとしたドレスに身を包むクレスが居心地の悪そうに座っていた。
その手前には、体のラインがわかる深い藍色に銀の刺繍のドレスを着たルーシェが腕と脚を組み、ふんぞりかえっている。
右のソファの真ん中には、花嫁を連想させる純白と金の刺繍がされたドレスを着るイリーナが、後ろに侍女を待機させて腰掛けている。
(同じだ……俺がさっき見た光景となに一つ違わない、ただ一つ違うのは、俺の3人を見たときの反応だけだった……)
「ほぅ……クロードよ、あまり驚かない……というより、なんとなくわかっていた、という感じの反応だな」
「いえっ……、まぁそうですね……」
陛下の鋭い感想に、俺は間の抜けた反応をしてしまったが、落ち着いて次の言葉を探した。
「……よく知る者たちとのことでしたので、なんとなくそうでないかと予想は、できておりました……」
俺は詐欺師みたいな言い訳をしてしまったが、今は状況の整理が必要だと思い、その場しのぎの嘘を口にしていた。
だが、その嘘が不幸を呼び込んでしまった……
「予想していたか……、なら話が早いではないか! さぁ、勇者クロードよ! 貴公は、誰を妻に娶るのだ?」
「いやっ! ちょっ! 陛下!?」
「どうした? クロードよ!? わかっていたのだろう? その聡明さなら、すでに花嫁を誰にするのか、決めているのではないのか?」
(やばい! 選択を間違えた! どうすれば?)
「勇者クロードよ! 魔王がいつ戻ってくるのか? それは十年後か? それとも百年後か? そんなものは誰にもわからぬ……ならばこそ! 勇者の血を絶やしてはならないのだ!」
(この流れはやばい! さっきと同じだ!)
俺が理解と混乱の交差に悩まされていると、陛下は俺の横を通り過ぎて部屋の奥に移動する。
「さぁ! 勇者クロードよ! ここに貴公を知り、貴公と結ばれることを望む娘たちがいるぞ! 貴公はどの娘を妻とするのだ?」
(待ってくれ! まだなにも考えがまとまっていないんだ!)
俺は心のなかで事態の停止を求めたが、すでに手遅れであった……
始まった流れは、激流のように押し寄せ、俺の願いを無惨にも飲み込んでいく。
「いやっ、そのっ……」
俺は言葉につまるが、陛下はそんなことなどお構いなしに、どんどん話を進めていく。
「長き時をともに過ごした幼馴染か!? それとも信仰深き聖女か!? それとも才溢れる魔術師か!? それとも!?」
陛下は高らかに選択肢を挙げ、彼女たちが俺を見つめると同時に、陛下が満面の笑みで俺に目線を向ける。
「全員……と申すなら、それでも余はかまわぬぞ……」
(やばい! さっきと何も変わらないじゃないか! それともさっきの光景は予知夢かなにかだったのか? いや! そんなことはどうでもいい! ここは戦略的撤退をしよう! そうだ! こんな急に話を持ってきてすぐに決められるわけないじゃないか!)
俺は今の状況とさっきまでの記憶との混濁で、余計に考えがまとまらなくなり、つい言葉が先走ってしまう。
「とっ……とりあえず、保留で……?」
その瞬間、周囲の空気が重く冷たくなるのを俺は感じた……
(なんだ? 何が起きたんだ? 敵の攻撃か!?)
俺は敵襲の可能性を感じ、敵の姿を目で探すと、俺の後ろから気配を感じたと同時に声が聞こえた……
「うわぁ……引くわぁ……」
(えっ……?)
俺は声がした方に目を向けると、セレーネが俺の後ろで宙に浮いて俺を見ていた。
「セレーネ! やっぱりいたんだな! これはどういうことだ!?」
俺はセレーネに事の詳細を問いただそうとするが……
「いやぁ〜、そんなことよりクロードさん……今の発言、マジっすか? マジなら女神もドン引きっすわぁ〜」
「今の発言……って俺今なんて言ったっけ……?」
俺は自身の発言した内容を思い出すために記憶を巡らせようとしたそのとき……
「クロードよ……貴公、今なんと言ったのだ……」
背を向けていた陛下から、静かな……しかし、強い怒気がこもった声がした。
「今……彼女たちへの気持ちに応えるでも、断るでもなく……保留にすると申したのか……? それどころか貴公……明後日の方を向いて、なにをふざけておるのだ?」
「なに……って、陛下ここに女神……」
俺がセレーネの存在を陛下に伝えようとし――
その瞬間、俺の声に被せるようにセレーネが説明する。
「クロードさん、私のことはアナタにしか見えてませんよ!」
「えっ……?」
彼女の説明に俺が間抜けな声を漏らすと、セレーネは俺にさらなる追撃を行った。
「それよりクロードさん! アナタ本当にヤベェこと言っちゃってましたよ! だからご愁傷様ですぅ〜」
「……なんだと!?」
俺はセレーネの言葉に、自身がなにを言ったのかを、もう一度思い出そうとしたが、……背筋が凍るような怖気を感じ、ゆっくりと部屋のなかへ視線を戻すと、静かになった部屋でクレスが口を開いた……
「……だよね」
クレスのかすれた声が、部屋のなかにこだました。
「幼馴染だって言っても、クロードが王都に行っちゃってからは1回も会えなかったし、グスッ……だからクロードと一緒に旅ができるように頑張って冒険者になってやっと会えて……平和になったからまた一緒に故郷の村で暮らせると思ってたら……おっきなお屋敷をもらって帰って来なくて……ちゃんとご飯食べてるのか心配だったし、グスッ……」
クレスが次々と俺への不満を漏らしながら、鼻をすする音が聞こえた……
「でも王さまが、機会を作ってくれて……今度こそクロードに『女の子』として見てもらうんだ! ……ってイリーナとルーシェに色々教えてもらって、頑張っておめかしして……もしかしたらクロードが私を選んでくれるかも? ……って一人で舞い上がって期待して……グスッ、ヒック……ごめんね二人とも……本当に……ごめんなさい、クロード……」
そう言うとクレスの瞳から大粒の涙がぽろぽろと流れ落ちて、自身の顔を両手で抑えてしまった……
「いいえクレスさん……クレスさんは何も悪くありません……」
泣き出すクレスを慰めるように、向かいに座るイリーナが、喋り出した。
「悪いのはわたくしの方です……クロードさまのわたくしたちへの態度も、魔王との戦いのさなかだから仕方ないと勘違いしてしまって……でも今ならわたくしたちのことを真剣に考えてくださると思って二人をお呼びしたのに……」
そして、イリーナが俺の方に顔を向けると、俺は悪寒に息を呑んだ……
彼女の目からは光が消え……自身の絶望を口にし出した。
「わたくしは、クロードさまのお役に立てればと……決して選ばれなくても2人が選ばれるならと思い、手を打ってきましたが……まさかどなたも選んでいただけないなんて……」
イリーナは淡々と俺に対する心情を語っているが、その表情は感情を失い、まるで生気を感じなかった……
「クレスさん、ルーシェさん、お2人を巻き込んでしまい大変申し訳ありません。……わたくしも選んでもらえたらと……せめて慰みものになっても構わないから側に置いていただければと思っていましたが……それも無理なのですね……」
とんでもない発言をしていたようにも感じるが、イリーナは気にするようすもなく、さらに懺悔のような喋り方を続けた……
「……あぁ、わたくしのような、なんの役にも立たない汚れた聖女など、神のいる世界で息をすることさえ許されません……」
そしてイリーナはゆらりと振り返り、後ろに控えていた侍女に沈んだ声で命令した。
「ミリス……わたくしの『始末』の準備をお願いします……神の慈悲を無駄にした大罪人のわたくしには、安らかな眠りなど許されるはずがありません! ……三日三晩、苦しんだ果てに死に至る……そんな猛毒の用意をお願いします……」
すると、ルーシェが目の前のテーブルを両手で思いっきり叩きながら体を起こして、俺を睨みつけてきた。
「ちょっとアンタねぇ!! 私たちがどんな気持ちで今日のために色々と準備してきたと思ってんのよ!?」
いつも感情論よりも理屈を大事にする彼女が、まるで二人の代弁者のように感情的に捲し立ててきた。
「クレスはわかんないことばかりだから、不安を抑えながら申し訳なさそうにイリーナと私に聞いてきて! イリーナなんて自分のことのようにクレスと私のドレスとか髪飾りとか選んでくれて! 私だってアンタが喜ぶと思って化粧とか香水とか調べて……もし選ばれても選ばれなくても、ちゃんとアンタと花嫁が幸せになれるように! 『幸福な家族』になるための人生設計とか! 契約書とか! いっぱい用意したのに! ……なのにっ! あぁもうっ最悪っ!!」
彼女は3人のなかで一番歳上だからか、2人の頑張りを無駄にしてしまった俺の発言を許すことが出来ず激怒し、そして座り込んで頭を抱えてしまった……
さらにそこへ、陛下が詫びるように重い口を開けた。
「みな、すまなかった……色恋に疎くても不義理を働くような男ではないと……余は、この男の器を見誤っていたようだ」
そして陛下は席を立つと、俺の近くまで移動して深々と彼女たちに頭を下げた……
「この不義理者に代わって、余が謝罪する! 本当に……すまなかった……」
(終わった……)
彼女たちの反感を買ってしまうどころか、セレンディアの国王に頭を下げさせるなんて、俺は……
「おぉ〜い! クロードさぁ〜ん! 聞こえてますかぁ〜?」
俺は取り返しのつかない過ちを犯してしまった事実が受け入れられず、隣で俺に声をかけるセレーネの声がまったく耳に入ってこなかった……
そして俺がきょろきょろと視線を泳がせていると、イリーナの侍女と目が合った……
その侍女はイリーナの方へ体を向けたまま、目線だけ俺に向けていた。
そして、俺と目が合ったことに彼女が気付くと一言……
「……最低」
誰も気づかないほどの小さな声で――しかし俺の耳にはハッキリと届く呪詛のような響きで、彼女は短く鋭く、俺の罪を罰していた。
俺は膝から崩れ落ち、声にならない声を漏らした……
「すまない……本当にすまない……だからどうかもう一度、さっきのところまで戻してくれぇぇぇ……」
すると、また目の前の光景が、停止した……
――やり直し勇者は悪手する 完――
最後までお読みいただきありがとうございました!
いやぁ、クロードさん、酷い人ですね!
ヒロインたちがかわいそうでなりません!
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▼次回予告
6話『スキル説明』
説明書を読みまくる派だった私は、デジタル化に逝く……
明日 20時 投稿予定!




