ミリス編 聖女と影のお話
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ミリス編
【聖女と影のお話】
お楽しみください。
――8年前 セレンディア王国 城下町――
当時12歳だったわたくしは、聖女の訓練を休んで、街を見て回っていました。
とは言っても、護衛に騎士団長様を連れて、馬車の中で街の風景をぼーっと眺めているだけでした。
本当は、平民街まで行って帰ってくるだけの予定でしたが……そのときのわたくしは、帰りたくなかったんです。
だから騎士団長さまに無理を言って大通りまで来ていました。
四方から聞こえる喧騒と笑い声、そして無数の人々……わたくしが守るべき国民たち……
その一つ一つを眺めていると、わたくしは1人の女の子を見つけました。
クシャクシャの黒い髪、ボロボロの布切れ1枚を羽織り、大通りの真ん中を、その女の子は歩いていました。
でもなぜでしょう……誰もその子を気に留めないし、ぶつかっても誰も気付かないのです。
「アルバインさま、あの子は……?」
わたくしはその女の子のことが気になって、騎士団長さまに聞きましたが……
「うん? どの子のことでしょうか?」
「大通りの真ん中を歩いている、ボロボロの服を着た女の子です!」
「うーん、申し訳ありません、私にはどの子のことを言っているのかわかりません」
(……普通の光景なのでしょうか?)
そう不思議に思い、その女の子を見ていると、1軒の出店の前で、その子は足を止めました。
(あれは、串物の屋台でしょうか?)
そして女の子は、店主の目の前で堂々と肉串の1つに手を伸ばし、その場をゆっくりと歩いて行ってしまいました。
(あれは、窃盗!? でも、誰も気付いてない!?)
わたくしは、何が起きているのかわからず困惑していると、その女の子は路地裏に姿を消してしまいました。
「あっ! 待ってください!」
その瞬間――体が勝手に動いていて、馬車から降りたわたくしは、その子のことを追いかけていました。
女の子の後を追うわたくしは、周りの風景が陰鬱なものになっていくことなど、全く気にも留めませんでした。
そしてある角を曲がるとそこには、壊れたテントの中で、盗んだ肉串を食べる女の子を見つけました。
わたくしはゆっくりと、その女の子に近づき声をかけました。
「お食事中に失礼いたします……少しお話ししてもよろしいでしょうか?」
その女の子は、わたくしが声をかけてきたことに、驚きを隠せずにいました。
「……どうして? 見えてるの?」
「はい、わたくしにもわかりませんが、見えてますよ」
「……捕まえに来たの?」
「……いいえ、盗みはいけませんが、店主さまが気にされていないなら、仕方ありません」
「じゃあ何で?」
「わかりません……ただ、アナタだけが『人』に見えたのです」
「……『人』?」
女の子は、言葉の意味を理解できずにいましたが、わたくしには、そんなことどうでもよかったのです。
「アナタ、お名前は?」
「……ミリス……」
「そう、ミリス……もしわたくしの願いを聞いてくださるなら……」
わたくしはミリスに手を伸ばして、彼女に問いかけました。
「わたくしのところで、暮らしてみませんか?」
「……無理……」
「あら? どうしてですか?」
誘いを断られたことがショックだったのか、わたくしはミリスに理由を聞いてしまいました。
「……どうせ忘れるから……」
「忘れる……ですか?」
今度は、わたくしが彼女の言葉の意味を理解できずにいると、背後から騎士団長さまの声が聞こえて、声の方に振り向きました。
「イリーナさま! よかった、お一人ですね! ご無事ですか!?」
「……いいえ、1人ではありませんよ! ほら、アルバインさまの後ろに、こんなに可愛らしい女の子が!」
わたくしは目を離した隙に、逃げようとしていたミリスのことを指差して、騎士団長さまに教えてあげました。
「なっ!?」
とっさに振り向いた騎士団長さまが、ミリスに気付きました。
そして、気付かれたことに驚いて、立ち尽くしているミリスがわたくしに問いかけてきました。
「……どうして?……忘れてないの?」
「はい、わたくしにもわかりませんが、覚えてますよ」
わたくしは心から、この日のことを神に感謝しました……
――現在 セレンディア城 東の塔――
「これが、わたくしとミリスが出会ったときの話です……お父さまはわからず、お母さまは4歳の頃に亡くなったと聞いています……」
イリーナの話を、俺は口を挟まずにただ黙って聞いていた。
そしてイリーナは、全員が黙って聞いていることを確認すると、話を続けた。
「彼女を迎え入れた後、すぐにミリス本人の口から記憶に関する話を聞きました……だって、はじめましての挨拶をしても、ほとんどの方が彼女のことを忘れるんですから……」
「忘れるって……何で?」
クレスがイリーナに質問する。
「わかりません……彼女自身も『気付いたら忘れられていた』『いつの間にか、ある程度なら操作できるようになっていた』と言っていました」
「誰にも気付かれないのは?」
ルーシェもイリーナに質問を投げかける。
「それも同様です……でもミリスは、『若い女は息を殺して生きることが、スラムでの当たり前』と言っていましたので、その生き方が染みついているのかもしれません……」
俺はそこで、一番気になっていたことを聞いた。
「なんでイリーナには、ミリスの力が効かないんだ?」
その質問にイリーナは、ふくみ笑いを浮かべて答えた。
「実はわたくし以外にもう1人、ミリスの影響を受けない方がいるんですよ!」
俺は何となく、ある人物が頭をよぎった。
思えば、あの方は見合いの場で、一度も3人とは言わなかった。
「……陛下か?」
「はい! 正解です! 我ら王族には【慧眼】を賜ることがありますが、わたくしも陛下もその【慧眼】持ちなんです! なので、わたくしたちに嘘偽りは一切通じません……それはミリスのそれも同様です……」
イリーナが笑顔で答えると、俺の方に目線を移して喋りだした。
「クロードさま……なぜあの子がクロードさまの記憶だけを完全に消しているのか、わたくしにはわかりません……ですがミリスは、わたくしたちと確かに3人で旅に出ました……そして魔王討伐まで、最後まで戦い切ったのです……」
「……ああ」
イリーナの話に俺は短く返事をすると、彼女はそのまま言葉を紡いだ。
「どうなさいますか? この状況は、彼女の意思でもあります……それを無理矢理変えようとするのは、悪ではないでしょうか?」
そう言ってイリーナは、俺を真っ直ぐ見つめて答えを待っていた。
おそらく彼女も、ミリスにしてあげられることはないか、必死に考えたのだろう……だけど答えが出せないでいた。
だから俺も、真っ直ぐにイリーナを見つめて答えを出した。
「……そんなもん! やってみてから考えるさ!」
俺の答えに、3人とも目を丸くしていた。
「ちょっと、クロード! もっと考えて行動しなきゃ!」
「そ、そうよ! 無責任なことしちゃダメよ!」
だが、俺は答えを変えなかった。
「でもミリスは、俺たちの仲間だ! なのに今ここにいないなんて、俺は納得いかない! だからなんとかする! その後のことは、その後考える」
俺が自分の意思をもう一度口にすると、イリーナが笑って話しだした。
「ふふっ、やはりクロードさまは、すごいお人ですね! わたくしが散々悩んで出せなかった答えを、こんなあっさり出されてしまうなんて……」
「「「考えてないだけ!」」」
俺たちは声を合わせていた。
「ふふふっ、それも……一種の才能ですよ……」
そう言ってイリーナは、目を閉じてひと息した後、目を開くと同時に、体を傾けて俺の背後に目線を移した。
「私の勝ちですよ、ミリス」
その言葉に俺たちが一斉に振り向くと、そこには小さなメイド服の少女が困惑した表情で俺たちを見ていた……
――聖女と影のお話 完――
最後までお読みいただきありがとうございます。
正直、イリーナとミリスの百合でもよくね!? って書きながら思いました。
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▼次回予告
ミリス編
『影のなかの想い』
明日 21時 投稿予定です!!




