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やり直し勇者は溺愛される ~魔王を倒した勇者ですが、平和の代わりに元仲間たちとのお見合いが始まりました~  作者: 希月タカトラ
やり直し勇者と影に溶ける少女

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ミリス編 影のなかの想い

いつも読みに来てくれてありがとうございます。


ミリス編

【影のなかの想い】


お楽しみください。

 


 ――ミリス 東の塔前――


 

 あの人から逃げて来た私は、東の塔に入るとイリーナさまに声をかけられた。

 

「ミリス、ちょうどよかったです……今みんなで着替えようとしていたのですが、誰か来ないように見ていてくれませんか?」

 

「……かしこまりました、イリーナさま……」

 

 イリーナさまのお願いに応じて、私は塔の扉の前で、みなさまの着替えが終わるのを待っていた。

 

 しばらくして通路の奥から、こちらに向かって急いで駆けてくる人の姿があった。

 

 あの人だ……私はすぐにそれに気付くが、何もしなかった。

 もうあの方に私は見えていない……だから何もしなくても、あの人に気付かれることはない……

 

 そして、私の横を通り過ぎて扉に手をかけ……

 

(いけない! 今扉を開けたらイリーナさまたちが!)

 

 しかし、私の平凡な運動神経では、間に合う訳がなく、扉は開かれてしまった。

 

「イリーナ! 話が……」

 

 クロードさまの声が途絶える……

 

「ブルーレイ&DVDには、豪華特典としてミリスさんのお着替えシーンが付いてくる!? 20XX年発売! あなたは、そこにいますか?」

 

 次の瞬間――ルーシェさまの放つ爆風と共に、クロードさまが吹き飛んでいた。

 

 彼の元に駆け寄るが、クレスさまが投げたのだろう毒針で、体が痺れたまま気を失っていた。

 

 ここに寝かせておく訳にもいかず、私はクロードさまの足を持って、リビングのソファへと運んだ……

 

 なんとかソファにクロードさまを寝かせると、私はイリーナさまの元へ行き、事態の謝罪を行った。

 

「申し訳ありません、イリーナさま……私の不注意でこのようなことに……」

 

「いいんですよ、ミリス……いつかは見せる日が来るのですから、それが今だっただけですよ」

 

「は、はぁ……」

 

 本当に私の主人は『聖女』と言われている方なのか? 魔王討伐を果たした今でも、その言動のせいで疑念が拭えなかった。

 

 そう思っていると、イリーナさまが私に疑問を投げかけてきた。

 

「ところでミリス、どうしてクロードさまに忘れさせてるのですか?」

 

「……それは……」

 

「それだけでは、ありません……クレスさんとルーシェさんにも、旅のことを忘れさせてますね?」

 

「…………はい」

 

 鋭いお方だ……イリーナさまに気づかれないように、お2人には挨拶を済ませておいたのに、簡単に見破られてしまった。

 

「理由を聞いても?」

 

「……私とみなさまとでは住む世界が違います……私はそれを元に戻しただけです……私はイリーナさまにお仕えできるだけで十分幸せです……」

 

 嘘は言っていない。

 

 父親は母が身売りをしたときの客の誰かで、顔も名前すらもわからない。

 

 スラムで生きるためとはいえ、この力を使って盗みを働いてきた。

 

 こんな人間が、屋根付きの綺麗な寝床で眠り、毎日3回の食事をお腹いっぱいに食べられるのだ。

 

 それに、イリーナさまはあの人と結ばれる人。

 

 なら、いつかは共に暮らし、私はその2人に仕えることができる。

 

 それが私の幸せ……それ以上を望んだら、きっと天罰がくだってしまう。

 

 だから忘れてもらおう……私が変な期待を抱かないように、その視線に心躍らせないように……

 

 でも私の主人は、どこか納得のいかない顔をして、少し考えた後に1つの提案をしてきた。

 

「ミリス、1つ賭けをいたしませんか?」

 

「……賭け、ですか?」

 

「はい、クロードさまが起きられたら少しだけ……あなたとわたくしが出会ったときのお話と、一緒に旅をした仲間だったことを伝えます……今がアナタにとっての幸せだということも……それを壊すことは、悪ではないかと問いましょう」

 

「……それの何が賭けなのですか?」

 

「もちろん! それでアナタのことを、クロードさまがあきらめるのか? ですよ!」

 

 そんなもの決まっている。

 

 私の力は強力だ、話を聞いた程度では、おぼろげに記憶が戻るだけで、完全に記憶を取り戻すことはできない。

 

 それに、幸せを壊すと言われてしまっては、あの人もわかってくれるだろう……

 

「わかりました、お受けします」

 

 ……そして目を覚ました彼に、イリーナさまは私との昔話と、私にとっての幸せをお話になった。

 

 私はこれで、全てが終わると思っていたのに……

 

「……そんなもん! やってみてから考えるさ!」

 

 嘘でしょう!? なぜ彼は私を放っておいてくれないの? 私を影に沈ませてくれないの?

 

 困惑するなか、イリーナさまが体を傾け、あの人の後ろにいた私に満面の笑みを浮かべて語りかけてくる。

 

「私の勝ちですよ、ミリス」

 

 それを聞いた私の胸は、なぜか弾むように高鳴っていた……


 


 ――クロード 東の塔 リビング――


 

 俺たちが一斉に振り返ると、困惑した表情をしたメイド服の少女が1人、立ち尽くしていた。

 

 俺はその瞬間、彼女の正体を悟り、とっさに声を上げていた。

 

「ミリス!」

 

 俺の声に、ビクッと反応したミリスは、部屋の外に出ようと扉に駆け出した。

 

「おっとー! ミリスちゃん、ごめんね! 逃がしてあげない!」

 

 逃げるミリスの正面に、クレスが素早く立ち塞がった。

 

 だがミリスもとっさにスカートをひるがえして、クレスの視界を隠すと、彼女の横を通り過ぎた。

 

 しかし、肝心の扉が氷で完全に覆われていた。

 

「いないように感じるだけなら、物理的に閉じ込めればいいんでしょ?」

 

 そう言ってルーシェが、扉と階段を氷で塞いでいた。

 

 俺はミリスに近づくと、彼女はテーブルにあった燭台を慌てて掴み、不安な表情を浮かべていた。

 

 彼女の力を警戒して、俺が身構えるが、後ろからイリーナの声がした。

 

「その力は、敵意を向けた相手には使えません!」

 

 その言葉に、ミリスがさらに動揺しだした。

 

「なんで!? どうしてですか!? なんで!? なんで!? 私はこれでいいのに!」

 

「いいわけないだろ! どう見たって我慢してるじゃないか!」

 

 俺の言葉に、ミリスが口調を崩して言い返してきた。

 

「我慢なんてしてないもん! 考えて納得したもん! お兄ちゃんは、何も知らないくせに!」

 

「お、お兄!?」

 

 急なお兄ちゃん呼びに、俺は動揺してしまうが、それはミリスもだった。

 

「あっ……ごめんなさい! ごめんなさい! 忘れて! 忘れて……ください……」

 

 そう言って彼女は、持っていた燭台を落として、膝から崩れて泣き出してしまった。

 

 そのとき、セレーネが俺に語りかけてきた。

 

「クロードさん、予想外な展開でしたが、今ならいけます!」

 

(あ、ああ……わかった……)


 やはり、まだミリスには、俺が忘れてしまっている何かがある。

 

 セレーネの言葉に、俺は冷静さを取り戻すと、ミリスの元に歩み寄り、彼女の肩を掴んで声をかけた。

 

「悪いな、もう少しだけ、お前のことを教えてくれ」

 

 そして俺は、頭のなかで『記憶回想』のスキルを唱えた。

 

(記憶回想を使う! 対象はミリスだ!)

 

【スキルの使用を確認しました。対象者ミリスの記憶を回想いたします】

 

 泣きじゃくるミリスを見つめる俺の視界は、真っ白になった……

 


 

 ――ミリス編 影のなかの想い 完――

 

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。


次回もよろしくお願いします。

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