ルーシェ編 猫のように、期待は裏切られる
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ルーシェ編
【猫のように、期待は裏切られる】
どうぞお楽しみください。
――セレンディア城下町 大通り――
俺は、ルーシェの後を追うようにして、商家街を抜け、大通りに出た。
そこは、屋台や露店が所狭しと並び、商家街とはまた違った賑わいを見せていた。
「相変わらず、ここは騒がしいわね!」
「そうか? 俺はこっちの方が好きだぞ!」
ルーシェが大通りの騒がしさに苦言を漏らしていたが、俺はこっちの方が性に合っているのか、気分も上がっていた。
「まあ、見て回ろうぜ! ルーシェは屋台飯って食べたことあるか?」
「……ないけど」
「マジか!? じゃあ定番の肉串からな!」
「あっ! ちょっと!」
俺は、ルーシェの手を取り屋台の群れのなかへと走り出した。
彼女と行動してわかったが、俺とルーシェとの間には距離がある……
ツンデレなせいもあるかもしれないが、好きな相手なら仲良くなりたいと思うのが普通だ。
だがルーシェには、その当たり前な行動がほとんど見受けられない。
だから俺が、強引にでも距離を縮めないと、この関係は平行線のまま終わりを迎えるだろう。
「親父! 肉串2つくれ!」
「あいよ! 2つで銅貨12枚ね! 兄ちゃん、えれぇべっぴんさん連れてるなぁ、彼女さんかい?」
「ああ、結婚の話も出てるぞ!」
屋台の店主の質問に、俺が答えると、ルーシェが慌てたように反応した。
「なっ!? アンタなに言ってんのよ!」
「なにって、本当のことだろ?」
「そ、そうだけど……」
「なんだ、べっぴんさん? もう兄ちゃんのこと"アンタ"呼びなのか? こりゃあ、兄ちゃん尻に敷かれるなぁ!」
「そうなのか?」
店主の話に、俺はルーシェの方に振り向きながら、彼女に聞いてみた。
「し、知らないわよ! ばか!」
そう言ってルーシェは、明後日の方を向いてしまったが、ちゃんと手は握ったままだった……
(爪……めっちゃ食い込んでるぞ……)
「はっはっ! ほれ! 肉串2本、お待たせ!」
「ああ、ありがとう!」
俺は、店主から肉串を片手で受け取ると、ルーシェに差し出した。
「ほら、1本食べろよ!」
「……ありがとう」
そう言ってルーシェが、片手で肉串を受け取ると、俺たちは歩きだした。
「食べづらいわ……」
「だな! でも美味いな!」
「……そうね……悪くないわ……」
肉串を食べていた俺たちは、その後も屋台で買い食いを繰り返しながら、大通りを歩いていた。
その間、2人が手を離すことはなかった……
――セレンディア城下町 喫茶店"リリテオ"――
大通りを往復して歩き疲れた俺たちは、落ち着いた雰囲気の喫茶店を見つけて、休憩することにした。
猫をモチーフにしたその店は、落ち着きのある色合いのなかに、猫の装飾がさりげなくあしらわれていて、どこか可愛さも感じられた。
俺たちは、注文を先に済ませると、奥の方にあったソファとテーブルの席に座った……
ここまで一切、手を離さなかった俺たちは、向かい合う座り方ではなく、隣同士で座っていた……
「あのぉ、ルーシェさん?」
「な、なによ?」
「いや、その……なんで隣に座ってるのかな、と思いまして……」
「し、仕方ないじゃない! 手が離れなかったのよ!」
「そ、そっかぁ、じゃあ仕方ないかぁ……」
俺が、ルーシェの謎理論で無理やり納得していると、目の前の席にセレーネが座って語りだした。
「いますよねぇ〜、こういうカップル! カップル座りって言うらしいですけど、なんで公共の場でカップル座りするとあんなに浮くんですかねぇ〜」
(よくわからんが、お前的に嫌いなことはよくわかった!)
そのとき――セレーネの表情が険しいものになった。
「はぁ!? ドチャクソ好きですが? カプ厨的にはぜんぜんアリと言うか、もっとやれって思うんですが? 私は公共の場でやると浮くことを憂いていただけですが? もちろん私の一個人の見解ではありますが? それともクロードさん的には……」
(わかった! すまなかった! ごめんなさい!)
俺は、女神にひたすら謝ってしまった。
するとそのとき――
「にゃ、にゃ〜ん!」
俺の隣から、聞いたことのない声が聞こえ、思わず振り向いてしまった。
そこには、ルーシェが床に向かって、なにかに手を伸ばしている姿があった。
彼女の視線の先を見ると、そこには黒くて大きい猫の姿があった。
(えっ? この店、猫がいるのか?)
そう思って驚いていると、先ほどの声が聞こえた。
「にゃ〜……にゃ〜ん……」
俺の視界のすみで、女神がおもわず鼻血を噴き出して倒れるのが見えた。
そしてルーシェの伸ばした指先を、黒猫がクンクンと軽く嗅ぐと、頭を押しつけてきた。
それに彼女は、表情をパァッと輝かせたが、黒猫はすぐに店主のいるカウンターへと戻って行った。
その様子をルーシェが残念そうに見送ると、彼女はやっと俺の視線に気付いた。
「な……なによ?」
「いや、本当に可愛いものが好きなんだなー、と思って……」
「い、いいでしょ! べつに! ああいう生き物は打算がないから気軽なのよ!」
そう言って彼女は、不貞腐れたようにそっぽを向いてしまったが、手は離さないでいた……
俺は、そろそろ本題に入ろうと思い、ルーシェに質問した。
「ルーシェ……俺がお前を選んで結婚したら、どんな結婚生活にしたいんだ?」
少し直球過ぎたかとも思ったが、彼女にはどうせ回りくどく言っても、すぐに勘付かれるのだから、この方が早いと思った。
だが、俺の期待とは裏腹に、そっぽを向いたまま、素っ気ない返事をルーシェにされてしまった。
「べつに……特にないわよ……」
「えっ?」
「特にないって言ったの! どうせ、選ばれないだろうし、自分でもなんで立候補したのか、不思議に思ってるくらいよ!」
「選ばれないって、わからないだろ?」
「……変な期待は、したくないのよ……」
そう言って、俺の手を握るルーシェの手が、すこし強くなるのを感じた……
「でももし……もしだけど……アンタが私を選ぶことがあったら……」
彼女は、そっぽを向いていた顔を少しだけ戻し、俺を視界の片隅に映しながらつぶやいた。
「……夫婦になる書類にサインしてくれたら、それだけでいいわよ……」
そう言って彼女はまた、そっぽを向いてしまった……
それから俺たちは、注文した紅茶を飲み干すと、どちらからともなく席を立ち上がり店を後にした。
「まぁ、それなりに楽しかったわ!」
そう言ったルーシェは、今までずっと握っていた手を、自ら解いた。
「もういいわよ! 明日から2人の方に行きなさい」
「はっ? なに言ってるんだ?」
俺はルーシェの急な発言に戸惑い聞き返す。
「だから、私はもう十分楽しんだから、次こそあの子たちのところに行ってあげなさいよ!」
「そんな、もう終わりみたいじゃないか!」
彼女の言葉は、べつの人生を歩もうとする覚悟を決めたものだった。
「言ったでしょう? 変な期待は、したくないの……」
そう言ってルーシェは、どこか儚げな表情をしながら俺を見つめていた。
彼女は最初からそうだった。
彼女は、クレスの頑張りを俺に説き、イリーナの助力のありがたさを俺に語っていた。
じゃあ、お前自身は?
お前は自分がしたことを、ほとんど話さずに、2人のことばかりで、どこか一歩引いているばかりだった……
だから、俺が踏み込む必要がある!
「いや、ルーシェ……まだ終わりじゃない!」
「はぁ? なに言って……」
「これから、ウチに来ないか!」
「……アンタ、なに言って……」
「泊まってっていいぞ!」
「…………………………へっ?」
俺はルーシェを帰さないことにした……
――ルーシェ編 猫のように、期待は裏切られる 完――
最後までお読みいただきありがとうございます。
猫に向かって鳴きまねをするお姉さん……
最高っすよね!?
本作を気に入った!続きがちょっと気になる!いつかこのシーンをアニメで!!ってなったら
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▼次回予告
『その嘆きは、雷鳴のように轟く』
明日 21時 投稿予定です!!




