ミリス編 無垢な少女に世界は……
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ミリス編
【無垢な少女に世界は……】
お楽しみください。
――ミリスの記憶 貧民街――
真っ白になっていた視界が、薄っすらと晴れてくると、そこは小さなボロ小屋の中だった。
外は夜なのか、日の光が差し込まない、部屋の奥にある蝋燭の灯りだけが、ゆらゆらと揺らめいていた。
「ここは……どこだ?」
「おそらく、貧民街にある小屋の中ではないでしょうか?」
俺の問いに、セレーネが答えてくれたが、肝心のミリスの姿がなかった。
そうしていると、蝋燭の灯りの奥から、男が服を着ながらこちらに歩いてきた。
「また来るぜ!」
そう言って、布のかかっているだけの入り口から、男は外に出て行った。
「今のは?」
気になって、蝋燭の先を見ると、寝台が1つポツンと置かれている。
そして、のそりと1人の女性が寝台から体を起こすが、その女性は裸だった。
「なっ!?」
俺はとっさにセレーネに目隠しされ、女性が服を着たことで解放された。
「……この女性は?」
俺は疑問に思うが、答えなどとうに知っていた。
腰まで伸びた黒い髪、どこまでも深く美しい黒い瞳、日の光がなくてもわかる乳白色の肌……そんな彼女に似ている子を、俺は知っていた。
すると、小屋の入り口から、今度は1人の少女が走ってきた。
「おかあさん! ただいま! 今日はね、パンとりんごもらってきたよ!」
その少女は、嬉しそうに寝台にいる女性に駆け寄った。
「そう、ありがたいね……さっき、お客さんがお土産に串肉とミルクを持ってきてくれたから、今日はご馳走ね!」
「本当! やったー!」
お客さんとは、さっきの男のことだろうか? そう思っていると、また入り口から人が入ってきた。
「ミレイナ! 今日はもう終わりかい? やってるなら相手してくれよ! 魚、持ってきたからさ!」
「あっ、ごめんなさい、ちょっと待ってね! ミリス、少しお外で待っててくれる?」
「えー、お腹空いたー」
「ごめんね、終わったらご馳走用意してあげるから……ね?」
「……はーい」
そして少女は、入ってきた男の横を通り過ぎると、入り口の外で座り込んで、男が出てくるのを待っていた……
……急に視界が暗転し、スラム街からどこかの森の中に場所が変わっていた。
「ここはどこだ!?」
「わかりません、城の外だと思うのですが……いました! あそこです!」
俺がセレーネの指差す方を向くと、そこには森の中を歩くミリスとその母親の姿があった。
だが、何かが変だ。
ミリスの母親はまるで、老人のように体を丸めた状態で歩いていた。
そんな母親を、ミリスは心配そうに見つめていた。
「お母さん、大丈夫?」
「……えぇ、大丈夫……よ……もう少しで着くからね……」
母親の声は、明らかに苦しそうで、大丈夫なんてことなかった。
そして、しばらくすると森の中を抜け、1本の大きな川が見える村近くまで来ていた。
「ここは? モス村か?」
「モス村って、クロードさんの故郷ですよね?」
「ああ、でも何でここに?」
俺たちが彼女たちの旅の目的を気にしていると、ミリスたちは村の見張りの男に声をかけられていた。
「アンタたち、どうしたんだ? 旅の人……って感じではなさそうだな?」
見張りの男の質問に、ミリスの母親が答えた。
「あっ、はい……ここは空気が美味しいと聞き、ゴホッ! ゴホッ!」
しかし、母親が咳き込んでしまうと、ミリスが代わりにと無邪気に答えてしまった。
「うん! あのね、お城で病気が出ちゃってね、怖いから逃げてきたの!」
(……ミリス! それは!)
俺は幼い少女の、無垢な発言を止めようとしたが、ただ回想を見ているだけの俺に、それは不可能だった。
「病気だって!?」
その言葉と母親の様子に、男は態度を変え、手に持った槍を2人に向けると、大きな声で応援を呼んだ。
「アンタら動くなよ! おい! 誰か来てくれ!」
「……えっ!? なんで? どうして?」
「ミリス……大丈夫だからね、お母さんが付いてるから大丈夫よ……」
困惑する少女を、母親が必死に抱きしめて、その場から動かずにいた……
……少しして村の人間数人が2人を取り巻き、忌避の視線を向けていると、村長が2人の前に現れ、ミリスの母親に声をかけた。
「城で病気が流行っとるとは、本当かね?」
「……はい、貧民街で流行りだしたみたいで、それでここまで逃げてきました」
「他に人は? どうやってここまで?」
「私とこの子だけです……行商の人にお願いして近くまで来ました」
「行商がタダで乗せてくれたのかい?」
「……持っている物と交換で……後は……」
「……現物で支払ったと……」
「……はい……」
言葉の意味を理解した何人かの村人が、ヒソヒソと好奇の視線をミリスの母親に向けていた。
俺はその光景を、ただ見ていることしかできず、握りしめた拳から血が滲んでいた。
「すまないが、村には入れられん……だがここを少し下ったところに廃屋がある……そこを使いなさい」
「村長!?」「売女を許すのか!?」「病気を、持ってるんだぞ!」
村長の判断に、村人たちが野次を飛ばすが、村長はゆっくりと口を開いた。
「ここで無下に追い出して、逆恨みされれば厄介だ! なら住む場所は与えるが、村への接触は禁止で手を打つ!」
その言葉に、村人たちの態度は、納得と不満が入り混じるような反応に変わった。
「それでよいな? 他所の者よ」
「……はい、ありがとうございます……」
ミリスの母親は、村長に土下座して感謝し、ミリスもそれに続いて土下座していた。
モス村の住民は彼女たちを見殺しにする。
そう村長が言ったことに対して、なんで2人が感謝しなければならないのか、俺にはわからなかった……
――ミリス編 完――
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