ミリス編 幸せの形
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ミリス編
【幸せの形】
お楽しみください。
――セレンディア城 西の塔 リビング――
リビングに移動すると、ミリスは俺にテーブルで待つように言うと、部屋の隅に移動する。
俺が不思議に思っていると、ミリスが壁の一部を横にずらし、そこから調理用の部屋が現れた。
「クロードさん、何回もこの部屋使ってますけど、あんなの知りませんでした……」
(ああ、俺もだ……)
だがそのお陰で、ミリスが部屋から出て行ってしまう可能性を消すことができた。
少しすると、ミリスが淹れたての紅茶を持って戻ってきた。
「お待たせしました……どうぞ……」
そう言って紅茶を俺の前に置いて、彼女はその場で立ち尽くしてしまった。
「ありがとう……ミリスも座ったらどうかな?」
「いえ、問題ありません」
「いや、話がしたいし、俺が気になるから座ってくれないか?」
「……かしこまりました」
そしてミリスは、俺の向かいに移動すると、一礼してから席に座った。
「……ミリスも紅茶、飲もうぜ! それとも紅茶は苦手か?」
空いているカップに、俺が紅茶を注いでミリスの前に差し出した。
「……いえ、問題ありません……いただきます……」
そう言ってカップを手に取ったが、何か険しい表情をしながら、一瞬口をつけると、更に顔をしかめた。
「うん? やっぱり紅茶は苦手か?」
「い、いえ……問題ありません……」
ミリスはそう言うが、その反応は何か見覚えのあるもので、それが何かを俺は思い出した。
「ミリス……砂糖はいくつ入れる?」
「い、いえ! 問題ありません! 砂糖など、恐れ多いです!」
「大丈夫だよ、別に怒ったりしないよ……っでいくつ使う?」
その反応は、大人ぶって苦い物を口にしたけど、でも美味しく感じなくて後悔する。
おそらく、誰もが一度は経験する反応だった。
そしてミリスは、少しの間考えて、ぼそりとつぶやいた。
「では……み、2つ……ください……」
「……本当にいいの?」
できるだけ穏やかに聞こえるようにして、俺は聞き返すと、ミリスはもう一度つぶやいた。
「……その……3つで、お願いします……」
「ああ、ミルクもいるかい?」
「……はい……」
なんてことはない、彼女はまだ15歳で……甘い物が大好きな女の子だった。
「ク、クロードさん! こ、こ、これはもしや! 妹属性があるのでは!?」
(……なんなんだ急に?)
セレーネが急に喋り出したと思うと、いつもの呪文の羅列が始まった……
「いやだって! この感じはそうですよ! 普段はクールなしっかり者だけど、大好きなお兄ちゃんの前では年相応の女の子になっちゃう系『妹キャラ』! 『幼馴染』・『お嬢様』・『歳上のお姉さん』の、足りない穴を埋めてくれる存在! まさに王道! まさに至高! これは薄い本が厚くなりますよ!」
(……わかった、ご苦労! もう下がっていいぞ)
セレーネとの会話を切り上げ、美味しそうに紅茶を飲んでいるミリスに話しかけた。
「ミリスは、なんで俺に忘れてほしいんだ?」
その言葉に、彼女の手が止まった。
「……何のことでしょうか?」
「誤魔化さなくていい……理由は言えないが、ミリスのスキルのことは知っている」
「……そうですか……イリーナさまですか?」
「いや、女神さま……かな?」
俺の冗談めいた言い方に、ミリスはあきらめて話しだした。
「それなら、仕方ありませんね……」
手に持っていたカップをテーブルに置き、ミリスは静かに語りだした。
「クロードさま……私はみなさまにお仕えできるだけで幸せでございます……ですが、人には身の丈に合った振る舞いが必要です」
ミリスの瞳の奥は冷たく、しかし穏やかな表情のまま、彼女はただ淡々と語っていた。
「私はスラムの……ゴミの中から生まれた身です……それが、これ以上の幸せを願うのは分不相応です……だから夢を見ないように、皆さまと同じ道を歩けたときがあったと満足して、終わらせないといけないのです」
そして彼女は、またカップを手に取り口に運ぶと、小さな声でつぶやく。
「……おいしい……」
そんな光景と、彼女の話す内容の乖離に、俺は納得できる訳がなく、ミリスに反論した。
「……そんなことあっていい訳がない! みんな平等に幸せになる権利はあるんだ!」
「……言ったはずですよ? 今のままで十分幸せです」
「違う! 妥協して得た物が幸せなんて……間違ってる……」
「……クロードさま、それは幸せになれる人だからできる発言です」
「なっ……!?」
彼女はまた、穏やかな表情のまま、子どもを諭すように語りだした。
「私からしてみれば、誰かに仕え、屋根のある寝床とご飯を得られるだけで、十分に幸せです」
「……俺がそれに納得すると思うか?」
「思いません……だってアナタは勇者さまですから……」
そう言って彼女は、嬉しそうに笑って話を続けた。
「紅茶ごちそうさまでした……お茶をご一緒できて、これ以上ない幸せでした……私のことはお忘れください」
そして彼女は椅子から立ち上がり一礼すると、カップとポットをトレイに載せ片付けだした。
「……俺がこのまま、お前を見失うと思うか?」
「思いません……けど、やり用はありますよ?」
そう言って微笑むミリスに俺は、悪い予感を感じ取りとっさにスロット2へのセーブを行なった瞬間――
ミリスの手がテーブルクロスをひるがえし、彼女の姿を俺の視線からさえぎった。
(しまった!!)
俺は慌ててテーブルクロスを押さえつけ、ミリスの姿を探すが、すでに彼女の姿を捉えることは出来なくなっていた。
そこにはただ1人立ち尽くす俺と、綺麗に整え直されたテーブルクロスだけが残っていた……
――幸せの形 完――
最後までお読みいただきありがとうございます。
妹属性書いたり、アクションシーンみたいなこと書いたり、大満足の1話でした!!
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▼次回予告
?リス編
『溶けた影を探して』
明日 21時 投稿予定です!!




