3話 そして、地獄の門は開かれた
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3話『そして、地獄の門は開かれた』
どうぞ、お楽しみください。
――王都セレンディア 王城――
何事もなく馬車は王都セレンディアに着いた。
俺の領地から馬車で3〜4時間の距離にある、王都セレンディア。
はるか昔からあるこの国は、魔物や周辺諸国との争いが絶えない地だった。
しかし、何代目かの国王が鬼神の如き強さで、周辺諸国を打ち倒し、領地を大幅に拡大した過去を持つ。
そして、俺が勇者として見いだされ、訓練に明け暮れた場所でもあった。
馬車は、検問所の前にできた列の横を通り過ぎる。
衛兵は馬車に装飾された王家の紋章に気付いたのか、馬車を改めることなく、敬礼しながら俺たちを見送った。
「……さすがは王家の馬車だな」
俺は自分の受けた待遇に、こそばゆい感覚を覚えながら、窓の外の城下町に目を向ける。
昼前の城下町には、すでに果物や串焼きを売る屋台がひしめき合い、活気に満ちていた。
俺は串焼き屋を眺めながら、冒険での出来事を思い出していた。
(なつかしいな、屋台で肉を買ったらクレスに『無駄遣い』だと叱られたな)
そう思い出にふけっていると、街並みは徐々に静けさを見せ、建物もしっかりした造りのものが増えてきた。
恐らく貴族街への通りに差し掛かったのだろう、そのときハンスが俺に声をかけてきた。
「勇者クロードさま! もう少しで城に着きますが、どこか寄り道したいところはありますでしょうか?」
馬車の中で退屈にしていた俺を気遣ったのか、ハンスは寄り道の提案を投げかけた。
「ありがとう……だが大丈夫だ、そのまま進んでくれ」
(寄り道するとルーシェが機嫌悪くするからなぁ)
俺は気にしなくてもいいことを、なぜか自然と考えてしまい、ハンスの提案を断った。
そこでふと、会話が途切れたのをいい機会だと思い、ずっと気になっていたことを、伝えることにした。
「それとハンス……その『勇者』と呼ぶのはよしてくれないか?」
「しかし! 貴方さまは、平和をもたらしてくれた英雄で……」
「頼むよ、その呼ばれ方は、あまり好きじゃないんだ……」
俺はハンスの言葉をさえぎるように本心を伝え、重ねて願いを伝えた。
「……わかりました、クロードさま」
「ありがとう……」
『勇者クロード』――最初は陛下からいただいた、名誉ある称号だと思っていたが、魔王を倒した今では、何を企んでいるかわからない貴族たちからの『蔑称』に感じていた。
(彼とは、長い付き合いになりそうだからな……機会があってよかった……)
そう安堵していると、いつの間にか貴族街も通り過ぎ、整った並木道に入った。
これを過ぎればセレンディア城に着くと思うと、心なしか喉に渇きを感じ、緊張していることに気付いた。
(飲み物くらい、買いに寄らせてもらえばよかったな……)
おそらく城からは、こちらの様子は、見えているだろう……
引き返せなくなった後悔と共に、俺はゴクリ、と喉を鳴らしていた……
――セレンディア王都 城門前――
長い並木道を通り過ぎ、城門に到着すると馬車が停まり、ハンスが御者台から降りる音が聞こえた。
そして彼が馬車の扉を開け、俺に目線を向ける。
「クロードさま。長旅お疲れさまでした。どうぞお降りください」
「あぁ……ハンスもご苦労だったな」
俺はハンスに返事と労いの言葉をかけて、馬車から降りる。
『セレンディア城』……初めて見たときはまだ幼く、その大きさに感嘆の声を出して興奮した。
そして、凱旋のときは、やっと帰って来たと、喜びの声が上がった場所……
だが今は魔王城の前に立ったときと同じ、緊張と恐怖に襲われる気分だった……
「クロードさま、行きましょう!」
ハンスは馬車を馬丁に預けると、俺をそのまま案内するために、歩き出した。
(ハンスよ……君は真面目で、段取りよく動いて、とても優秀なのだろう……だが今は覚悟を決める時間を作ってほしかったよ……)
俺は彼の人柄を褒めながらも、それゆえに起きた不満を、心の中でつぶやくのだった……
ハンスに案内される道中、巡回中の兵士や掃除中のメイドとすれ違うたびに、壁際に寄って敬礼したり、頭を下げたりして、俺たちが通り過ぎるのを待たれる。
なかには、幼い頃世話になったり、対等に話していた者もいたが、今では雲の上の人扱いだ。
仕方ないとは言え、少しさみしい気持ちを覚えていた……
そして、ハンスについて行くなかで、見知らぬところを歩いていると思った俺はハンスに声をかけた。
「ハンス……俺は今どこに向かっているんだ?」
「はっ! 王専用の談話室に向かっております!」
「なっ……!?」
(どういうことだ? 貴賓室ならまだしも談話室だと? それほど政治的に、やばい見合い相手なのか!? 俺はいったい誰と見合いさせられるんだ?)
俺が色々と思いを巡らせていると、通路の先から予想外の人物が現れ、いち早く気付いたハンスは、いつの間にか壁際に移動して敬礼していた。
「待っていたぞクロード! ここまでの道のりご苦労であったな!」
「陛下……!? 護衛も連れずに、なぜこのようなところにいらっしゃるのですか!?」
そう、この城の主にして、セレンディア国領を統べる国王、『マグナス・セレンディア』その人であった。
後ろに流すように整えた短い白髪と短くそろえた白髭、豪華だが、動きやすさを重視した服装、そして歳を重ねているとは思えない、服の上からでもわかる、体つきの良さと、身にまとう雰囲気が王たる風格を放っていた。
「いやなに……貴公の来るのが楽しみで執務が手につかなくてな……さぁここからは私が案内しよう! ハンス・ポーターよ、ここまでの案内、ご苦労であったな!」
「は、はは、はいっ! とんでもございません! 失礼いたします!」
そう言ってハンスは、強張った表情をしたまま、その場を立ち去った。
「はっはっはっ! どうだクロードよ? おもしろい奴だろう?」
「えぇ、あがり症なのが気になりますが、とても真面目で優秀な男だと思います」
「ふむ、ならまた貴公の案件ができたときは、あの者に頼むとしよう」
(すまん、ハンス! 心労で倒れてくれるなよ!)
陛下との短い談笑を終え、ハンスへ心の中で詫びると、陛下に案内されながら、見合いのことを聞くことにした。
「ところで陛下、今日のその……見合いの件ですが……」
「おぉ! 気になっているようだな? 安心しろ! 手紙にも書いたように、貴公がよく知った相手だ! 悪いようにはしない」
「はぁ……」
俺はまったく安心できない心境であった。
しかし、これ以上の質問は、不敬だと思いあきらめて陛下の後をついて行くことにした……
――セレンディア城 談話室前――
陛下の案内を受け、談話室の前に着く。
「着いたぞ! ここが目的の部屋だ」
そこは、いかにも王族専用の部屋だと思わせる重厚な扉があり、その両横には全身を甲冑で包み、ハルバードを手にした近衛騎士が直立不動の構えで佇んでいた。
「ここだクロードよ……さぁ入ろうか」
そう言うと陛下は、俺を談話室の扉の前に立たせた。
近衛騎士が俺に向かって一礼し、扉の引き手に手をかけると、重厚な扉がゆっくりと開いた……
――そして、地獄の門は開かれた 完――
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
扉の向こうにいるのは、一体誰なのか?
▼次回予告
4話『やり直し勇者誕生』
この後すぐにお読みいただけます。




