ルーシェ編 早鐘は、いつまでも鳴り響く
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ルーシェ編
【早鐘は、いつまでも鳴り響く】
お楽しみください。
――ルーシェ 魔術塔――
今日もあの部屋で、私は1人過ごしていた。
お父さまに閉じ込められていた部屋、もう私の居場所じゃないのに誰とも会わなくて済む場所として最適だった。
バーバラの家も、1人でいるのが辛くて手放してしまった。
「もう、1人に慣れる方がいいのかな……?」
私は自身に問いかけるように独り言をつぶやいていた。
すると、精霊たちがざわつきだした。
「ルーシェ、くるよ!」「すっごいのがくる!」「まぶしいのがくる〜」
「えっ? 何? どうしたの?」
私が精霊たちのざわめきに困惑していると、部屋の扉が『バアァン!』と勢いよく開かれた。
大きな音に驚き、私が扉の方に振り向くと、そこには1人の男が立っていた。
「あ! いたいた! 君が『魔女ルーシェ』!? 俺は『勇者クロード』! よろしくな!」
彼は私を見つけると、ズカズカと部屋に入って来ながら挨拶をしてきた。
すると、扉の向こうにもう1人……2人の女の影を見つけた。
「クロードさま! 女性の部屋に無遠慮に入るものではありませんよ……急に押しかけてしまい、大変申し訳ありません……わたくし『イリーナ』と申します」
そう言って、白いローブ姿の少女と、その後ろにいたメイド姿の少女は私に頭を下げた。
「えっ!? そっか、ごめんごめん!」
だが、男の無遠慮さは衰えることがなく、私に語りかけてきた。
「でさ! 仲間を探してるんだ! だから仲間になってよ!」
「は、はあぁ!?」
私とアイツの出会いは、まぁまぁ最悪だった……
それから私は、イリーナに話を聞いて、旅に同行することにした。
べつに魔王なんてどうでもいいけど、あそこにいても1人だし、精霊たちが教えてくれた。
「おとこつよ〜い」「おんなもつよ〜い」「ルーシェと一緒〜」
それならすぐに死んじゃうこともないだろう……それに、私よりも年下のコイツらが、放っておけなかった。
それから私たちは、長い時間を一緒に過ごしていた。
勇者は肉が好きで出店の串肉を見つけると食べたそうにするし、要は子供だった。
イリーナは肩書き通りのできた子だったけど、なんとなく勇者に特別な感情を抱いていると思った。
イリーナの侍女は精霊たちもびっくりするくらい影が薄いし、一番幼いけど身の回りの世話をよくしてくれた。
なんともバランスの悪いパーティだが、上手く行っているのが不思議だった……
そんなある日の夜、私はいつものように精霊たちと話していると、勇者がやって来た。
「また、"みんな"と話してるのか?」
「……えぇ、日課みたいな物よ!」
私は彼の問いに素っ気なく答えたが、彼はまったく気にする様子もなく話を続けた。
「へぇ、なぁどうやったら俺も話せるようになるんだ?」
「無理よ、素質の問題だから、聞こえないなら諦めなさい」
今度は冷たく彼に言い放つも、彼はまったく怯まなかった。
「そうか、じゃあルーシェが通訳してくれよ!」
「はぁ!? なんで私が?」
「いいからいいから! じゃあ俺からな!」
彼は私の反発を無視して会話を続けるから、私は仕方なく通訳をして、その日の夜を過ごした……
そして、ある街での滞在中にそれは起きた。
買い物から帰って来た私は、宿の扉に手をかけると、部屋の中から勇者とイリーナの話し声が聞こえてきた。
「空中要塞がこちらに向かってるだって!?」
「はい……騎士たちの話では、強力な結界に護られていて、精霊術がまったく効かないらしいです。」
2人の深刻そうな声に、私は気付かないふりをしながら扉を開いた。
「帰ったわよ……なに? 邪魔した?」
「いえ、そのようなことは!?」
「違うぞ! ルーシェ大変だ! 実は……」
私は改めて話を聞き、意見を述べてみた。
「精霊術が効かなくたって物理的な物は効くでしょ? なら、土魔法で攻撃とかは?」
「広範囲の結界のせいで魔力が霧散してしまうので、魔力を失った弾では届かないみたいです……通常の砲撃も届くかどうか……」
「……なるほどね」
イリーナの言う通りなら、私の精霊術でも届きそうにない、そう思っていると勇者が質問を投げかけた。
「イリーナ、要塞はあとどの位で街に来そうなんだ?」
「おそらく、明日の夜には……」
「くそっ! どうしたらいいんだ!」
そう言って勇者は、テーブルに拳を叩きつけて苦悩していた。
私はなんとなく、あの日の夜に精霊と話したがっていたコイツを思い出して、なんだか嫌な気分になった。
「ちょっと1人で考えたいから外すわ……明日には戻る」
そう言って私は、宿の主人に別の部屋を用意させて、"みんな"に話しかけた。
「ねぇ、何かいい方法ないかな?」
「まほうがとどかないの〜?」「土ならとどく〜?」「どうやって〜?」
「そう、土を弾みたいに固めて飛ばせないかな? 例えば爆発の勢いとかで?」
「できるよ〜」「でもねらえな〜い」「まっすぐとばな〜い」
「確かにそうね……なら、真っ直ぐ飛ぶように筒で……って、それなら大砲と変わらないか……」
「たいほう〜」「もっとすごく〜」「できるよ〜」
「! できるの!? どうやって!?」
「あのね〜」「あつめる〜」「かためる〜」「ビリビリ〜」「ふっとぶ〜」「ルーシェもふっとぶ〜」
「……そう、試してみる価値はありそうね……」
そして私は、精霊たちの提案を形にするための、実験を繰り返す。
部屋がボロボロになったが、街の危機なのだから、店主には我慢してもらおう。
さらに、実験の規模が大きくなると、部屋を飛び出して、実験を続け……
日の昇る頃、私は2人の元に帰って来た。
「ルーシェ! どこ行ってたんだよ!?」
「心配したんですよ!」
勇者とイリーナが、私に問いただしてきた。
「あぁ、悪かったわ、ちょっと実験が捗ってね……」
「実験って、ボロボロじゃないか!」
「お待ちください! 治癒を!」
私は駆け寄るイリーナに手を前に出して制止すると、2人に急ぐように促した。
「それより、今すぐ空中要塞に向かうわよ!」
「向かうって……どうするんだ?」
勇者の質問に私は自信満々に答えた。
「アレを、射ち落とすのよ!」
……空中要塞が見えるギリギリの位置にある丘へ移動すると、私は勇者とイリーナの2人に指示を出した。
「イリーナは、私とコイツに身体強化の魔法を限界までかけたら、できるだけ離れて!」
「わかりました!」
「ルーシェ、俺は!? あとコレはなんだ!?」
勇者は私に言われて運んでいた黒い塊のことを聞いてきたが、私はそれを無視して端的に説明した。
「吹っ飛ぶ私を受け止めなさい!」
「……はい!? どういう……」
「じゃあ、始めるわよ!」
私は勇者への説明を無理矢理終わらせて、準備を始めた。
「鉄あつめる〜」「てつだう〜」「ひっぱる〜」
土と雷の精霊術を利用して、地中に埋まっている砂鉄を掻き集めると、勇者の運んできた黒い塊へと集めた。
勇者に運ばせていた物、それは昨日の内に掻き集めていた砂鉄の塊……つまり鉄の塊だった。
「あつまった〜」「鉄とかす〜」「かためる〜」
そして、集まった鉄を火の精霊術で溶かしてから成形し直す。
「筒かんせ〜い」「弾もできた〜」「そうてんする〜」
1つは巨大な大筒、そしてもう1つはそれに装填する弾丸。
この時点で、相当な量の魔力を持っていかれる。
「敵はどっち〜?」「あっち〜」「こっち〜」
弾丸を装填した大筒の砲口を、空中要塞に向けて固定する。
「ビリビリ〜」「いっぱいビリビリ〜」「もっとビリビリ〜」
そして大筒の中に電流を流し、弾丸に電流を纏わせる。
「じゅんびできた〜」「いつでもふっとぶ〜」「ルーシェもふっとぶ〜」
準備ができた私は、勇者に目線を向けて声をかける。
「ちょっとアンタ!」
「お、俺か!?」
「他に誰がいるのよ!? ……ちゃんと受け止めなさいよ!」
「……おう! 任せとけ!」
その根拠のない返事に、最後は任せるしかないことに、私は苦笑しながら、目線を標的に戻す。
「行くわよ!!」
「はっしゃ〜!」「ふっとばせ〜」「ルーシェもふっとべ〜」
私が弾を放ったその瞬間――すでに私の体は、遥か後方に吹っ飛んでいた。
本当は、重力で体を固定したかったけど、土と雷の同時展開だけで限界だった。
(ああ、死んだかなこれ……)
吹っ飛んで焦点が定まらない視界のなかで、自分でも驚くほど冷静に、私は自身の死を悟っていた。
思えばどうしようもない人生だった。
父親には憎まれ、それを理解しない……いや、認めなかった私は支配することで縛り付け、そして死に追いやった。
そんな罪深い女が、人のために死ねるのだ……これ以上マシな死に方もないだろう。
……が、そう思っていると、なにかが私を強く抱きしめてくれた。
そして背中に強い衝撃を何度も受け、やがて体の浮遊感がなくなると、私は体が地面に着地していることに気付いた。
痛む体をゆっくり動かして振り向くと、私をしっかりと受け止めた勇者が、大岩に激突していた。
「ア、アンタ!? 大丈夫なの!?」
「おう! めっちゃ痛かったけど平気だ! それよりも見ろよ! 要塞が落ちたぞ!」
そう言って彼は、空中要塞があった方に視線を向けた。
私は釣られて視線の先を見ると、何本もなぎ倒された大木の奥……私がいた丘の向こうで、要塞は完全に崩壊して、地面に墜落していくところだった。
実験が成功したことに安堵し、私は改めて勇者に抱きしめられていることに気付いて、離れるように言おうと顔を向き直すと彼は私に微笑んだ。
「ルーシェ! がんばったな! すごいぞ!」
その笑顔に、私の中で何かが高鳴った……
この笑顔をいつまでも見ていたい、そのためなら何でもできる。
私はそう思いながら、彼の微笑みをいつまでも見つめてしまった。
「……どうした? どこか痛むのか?」
彼が私の気持ちなんて知らずに、体を気にしてくれる。
そんな彼に私はちょっと意地悪に、彼の胸の中でうなだれるようにし、小さくつぶやいた。
「……えぇ……最悪よ……」
彼の胸の鼓動を聞きたかったのに、私の鼓動がうるさくて、何も聞こえなかった……
「クロードさん? 終わりみたいですよ!」
「ああ、そうみたいだな……」
俺たちはルーシェの記憶を見終わり、彼女の中にある物を確信した。
「ルーシェさんは、父親に愛されたい一心で、精霊術を学んだのに……それが逆に、父親からの愛を遠ざけてたんですね……」
「胸糞悪い話だ……!」
「そうですね……ですがルーシェさんは、強制的に愛される方法を見つけてしまい、それを父親に使ってしまったのは、悲劇と言っていいのでしょうか? ……私にはわかりません……」
「……そうだな、使わなければルーシェは死んでいた……」
「そして次は、クロードさんへの愛が暴走しています! どうされますか? 戻ってすぐにロードしなおせば、やり直せますよ?」
セレーネの言葉はもっともだろう、だが俺は拳を強く握りしめて答えた。
「セレーネ、ルーシェは泣いてたんだ……俺が泣かせたんだ……それをやり直すなんて、お前が許しても俺が認めない!」
俺の言葉に、セレーネがニヤリと微笑んだ。
「やっぱりクロードさんは勇者ですねぇ! 行きましょう! ルーシェさんが待ってますよ!」
「ああ! 待ってろよ、ルーシェ!」
ルーシェの元へ戻るために、俺がセレーネの言葉に応えると、視界は完全な白で覆われた……
【スキルの使用が終了しました。発動地点に移行いたします】
――ルーシェ編 早鐘は、いつまでも鳴り響く 完――
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ときめいてるのに、「悪くないわね」とか言って、ツンデレすまし顔するお姉さんが大好き侍が通ります。
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▼次回予告
『アナタの誓いを胸に……』
明日 21時 投稿予定です!!




