ルーシェ編 契約書
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ルーシェ編
【契約書】
お楽しみください。
――セレンディア城 西の塔 リビング――
ルーシェの慟哭が部屋中に響き渡ったあと、彼女が静かにポツリと喋り出した。
「ごめんなさい……もう寝るわ……ベッド、借りるわね……おやすみなさい……」
「あ、ああ、おやすみ……」
そして彼女は、リビングを後にして、寝室へと向かってしまった。
俺は、その後ろ姿を無言のまま見送ると、少ししてから大きく息を吐き出して、テーブルに突っ伏した。
俺は体勢を変えるのも億劫に感じ、その姿勢のままセレーネを呼び出した。
「セレーネ、聞こえるか?」
「はいはい、聞こえてますよぉ! いやぁクロードさん、綺麗に地雷を踏み抜きましたねぇ〜、あっぱれです!」
彼女の茶化しを無視して、俺は体を起こすと、セレーネに質問した。
「地雷? って、要は根底にある何かってことだよな?」
「……あぁ、そうですね! 地雷を踏むってのは、誰にでもある、簡単に触れてほしくない部分に不用意に触れることです! まぁ今回はその認識でもいいと思います」
「それで出てきたのが、この契約書の束ってことか……」
そう言って俺は、渡された契約書に目を通した。
『寝るときは一緒・朝はおはようの挨拶をする・朝食は一緒に食べる・出かけるときは一緒、もしくは見送りの挨拶をする・出かけるときは手を繋ぐ、もしくは腕を組んで出かける・仕事に行くときはお弁当を持って行く・お弁当の感想は毎回言う・1日5回は愛を伝える、または抱きしめる・5日に1回は一緒の時間を過ごす・夕食は一緒に食べる・お互いのことは名前で呼ぶ・お風呂は一緒に入る・寝る前に一緒に過ごす時間を作る………………………………夜の営みは必ず合意の上で行う・我慢ができなければ相談する・上記の内容を守れない場合は、事前の許可を得る・浮気したら死と魂の消滅をもって執行する』
「なんか、最後の方……すげぇこと書いてあるんだけど……」
「そうですねぇ〜、乙女な気持ちで書き出して、ちょっと大胆な気持ちも出ちゃったけど、最後にヤンデレな本性が剥き出しの3進化○ケモンみたいですねぇ〜」
「よくわからんが、もうこれ以上は出てこないってことだな……」
「いえ、あと1回……進化することができます」
「……何……だと……!?」
本気なのか冗談なのかわからないセレーネの発言に、俺はただ振り回されるだけだった。
「正直、わかりませんよ! ダイ○ックスになるかもしれないし、【BAN解】するかもしれません!」
「すまん! そろそろ本当に何言ってるか、わからないんだが!?」
「……すみません、今回心なしか出番が少ない気がして、ここぞとばかりに、はしゃぎ過ぎました……」
「そ、そうか……」
俺はまた違う疲れを感じて、もう一度大きく息を吐いて、改めてセレーネに質問した。
「こんな契約書を作るって、どんな心境なのか、お前にはわかるか?」
「……うん? クロードさん、わからないってことですか?」
俺の質問に対して、セレーネは意外という反応をして、俺に問い返してきた。
「いや、わからないから聞いてるんだが……」
「はぁ……いいですかクロードさん! 契約書で縛るなんてする子は、だいたい自己肯定感が低いんですよ! あっ! これは個人の意見です!」
「お、おう……」
「そして! この契約書! ちょっとメモか何かありますか?」
セレーネの問いに俺は、隅にあるチェストの上にあるメモ帳を彼女に渡した。
「どもども、でもって、契約書の内容をこう書き換えて……はい読んで!」
そう言ってセレーネは、メモ帳を俺に押し付けてきた。
俺はそれを手に取り、メモ帳の内容を確認した。
『寝るときは一緒に寝たい・朝はおはようを言ってほしい・朝食は一緒に食べたい・出かけるときは一緒がいい、もしくは見送りの挨拶をしたい・出かけるときは手を繋ぎたい、もしくは腕を組んで出かけたい・仕事に行くときはお弁当を作るから、持って行ってほしい・お弁当の感想は毎回教えてほしい・1日5回は愛を聞かせてほしいし、抱きしめてほしい・5日に1回は一緒の時間を過ごしたい・夕食は一緒に食べたい・お互いのことは名前で呼びたい・お風呂は一緒に入りたい・寝る前は一緒に過ごす時間を作ってほしい………………………………夜の営みは、私の覚悟を待ってほしい・我慢ができなければ相談してほしい・約束を守れないときは言ってほしい・浮気は絶対にしてほしくない』
「……だいぶ、印象が変わったな……」
つまりこれは、彼女の願望を書いただけの、メモ書きだ。
それを『契約書』なんて大袈裟に言う物だから、勘違いしていただけだった。
「わかりましたか? ルーシェさんの抱える物は、人に何かを求めても叶わないことへの、恐怖や不安がキョダイ○ックスしただけなんですよ! もしくは、ホ○ウ化したとも言うかもしれません!」
「なぁ、そろそろ怒られると思うからやめような? 誰にかは知らんが!」
「すみません……この後の出番があるのか、不安になったのでつい……」
「爪痕を残そうとするな! ……けど、ここまでわかってるなら【記憶回想】を使う必要性があるのか?」
「それはクロードさん次第ですよ!」
「俺、次第?」
「はい! 普通の人は、今のその人から理解するしかありませんが、クロードさんは違います! 過去も知ってから向き合うのか? 過去を知らずに向き合うのか? 決めるのはクロードさんです!」
セレーネはそう言うと、肩をすくめた状態で、言葉を続けた。
「まぁ! 私のことを聖書や口伝だけで、理解したような口をきかれたら、激おこプンプン丸ですがね!」
彼女のふざけた言い方はともかく、言っていることは的を射ていた。
契約書の内容も、勝手に曲解して理解したつもりになっているだけで、ルーシェの本質にまったく触れていない可能性すらあった。
そんな状態で彼女に何を言っても、なにも響かないどころか、完全に心を閉ざして、姿を消してしまいかねない。
「……わかった! やろう! ルーシェをもっと知るために!」
俺はもう一度、決意を固めて、セレーネに宣言した。
「そう言ってくれると信じてましたよぉ〜、じゃあ今から行くんですね!?」
「……いや、それはやめておこう……」
「へっ? なぜ!?」
「……時間と場所を考えよう……」
そう……ルーシェは寝室にいて、無防備な姿で寝ているかもしれない……そう思って俺は、冷静に! いたって冷静な判断を下したのであった……
「……チキン……」
――ルーシェ編 契約書 完――
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
誰もが一度は考えるでしょう……俺だけの卍……ka……
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▼次回予告
『絡まる糸を解くために……』
明日 21時 投稿予定です!!




