ルーシェ編 天才の日常
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ルーシェ
【天才の日常】
お楽しみください。
――ルーシェの記憶 ??? ――
真っ白になっていた視界が、徐々に晴れてくる。
そこは窓もなく薄暗い部屋で、壁に架けられたロウソクの灯りで、なんとか部屋の様子が確認できた。
しかしそこは、俺の記憶にない場所だった。
「ここは……どこだ?」
その言葉に、セレーネが俺に応えてきた。
「まぁトラウマなんて、人格形成前の悲劇から生まれるでしょうからねぇ……クロードさんの知らないところに飛んでも、おかしくないですよ!」
「……そうか、確かにそうだな……」
セレーネの言葉に納得した俺は、もう一度周囲を見渡す。
すると暗闇の奥、部屋の中央に1人の少女が、床に這いつくばるようにいるのが見えた。
「……ここは、こうして……でも、これが……むずかしいよぉ……」
少女はなにかをつぶやきながら、床に文字を書いては消して、書いては消してを繰り返していた。
「クロードさん……おそらくあの子が……」
「ああ、ルーシェだ!」
精霊術に精通していない俺でも、肌で感じ取れる。
普段ルーシェは生き物や物に影響が及ばないよう、魔力を抑え込んでいるらしい。
俺はそのことに『へぇ、そうなんだ~』くらいの感想しか持っていなかったが、今ならわかる。
目の前の少女は、俺の目でもハッキリ見えるほどの、濃密な魔力を体中に纏っていた。
『ギィィィ……』
ルーシェの魔力に圧倒されていた俺は、不意に開いた扉の音に反応して振り向く。
幼いルーシェも、ビクリと肩を震わせて立ち上がった。
扉の向こうから、厳格な雰囲気を漂わせた男が入って来た。
その男はルーシェに目線を移すと、手のひらの上に火を灯して、気怠そうに口を開いた。
「時間だ、結果を見せてみなさい」
「……はい、お父さま……」
男の言葉に、ルーシェが返事をすると、部屋の中央で精霊術を発動した。
ルーシェの周囲を漂っていた魔力が、規則的に動き出し、足元に集まる。
よく見ると、ルーシェの足元には土の塊があり、だんだんと形を変えて、人の形を形成し始めた。
そして、完全な人型の塊になった土人形を、ルーシェが拾い上げると、男の元に駆け寄って差し出した。
男はそれを受け取ると、出来栄えを確認した。
「……いいだろう、では次は歩かせてみろ」
その言葉に、ルーシェはぎこちなく意見した。
「でも、その……歩かせるには、強度が足りなくて……」
「……なに?」
「ご、ごめんなさい! でも、もっと粘土みたいな土なら……」
「言い訳はいらん! ……明日また来る、それまでに歩けるようにしろ!」
男はルーシェを怒鳴りつけると、部屋から出るために扉に手をかけていた。
「お、お父さま!」
「……なんだ?」
「そ、その……お腹が空いて……」
「……ちっ……」
そう言って男は、扉の外に置いてあったパンと皮袋をルーシェに放り投げた。
「ではな……」
「あ、あの!」
「……なんだ? まだなにかあるのか?」
男は何度も呼び止められたのが気に食わなかったのか、ルーシェを睨みつけながら問いかけた。
「その、歩けたら……ほ、褒めてもらえますか?」
「……はぁ、結果次第だ……」
男はため息を吐きながらルーシェに答え、部屋を後にした。
そしてルーシェは、放り投げられたパンと皮袋を拾って、部屋の中央に戻った。
「よかった、今日はお水ちゃんと入ってる! お父さま、前は半分しか入れてなかったから、喉カラカラだったんだぁ!」
ルーシェは独り言を言いながら水を飲み、パンを食べ始めた。
「あれが食事って言えるのか?」
床に放り投げられたパン、皮袋に注がれただけの水……そして、それを嬉しそうに口にする幼いルーシェ。
その光景の全てに、俺の体は怒りで震えているのを感じた。
「典型的な虐待ですね……おそらく魔術を極めるための修行をさせてるのでしょうが……それに幼いルーシェさんが、疑問さえ抱けていません……おそらく、物心がついた頃からずっと、こんな生活を強いられてるのではないでしょうか?」
「物心がついた頃から? それにルーシェはなにも感じてないのかよ!?」
「……それが子供の見える世界ですよ……どんなに酷い親でも、褒めてほしいから上を見上げてる……だから、自分の世界の狭さに気付かない……だって、見上げた親の後ろに映る空はとても広いんですから……」
俺たちが、幼いルーシェの現状を憂いていると、彼女は食事を終えて、また独り言を始めた。
「ごちそうさまでした! でね! やっぱり歩けないと、お父さまが褒めてくれないから、どうしよう?」
俺は不安を覚えて、セレーネに質問していた。
「なぁ、アレって変なのが見えちまってる……とかじゃないよな?」
「違いますよ……ルーシェさんの周りを、よく見てください」
セレーネの答えに、俺は従うようにして、ルーシェの方に視線を戻してじっと彼女を見つめていると、淡い光の塊が見えた。
1つ、2つ……いや、もっと大量に、大きさの異なる光の塊がルーシェの周辺に浮いていた。
「あれは……なんだ!?」
「精霊ですよ……それも、尋常じゃない数の……」
そう、ルーシェは独り言など言っていなかった。
ずっと自身の周囲にいる、大量の精霊たちに対して話しかけていたのだ。
「クロードさん、人間は魔力を生み出すことができません……ではなぜ、ルーシェさんは体中に魔力を纏っているのか? それは魔力を与える存在が近くに、それも大量にいるからです……」
俺はセレーネの説明を背中で聞きながら、目の前の少女を見つめていた。
「えぇ〜、できるかな? とっても難しいって聞いたよ! うん、本当!? じゃあ一緒にがんばろうね!」
そう言ってルーシェは、精霊たちと楽しそうに笑顔で話していた……
次の日、彼女は男の前で、見事に土人形を歩かせていた。
形成した土人形に水の精霊術で水分を含ませることで粘度を高め、強度を改善していた。
つまり、2つの異なる精霊術を同時に使ったのだ。
すると、セレーネが険しい表情で話しだした。
「クロードさん……ルーシェさんは、確かに天才ですね……でも、誰もがそれを純粋に喜ぶとは限らないんですよ……」
「それって、どういう……?」
セレーネの言葉の意味を、俺が理解できずにいると、ルーシェが男の前へ嬉しそうに駆け寄っていた。
「お父さま! 言われた通りにできました! 褒めていただけますか?」
その問いに男はなにも言わず、彼女の頭に無造作に手を置いた。
「えへへ、ありがとう、お父さま!」
少女は撫でられることもなく、ただ置かれているだけの手を、とても嬉しそうに喜んでいた。
そして男は、小さく彼女に向かってつぶやいた。
「忌々しい……」
その声が聞こえていないのか、ルーシェはただ、満面の笑みで男に微笑み続けていた……
――ルーシェ編 天才の日常 完――
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
少し私なりの解釈が出てしまうセリフもありましたが、ルーシェの過去編をどうぞ心を痛めながらお楽しみください。
本作を気に入った!続きがちょっと気になる!【人の心とかないんか?】ってなったら
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▼次回予告
『無垢な少女は、無邪気に狂う』
明日 21時 投稿予定です!!




